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 一番高いところまで登った太陽が俺達を照らしていた。

 場所は今朝、俺がいた広場。今朝と同じように噴水の石のところに腰をかけていた。朝と違うのは隣に少女がいるということ。

 俺はそっと彼女の方を見た。


「はぁ、まさかトールが本当に一文無しだったとはね」


 彼女は深いため息をついた。彼女の名前はクラメル。俺はメルと呼んでいる。彼女と出会ったのはギルドだ。冒険者登録のためのお金がない俺にお金を貸してくれた、優しい心の持ち主だ。


「ほんとにごめん」


 何故こんな所にいるのかと言うと、お金が無くて宿を追い出されたからだ。メルが。

 俺に全財産である銀貨五枚を貸したメルは、俺に宿代を払って貰おうとしたのだ。宿代は食事なしで一泊、銅貨五十枚だ。もちろん俺にそんなお金はなかった。


「お金が無いって言っても、少しはあると思うじゃない……」


 さっきから泊まる場所を失ったメルがブツブツ言ってる。ほんと、ごめんね。


「ま、まだ諦めるのは速いよ。探せば泊めてくれる人もいるかもしれないし……」

「そんな人、いないわよ」


 ダメだ、メルがネガティブになっている。ここは俺が引っ張っていくしかない! 俺はどうしようかと周りを見た。


「ん? なんか俺たち見られてないか?」


 ──スキル『気配感知』を

獲得しました──


 顔を上げた俺は周囲から視線を集めていることに気がついた。どうしてだ? そう思いメルを見る。メルはきめ細かい金髪が似合う美少女だ。だから、視線を集めるのも、しかたない、のか?


「たぶん、トールの髪ね。ここら辺では珍しいもの」

「俺の髪かぁ」


 確かに異世界の人で黒髪は見たことがない。赤や青や金などカラフルな色ばっかりだ。黒髪が目立つのもしかたない。


 ──スキル『隠密』を獲得しました──


「おっ」

「どうかしたの?」


 突然声を出した俺にメルが怪訝な顔を向ける。『隠密』か、試してみよう。


「俺から目を離さないでくれ」

「それってど──」


 俺は立ち上がり人混みに紛れた。メルが何かを言っていたが聞こえなかった。まぁ、後ででいいや。

 俺は『隠密』を発動させる。すると、メルがポカンとした後俺を探し始めた。キョロキョロと俺を探しているのが可愛い。

 手を振ったりしても気が付かないらしい。


「どうだった」


 俺は少ししてからメルのもとへ戻った。メルはプルプルと震えながら下を向いている。俺のスキルにそこまで感動してくれるのは素直に嬉しい。


「うぅ」


 俺はメルの様子がおかしい事に気がついた。


「ど、どうした?」

「どうしたじゃないわよ! 急に変なこと言い出したと思ったらどっか行って。逃げたのかと思ったじゃない!」


 メルの拳が俺の腹にめり込む。


「うぐっ」


 地面に膝をつき見上げたメルちゃん瞳には涙が溜まっていた。俺はメルを傷つけてしまったらしい。


「ごめん、そんなつもりはなかったんだ。逃げようとかそんな、ただ新しいスキルを試したくて……ごめん。ちゃんと説明してからやればよかった」


 初めて女の子を泣かせてしまった。その事に動揺して俺は人通りの多い広場で土下座を披露する。


「なによその格好」

「謝る時の格好です」

「そんなの見たことないわ」

「俺の国ではこの格好が最大級の謝罪を意味してます」


 メルと会話をする時も、俺は地面に頭をつけたままだ。


「なら許してあげるわ。だけど、二度と勝手にいなくならないで」

「わかりました。二度としません。ごめんなさい」


 俺は顔を上げた。メルを見てみるとフンっという感じにそっぽ向いて、目を合わせてくれない。今度は俺が泣きそうだった。



 俺とメルは広場を離れて、お店が並ぶ通りを歩いていた。チラチラと通りにいる男達から視線を感じるのは気の所為だろうか?


「あのメルさんや、そろそろ手を離して頂けませんかね」

「嫌よ、また逃げようとするかもしれないし」


 メルに断られると同時に、男達から舌打ちが聞こえた。視線を感じていたのは気の所為じゃなかったらしい。


「逃げようなんて……」


 しかし、メルは離してくれそうにない。俺は吹っ切れることにした。力の入っていなかった右手に力を入れて、メルの手をしっかり握る。


「えっ?」


 メルが驚き俺を見る。周りの男達からまたも舌打ちが聞こえたが無視だ。


「俺も信じてもらえるまで離さないことにしたから」

「そ、それは」


 そんなことをやっている時だった。


「誰かそいつを捕まえてくれ、うちの娘が!!」


 前から少女を抱えた男が走ってきた。どうやら誘拐らしい。こんな時、体術でも使って投げれたらなぁ。


 ──スキル『体術』を獲得しました──


 またスキルを獲得した。頭の中に技のかけ方などが流れ込んでくる。やってみるか。


「どけぇ!!」


 男がナイフを振り回し接近してくる。

 俺はナイフを持った手を掴み、ナイフを奪い取る。その間にメルが少女を奪い返してくれた。そして、俺は男を投げた。背負投だ。


「かハッ」


 男の口から空気が漏れた。


「やるわね、トール」

「スキルのおかげさ」


 気絶した男は動けないように縛っておく。すると、少女の父親らしき人物が追いついてきた。


「娘をありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」


 少女の父親が涙を流しながら感謝を述べる。そんな父親にメルが気を失っている少女を渡す。


「もう、攫われないように注意してくださいね」

「ありがとうございます。そうです、お礼と言ってはなんですが私は食堂をやっているのですが、食べていきませんか? 無料でいくらでも振る舞わせていただきます!」


 父親の言葉に目を輝かせながらメルは俺の方を向いた。


「いいんですか?」

「はい、娘を助けていただいたんです。こんなのじゃあ、足りないぐらいですよ」


 そういうことなのでご馳走になることにした。



 「すみません、こんなお店で」と案内されたお店の外見はお世辞にも綺麗とは言えなかった。お化け屋敷と言われた方が信じられるほど。しかし、お店の中は綺麗だった。イスからテーブルまでどれも新品のように綺麗だった。床に埃などはなく掃除も完璧にされている。


「なんで外側は直さなかったんですか?」


 俺は思ったことを質問した。


「それが、その時ちょうど妻が病気にかかってしまって、お金が足りなくなったんですよ」

「すいません」

「いえ、いいんですよ。妻も今ではすっかり元気ですから」


 そう言って、父親は扉を開けて俺たちをお店の中に入れてくれた。



スキル


『学習』、『翻訳』、『鑑定』、『心話』、

『追跡』


『気配感知』


 自分に向けられる視線などを感知することができる。自分よりも上の相手の気配は感知できない。


『隠密』


 暗い場所や、人混みで見つかりにくくなる。自分よりも上の相手には効果がない。


『体術』


 体術を使うことが出来るようになる。

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