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第三十八話


 

 人通りの少ない裏道を抜けて表通りに出る。そこには様々な人の姿があった。

 派手な服で着飾った人、武器を持った人、ローブで体全体を隠している人、元気よく走り回る小さな子供たち。

 入り口から続く大通りが王宮まで続いている。行き交う人たちと歩調を合わせながら、俺は目的地であるその場所へ向かう。


 豪華な看板が目につく。大勢の人たちがその店に出入りしている。

 出てくる人たちは何かを手にしている。あの店で販売している商品だろうか。

 少し興味が沸いた。


 店内は隈なく照明に照らされている。

 所狭しと陳列されている色とりどりの商品が、その存在感を視覚的にうったえてくる。

 見覚えのある液体の入った小瓶を見て気づいた。

 ここは道具屋である。


 イルナの店よりも三倍ほど大きい。背の高い陳列棚が壁の両サイドに置かれている。俺よりも頭一つ分小さいサイズの棚が、入り口と平行になる形で置くまで並んでいる。

 それらの全てが商品で埋め尽くされている。


 手の平サイズの水晶玉のようなものが置かれている。

 透き通ったその中には、炎が見える。水の流れが見えるものもあるし、雷の輝きが見えるものもある。

 何に使うものなのだろう?

 好奇心を刺激されたが、今は他に用事があるのだと言う事を思い出した。

 もし用事が無かったとしても、一文無しの俺には商品をただ見つめることしか出来ないのだが。


 イルナの店を発展させる。

 そしたらいつか、あの玉のような不思議な物も扱えるようになるだろう。

 そして、それ以上の物も。 

 店を復興させるのはイルナのためだ。だがそれに加えて、このわき立つ好奇心を満たしたいと言う理由も増えた。

 

 俺は珍しいものに眼がない。

 オカルト染みたものに手を出しては、後になって何の効力も持たないそれに愕然とし、自分が騙されたことを知った。

 だがこの世界では、不思議な道具はそれ相応の”力”を秘めている。無限に収納できる道具袋や、魔物の名を知ることのできる指輪。物を透かして見ることの出来る眼鏡。

 もし余裕が出来たら、そんな珍しい物を集めてみたいものだ。


 店を出る。

 今度は寄り道せずに、王宮へと向かう。


 十五分ほど歩いて到着した。

 城の入り口は巨大な門である。それが大きく開かれていて、その隙間から数多くの人々が出入りしている。


「大きいな……」


 ビルのような巨大さではない。高さで言えばそれの方が上だが、なんと言うか荘厳さを感じさせる雰囲気が漂っている。

 決して崩れることの無いような堅牢さ。そこが王の住まう場所であると言うことを、積み重ねられた石材が語っている。


「よし……!」


 若干気後れしつつも、覚悟を決めて中に入る。

 受付だと思われる場所が二つある。左側に一つ、右側に一つだ。正面には扉があるが、その前には兵士が二人立ちふさがっており、完全に閉鎖されている。

 王様がやってきたときだけ開くようになっているのだろう。


 依頼を受けるのはどのカウンターだろうか。

 この場所の利用方法についても誰かから説明を受けておきたい。そう思い視線を巡らせる。


 両サイドにあるカウンターには、それぞれ八人程度の人が座っていて、次から次へと現れる人たちへの対応をこなしている。

 何を話しているのかは聞き取れない。あまりにたくさんの言葉が行き交っていて、耳がそれを聞き分けられないのだ。


 左側のカウンター、その奥にやけに空いている場所がある。見ると、そこに座っているのは髭面で顔の濃いおっさんだった。

 改めて見回してみると、受付業務をしているのは大体が若い女性だった。タイプは違えど、それぞれかなりの綺麗どころである。

 なるほど、と思う。

 並ぶ手間を惜しんでまで美人に対応してもらいたいと思うのは男の性だ。普段なら俺もそう思うが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 あのおっさんからなら詳しい話しが聞けそうだ。


「ちょっといいですか?」

「あ?」


 声を掛けると、不機嫌そうな面で睨まれた。

 これでいいのか受付。

 気にしても仕方ないと自分に言い聞かせ、俺は自分が依頼を請けに来たこと、しかしこの場所を利用するのは初めてで、出来たら詳しい説明を聞かせて貰いたいのだと言う事を彼に伝えた。

 しかし。


「新人か面倒くせぇ、帰れよ」


 返されたのはそんな言葉だった。

 わかったのは、彼が凄く不親切な人間であると言う事実だけである。


「そんなこと言わないで教えてくださいよ。この通り、お願いします」

「嫌だね」

「そこを何とか。ね、格好良いお兄さん」

「……仕方ねぇな」


 今だ嘗て、これほど乗せられ易い男を俺は見たことが無い。

 お世辞に決まってるだろ。

 内心で思いつつ、ありがとうございますと頭を垂れる。


「で、何が聞きたいんだ」

「こっちとあっちじゃ何が違うんですか?」


 おっさん側のカウンターと、逆側にあるカウンターを指して言う。


「こっちは依頼を斡旋し、その達成報告を行う場所だ。向こうは依頼人と話し合い、依頼の期限や報酬額なんかを決める場所。大雑把に言えばこんなところだ」

「受ける依頼はどうやって決めるんです?」

「あそこを見ろ。掲示板に紙が張られてるだろ。あれをこっちのカウンターに持ってくれば依頼を受けられる。受けたい依頼が決まったらなるべく早く持って来い。早い者勝ちだからな」

「なるほど、なるほど」


 深く頷く。

 このおっさん、最初は単なる不親切な男だろうと思っていたのだが、中々どうしてわかりやすい説明をしてくれる。

 おっさんもおだてりゃ何とやら。

 そんなことわざはないのだが。


「実は採集系の依頼を受けたいと思ってるんですが、なにぶん知識が乏しいもので、出来れば採集対象の特徴なんかも教えてもらいたいんですが」

「図々しいなお前」

「お兄さんってほんと格好良いですよね。何と言うか渋いです。男の中の男と言いますか」

「……受けたい依頼を決めたらもう一度来い。詳しく説明してやる」

「ありがとうございます」


 良かった。

 これで何とか依頼をこなすことが出来そうである。


 イルナの道具屋を復興させるためにも頑張らなくては。

 俺は再度、決意を固めた。

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