第二十七話
「これは……!?」
驚きに目を見張る。
理乃も俺と同様言葉をなくしている。
デルマが集合場所にこれなかったことも頷ける。村がこんな状況では来られるはずがない。彼はいまどこにいるのだろうか。それに、他のノームたちの姿も見当たらない。見通しの良かった地下空間だが、今は太い根に阻まれて視界が狭くなっている。
「……何が起きたの?」
「もしかするとだけど、これは〈千年樹のスプリガン〉の仕業かもしれない。正確な大きさはわからないけど、他のスプリガンとは比べ物にならないほど大きいらしいしね」
スプリガンたちが森を抜け出てくることが出来たのなら、〈千年樹のスプリガン〉にだって同じ事が言える。
これほどの惨事を一匹の魔物が仕出かした、なんてことは考えたくも無いが、それが一番当たっているような気がする。
「とにかく、ノームたちを探そう」
「――うん。これは私の出番……!」
理乃の体が白い光を帯びる。唖然として彼女を見ていると、彼女の体が段々と透き通っていく。これが〈霊体化〉なのだろうか。触れようと思って手を伸ばしてみるも、指先は空に触れるばかりである。
「……これなら探し易い」
「でも、離れた大丈夫かな。もし俺たちも離れ離れになったら……」
「大丈夫。代一と私は繋がってる。お互いの位置を知ることは簡単」
〈契約〉と言うのは便利なものである。彼女の場所をすぐに見つけることが出来て、その逆も可能であるなら、俺たちがはぐれる可能性は全く無くなったことになる。
「それなら大丈夫かな。じゃあ理乃、任せたよ!」
「うん……!」
ふわふわと宙に浮かび、木の根をすり抜けて進んでいく理乃の姿を見送りながら、俺は再び地下空間の惨事に目を向ける。
任せる、とは行ったが、彼女に任せきりしているわけにはいかない。
「……〈契約〉の効果は確かみたいだね。不思議だけど、理乃の場所がはっきりわかる」
理乃は凄い速さで動き回り、ノームたちを探している。これなら地下空間を探しつくすのにそれほど時間は必要ないだろう。
俺は木の根を避けて歩き出し、そして目を凝らす。
背丈の小さいノーム族だが、しっかりと探せば見つけられないこともないはずだ。
それよりも、デルマは無事なのだろうか。もし時期族長である彼までも失ってしまえば、この村はどうなってしまうのだろう。
「ん……?」
光る土に照らされて、少し向こうの方に影が見えた。もしかしたらノームたちかも、と思って近づいた俺だが、すぐにそれが間違いであることを悟った。
同時に、俺の姿に気がついた魔物、〈スプリガン〉に群れがこちらに向かって走り出してくる。
俺は【ドラゴンエッジ】を右手に持つ。
黒紫色の刃が怪しく光っている。手に持った感覚だと、前までの剣よりも少し重たく感じられる。
だが、その分振ったときの破壊力が増すと言うのも確かなことだ。用は、使いこなすことが出来れば前よりも強力な一撃を震えると言うこと。
スプリガンは〈深獄〉最下層にいた魔物たちとは違って、俺との実力差を全く理解していないようだった。
正直、かなり弱い部類の魔物なのではないだろうか。しかし、ノームたちにとっては脅威でもあるため、俺が強くなりすぎのかもな、と苦笑いを浮かべる。
「遅いよ」
肉薄してきたスプリガンの腕、二本の枝を剣の一振りで両断する。
がら空きになった胴体に、斜め上からの斬撃を浴びせると、重力に従った上半分の体がズズ、と動き、地面に落ちた。
二体目と三体目は同時に襲い掛かってきて、合計四本の腕が俺へと向かってくる。
〈心眼・極〉を発動させるまでも無く、俺は鋭い軌道を描いてこちらに向かってくる、やけに遅い枝での攻撃を最小限の体の動きだけでかわし、続けざまの二連撃でスプリガンを絶命させた。
襲い掛かってきたスプリガンはこれで最後である。
だが、俺より少しはなれたところに、他よりも大きいスプリガンが一体いて、じっとこちらを睨んでいる。
「〈合体スプリガン〉か……」
二体のスプリガンが合体したその姿。だが今の俺にとっては相手にすらならないだろう。
もしかすると、二体のスプリガンが合わさることによって、その知能も若干上がるのかもしれない。
〈合体スプリガン〉はそのままの状態で俺に襲い掛かってくることはしなかった。
一体、また一体と、次々とスプリガンが集まってくる。そしてそれらのスプリガンは、〈合体スプリガン〉に吸い寄せられるように、その枝を一際大きい固体の身体に絡ませていく。
出来上がったのは、思わず見上げてしまうほどの巨大なスプリガンである。腕である枝の数はもう数えることさえも面倒に思える。それら全てが向かってきたとしたら、少しは手間を取らされそうである。
巨大な太い幹、その樹皮がぺりぺりと剥がれ、醜悪な顔が出来上がる。その顔で俺を一睨みした巨大スプリガンは、うねうねと根を動かし、こちらに向かってきた。
合体したスプリガンの知能が上がると言うのは、あれは間違いかもしれない。
八方から枝が伸びてきて、俺を突き刺そうと迫ってくる。俺はそれら全てを剣で切り落とすと、走り出し、巨大スプリガンに肉薄する。
その足元までたどり着くと、枝から枝へと飛び上がり、太い幹に攻撃を加えていく。
俺の動きについていけないらしく、スプリガンはその枝を激しくしならせるばかりで、俺の動きを阻むことさえできていなかった。
そして頂点にたどり着く。見晴らしのいいその場所に立った俺は、ここからノームたちの姿が見えないかと視線をめぐらせたが、その姿を発見することは出来なかった。
枝が再び俺に向かってくる。俺はそれらを無視して、その場から飛び降りる。
その際に、止めの一撃を巨大スプリガンへと加えた。
俺が地面に立ったとき、スプリガンはまだその生命を保っていた。再び俺に向かって迫ってくる。
だがその行動がにより、太い幹があちこちでズレはじめる。ズレはその体全身に広がっていき、巨大スプリガンはなすすべも無く、ばらばらの木片へと成り果てたのだった。
「……つまらないものを斬ってしまったよ」
何て台詞をはきながら、俺は剣を鞘へとおさめた。




