第1話 白い教室
寝取られって一大ジャンルじゃないですか。(作者調べ)でも、リアルに浮気、不倫をされるとエロさなんて皆無で、ご飯が喉を通らないんですよ。でも、そんな不幸しかない寝取られって、リアルでもかなりあるんですよね。作者の周囲は妻の不倫での離婚が両手で数えきれないくらいにあります。妻を寝取られた男って、どうしてあんなに弱いんですかね。気持ちはわかりますけど。作者も...いや、そんな経験から、タイトルを見てえろいのを期待した人はごめんなさい。
私立高校青嵐学園の三年一組の教室では、チャイムが鳴り終わっても、担任はまだ来なかった。
藤田馨は窓際の席で頬杖をつき、ぼんやりと黒板を眺めていた。一時間目は数学だ。今日も眠くなるだろうな、と思っていた矢先、教室全体が白い光に包まれた。
悲鳴も、驚きの声すらも上げる暇がなかった。視界が真っ白に塗りつぶされ、次に気づいたときには、床も壁も天井もない、ただ白いだけの空間に立っていた。
クラスメイトたちは戸惑いながらも、そこかしこで身を寄せ合っている。机も椅子も、教室の輪郭すらもうどこにもない。
そこに突然声が聞こえた。
「――ええと、まずは謝らせてください」
声は、どこか一点からではなく、空間全体から響いてくるようだった。性別も年齢も判然としない、奇妙に平坦な声。
「私はこの世界の管理者のようなものです。今回、皆さんの座標を入力する際に、初歩的なミスがありました。結果として、皆さんがいた教室ごと、この世界から消失させてしまいました」
しん、と静まり返った空間に、誰かの「は?」という声だけが響いた。
「元に戻すことはできません。申し訳ありませんが、教室も、それまであった時間も、もう戻りません。ですが、埋め合わせとして、皆さんを別の世界へ転移させることができます」
「別の世界って……」
「剣と魔法の世界、とでも言えば分かりやすいでしょうか。皆さんが読んだことのある物語のような場所です」
ざわめきが広がる。困惑と、どこか浮ついた期待が入り混じった空気だった。
「詫びとして、皆さんにはこれから、その世界で使うための力を選んでいただきます。冒険者としての基礎的な技能――戦士、盗賊、野伏、神官、魔法使い。それ以外にも、生活のための技能や、身体を強化するような技能もあります。選択に使えるポイントは3,500。これで、今から見せる一覧の中から、皆さんの力を組み立ててください」
言葉と同時に、馨の目の前に、ゲームの画面のような半透明の板が浮かび上がった。触れれば反応するらしいそれには、見慣れない単語がずらりと並んでいる。
「あと、これは向こうの世界に生まれ育った人たちと比べれば、皆さんは少しだけ強くなります。今回のお詫びとして」
「――だったら、もっとくれてもいいじゃないですか。チートみたいな力とか」
声を上げたのは、クラスの誰かだった。馨には振り返って確かめる余裕もなかったが、何人かが小さく笑ったのが分かった。
「それはできません」
管理者の声は、笑いも咎めもせず、ただ淡々と拒んだ。
「もし皆さん全員が、示し合わせて能力を最適化し、まとまって行動すれば――向こうの世界の均衡は簡単に崩れてしまいます。個人が少し強い程度なら誤差ですが、二十八人が結託すれば、それはもう災害です。ですから」
声が、初めてわずかに温度を持ったように聞こえた。
「これより先、皆さんは互いに相談することができなくなります。今この場で見えている一覧から、それぞれ自分だけで選んでください。転移した先の場所は、皆さん同じ場所になるよう配慮します。ですから、向こうに着いてから話し合うことは、もちろん構いません」
その一言で、教室――もう教室ではないが――の空気が変わった。周りの声が、急に遠くなる。
馨は目の前の半透明の板に視線を落とした。
冒険者スキル、パッシブスキル、アクティブスキル。種族の選択肢。
冒険者スキルは戦士、プリースト、盗賊、野伏、魔法使い。パッシブスキルには調理や裁縫、習字というのもある。種族は人間、エルフ、ハーフエルフ、ドワーフ、獣人。
