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第九話



 村の人たちから聞いた話によると、いつもと同じように地上で農作業をしていた時、当然スプリガンが現れて襲い掛かってきたのだと言う。

 突然のことに、村の人たちはただ逃げることしか出来ず、結果として村は半壊してしまったと言うことらしい。


 住む家が壊されてしまって、村の人たちは大丈夫なのだろうか……?

 そんな俺の視線に気づいたのか、デルマは豪快に笑って俺の腰を叩く。


「心配すんな。実際、地上の家ってのはそれほど大事じゃない。俺たち〈ノーム族〉は本来地下で暮らす生き物だからだ。幸いなことに畑はほとんど無事だし、これくらいの被害で済んで良かったてもんだぜ!」


 地下か。地上で暮らすのが普通だった俺には、地下で生活する感覚なんて予想すら出来ない。

 だけど、デルマたちにとってはそれが普通なのだろう。


「なんだか不思議……」


 俺の横にいた理乃が呟く。


「なんで?」

「だって、さっきまで戦ってたのに、今は皆笑ってるから」


 そういわれてみると、確かにノーム族の男たちはわいわいと騒ぎながら歩いている。

 あちこちで笑顔が飛び交い、先ほどまでの戦闘の名残など微塵も感じさせないほどの陽気さだ。


「明るい人たちなんだね」

「うん……きっとそう」

「おいヨイチ、リノ、今から地下に行くんだ。お前らも来いよ!」


 デルマに言われて、俺たちはノーム族の男たちの後ろを歩く。

 皆の話を聞くに、どうやらノーム族の女や子供は全員地下に避難しているらしい。

 小柄ながら、ノーム族の男たちはみながみな濃い髭面をしている。だとすると、ノーム族の女性と言うのは一体どんな顔付きをしているのだろうか……。

 

 もしかすると、男と同様に相当濃い顔をしているのかもしれない。小柄なだけに、顔付きによっては人形にように可愛くなるだろうから、何だか惜しい気もする。

 いや、実際に見てみない限り正しいことはわからない。希望を捨ててはいけないのだ。

 

 超美少女の理乃の隣で考えることではないような気もするが、男としてどうしても気になってしまうのだから、男と言う生き物も中々厄介なものである。


「そうだ。ステータスの確認をしてみようか」

「――ステータス……?」

「うん。あの画面ことをさ、レベルやスキルが見られるからそう呼んだらどうかなって思ったんだけど」

「……うん。いいと思う……!」


 理乃の了承を得、俺は指先で頭に触れると言ういつもの動作を実行する。そしてステータス画面が開かれた。


 荻野代一ogino yoiti

 レベル:13(↑9)

 スキル:【見習い剣術】―〈二連斬り〉〈回転斬り〉〈見切り〉〈大岩斬り〉

 武器 :【土斑族のクレイモア+3】

 防具 :

 装飾品:【守護者のアミュレット】


「うわ、レベルが13になってる」


 俺は驚きの声を上げる。スプリガンは強敵だったが、まさかそんなに上がっているとは思わなかった。

 異常なほど上昇した身体能力の原因は間違いなくこれだ。


「……私は10になってた」

「理乃もだいぶ上がったな……。実際に倒した方がレベルが上がり易いのは確か見たいだ。スキルの方はどう? 俺は新しい剣術みたいなのを覚えてたんだけど、実際に使ってみないと詳しいことはわからないみたいだ」

「……呪文が二つ増えてた。〈癒す光〉と〈ディヴァージョン〉の二つ。効果は……」


 言いかけて、理乃は言葉を止める。

 どうしたのかと思い彼女の方を見ると、何だか俺の頬の辺りをじっと凝視している。


「ど、どうかしたの……?」

「怪我、してる」

「え……あ、これか」


 俺の頬には確かに傷があった。恐らくスプリガンの枝がかすってしまったのだろう。血が出ているもののその量は僅かだし、多分放っておいてもなろうと思う。


「こんなの平気だよ」

「だめ……!!」


 理乃はぐいっと俺に顔を寄せ、そして傷口にそっと手をかざした。

 そして彼女は「〈癒す光〉」と口にする。

 

 すると彼女の手が暖かな光を帯び始め、一分もしないうちに俺の頬から傷が消えた。

 綺麗さっぱり、傷跡すら残っていない。


「す、凄い……!」

「……えへん」


 俺が驚くと、理乃は胸を張って自慢げにそう呟いた。


「……凄いけど、どうして呪文の効果がわかったの?」

「ステータスを開いたとき、呪文のことをもっと詳しく知りたいと思ったら、画面に説明が表示されたの」

「理乃……君は天才だ!」

「……えへん」


 再び胸を張る理乃。

 まさかスキルの効果をそんな方法で知ることが出来るなんて……。

 俺はスキルの効果を知らなかったため、【見習い剣術】の効力が何なのかわからないまま戦闘を行うことになってしまった。

 スキルの効果がわかっていれば、もっと効率よく戦闘をこなせたかもしれない。

 が、後悔しても遅いので、今はスキルの効果を確認して見ることにする。


 まずステータス画面を開き、それからスキルについての説明を知りたいと強く念じる。

 すると、スキルの項目だけが画面上に現れ、そしてそれぞれの説明が表示された。


 【見習い剣術】

  □見習いレベルの剣術。レベル上昇に伴い五種の技を覚える。剣の扱いが少しだけ上手くなる。

 〈二連斬り〉

  ■二連続で敵を斬る。

 〈回転斬り〉

  ■自分を軸に、回転しながら周りの敵を斬る。

 〈見切り〉

  ■敵の攻撃を予測する。

 〈大岩斬り〉

  ■岩をも斬り裂く必殺の一撃。

  