見たこともない単語が並ぶ中で、馨の頭にまず浮かんだのは、同じクラスの陽菜の顔だった。
松本陽菜。幼稚園からの腐れ縁で、今も同じクラスにいる。そして、馨がずっと抱いた恋心を誰にも言えないまま抱えてきた相手だった。
未だに告白できていない。陽菜の隣にいるのが当たり前だが、告白して振られた場合、今までのままではいられなくなる。馨にはそれをする勇気がなかった。
(――陽菜)
馨は首を振って、一覧に意識を戻した。向こうの世界がどんな場所かは分からない。だが「剣と魔法の世界」という言葉と、「向こうの人間より少し強くなる」という説明から察するに、穏やかな場所ではないだろう。
一覧の隅に、見慣れない項目があった。
「プリースト」の欄の、さらに奥。文字だけで危険なにおいが伝わってくる。。
――ダークプリースト。
説明を読み進めるうちに、馨は息を呑んだ。通常なら手が届かないはずの、プリーストレベル5相当の力が、最初から与えられる。ただし、信仰する神は「暗黒神ガルドヴェイン」。そして、この職業を選んだ者は、多くの場合、忌避され、迫害される――そう注記されていた。
与えられるポイントも、桁が違った。普通のキャラクターの10倍。
(バレたら、一緒にいられなくなる、ってことだよな)
迫害されるということは、少なくとも表立って名乗れる力ではない。もし陽菜たちに知られれば、パーティーどころか、そばにいることすら許されなくなるかもしれない。
馨は唇を噛んだ。
それでも――剣と魔法の世界。危険なモンスターが跋扈するかもしれない場所に、あの陽菜が放り出される。もし何かあったとき、自分に何もできなかったら。
管理者の説明ではレベルによる強さの目安は下記のようなものだという。
## レベルと社会的地位(冒険者レベル1〜10)
| Lv | 目安 |
|---|---|
| なし | 未経験 |
| 1 | 初心者 |
| 2 | 村で一番 |
| 3 | 小さな町で上位 |
| 4 | 小さな町で一番 |
| 5 | 中規模の街で上位 |
| 6 | 中規模の街で一番 |
| 7 | 大規模な街で上位 |
| 8 | 小国のトップ3 |
| 9 | 中規模国家のトップ3 |
| 10(最大) | 大国のトップ |
冒険者スキルは戦士、野伏、盗賊がレベル1で1000必要。プリーストなら2000、魔法使いは3000。
そして、レベル2にするには、それぞれの必要キャラクターポイントに+1000が必要となる。
つまり、戦士レベル2を取得するためには1000+2000で3000を消費しなければならないのだ。
それで得られるのが村一番の実力。さらに、それとは別のスキルがキャラクターポイント250で取得できる。
【身体強化】や【剣術】があれば、状況によってはレベル3相当なのだが、小さな町での上位というのは心もとない。
(隠していればいい。バレなければ)
迷いは長くは続かなかった。馨は震える指先で、その項目に触れた。
次に、種族の選択画面を確認した。人間、ドワーフ、エルフ、ハーフエルフ、獣人。
(おお、種族もファンタジーっぽいな)
人間から順番に、それぞれの特徴に目を通す。
寿命の欄に目が止まった。
人間は他の種族とそう変わらない。ドワーフも、獣人も。だが、エルフだけは桁が違った。
(陽菜より先に、死ねない)
自分がダークプリーストとして生きる以上、危険は覚悟しなければならない。それでも、せめて彼女より長く生きられる可能性があるのなら――馨は迷わず、エルフを選んだ。
残りのポイントで、いくつかの技能を選んでいく。剣を握ったこともない自分に、戦士としての心得を。もしもの時に身を守れるように、体術を。そして、いつか何かの役に立つかもしれないと、鑑定の技能も加えた。
最後にもう一度、確認の画面が表示される。
――藤田馨。エルフ。ダークプリーストレベル5、戦士レベル3、魔法使いレベル2。
馨は小さく息を吐き、その画面に触れた。
視界が、再び白い光に包まれた。