 なるほど、と思う。

 剣の扱いが上手くなったように感じられたのは、確かに【見習い剣術】の効果があってのことだったのだ。

 五種の技と言うことは、あと一種で全ての技を覚えることになるのか。

 どれも使えそうな技ばかりなので、それらを上手く戦闘に取り入れることによって、俺はぐっと強くなれそうである。


 そういえば、と思い出す。

 装身具である【守護者のアミュレット】についての説明も見ることが出来るのではないだろうか。

 思い立ったら即行動。俺はすぐさま、装身具の説明が見たいと念じる。


 【守護者のアミュレット】

  □守ろうとする意思に呼応して武器、防具を出現させる。

  

 説明は上記の通りだが、守ろうとする意思と言うのがやはりわかりにくい。

 さきの戦闘でも、俺は理乃のことを守りたいがために、スプリガンとの戦闘を出来る限り早く終わらせようとしていた。

 それも守ろうとする意思であるのではないか。だが、剣は現れなかった。防具にしたって同じだ。


「わからないことも多い、か……」

「……これから知っていけば良いよ」

「うん。それもそうだね」


 前向きな理乃の言葉に、俺は大きく頷く。

 本当に、彼女の心の強さには助けられてばかりだ。


 ノーム族の男たちが立ち止まる。

 どうやら目的の場所についたらしく、皆の先頭でデルマが支持を飛ばしているのが見える。

 だが、辺りは至って平坦な地面ばかりである。入り口になりそうなものは一つも見えない。


 数十人のノーム族たちが地面を囲うようにして並んでいる。

 彼らは地面に手を当て、デルマの掛け声で一斉に力をかけ始めた。

 ごごご、と音がして地面が上に上がり始める。


「……力持ち」


 理乃が横で呟くが、最早力持ちで済む次元ではないと思う。あんなに小さな体をしているのに、いったいどれほどの怪力を備えていると言うのか。

 人は見た目によらない。まさにそれだが、ノーム族が人なのかどうかはよくわからない。


 どうやら地面の一部分が持ち上がるようになっていたようで、それを持ち上げ間に金属の棒を差して固定している。

 現れたのは地下へと続く階段だ。これを下ると、ノーム族の本当の住処へとたどり着けるらしい。


 男たちは次々と階段を下っていく。

 そしてついに俺たちの番となった。デルマが入り口に立っていて、


「さあ入れよ」


 と促してくる。

 ノーム族の身体に合わせて作られた階段の傾斜は酷くなだらかで、一段一段の幅がやけに狭い。

 俺と理乃にとってはかなり歩きにくく、危うく転びそうになる彼女を抱きとめて助ける、と言う役得な瞬間が何度かあった。


 そして地下にたどり着く。

 俺ははっとして息を呑む。


「これは、凄いな……」


 隣では理乃も唖然としている。

 地下であるはずのそこは、眩い光に満ちており、中には岩を掘り出したような形をした建造物がいくつも並んでいた。

 階段の長さからも予測は出来ていたものの、地下世界は相当深いところにあるらしく、天井は見えないほど高い。

 上の部分は光を浴びていないので、暗闇だけが見えるばかりなのだ。

 

「どうだ。凄ぇだろう!!」


 と、俺たちの後ろからデルマが現れる。


「これは正直驚いたよ」

「……びっくり仰天」


 俺と理乃が言うと、彼は満足げに笑い、髭を指先で弄る。


「ノーム族はときおり外に出て家畜や野菜を育てるが、それ以外はほとんどこの地下で暮らしてる。食用のキノコやコケなんかが主食だな。で、凄いのはこの地下空間がノーム族の領土全体にまで及んでいるってことだ」

「それってつまり?」

「とてつもなく広い。端から端まで徒歩だと一週間はかかる」


 あまりの広さに俺は言葉をなくした。

 今見えているものだけでも十分広いのに、それが全てではなくて、その何倍以上もの地下空間が存在しているだなんて、にわかには信じられることではない。


「さて、俺は女房に会いに行こうかな、それと族長のおいぼれにも。後でお前らも顔を出せよ。俺たちの村で一番偉いのが族長だからな。男たちにはお前らのことを説明してあるし、女子供にも伝えとくから、ま、好きに見物してからくればいいぜ」


 そう言ってデルマはさっさと先へ進んでしまう。

 彼に妻がいたのは意外だったが、彼が見るからに愛妻家であることには何ら違和感は覚えなかった。


「じゃあ俺たちも行こうか」

「うん、楽しみ……!」


 目を輝かせる理乃。

 俺も正直ノーム族が地下でどんな暮らしをしているのか、非常に興味がある。

 彼女の手を引き歩き出す。

 

 すると、数歩も歩かないうちに、俺たちの前にノームの男が一人、立ちふさがった。

 目つきの悪い男は俺と理乃を交互に睨みつけている。

 ――俺、何か不味いことをしたのだろうか……?

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