↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きる、何が、あっても  作者: 虹の箸
第1章 始まりの3人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/44

光と影

割と短期間でたくさん物語を紡いで来たところで、ようやく人の悪意と善意、敵意そういったものでは括りきれない人の有様が書けないかな?と。話自体はずっと温めていたものですが、筆力足らずに尻切れトンボにならないよう精進します。

初めは、ただ欲しかった。

美味しいもの、暖かいベッド。清潔な服。

でも、一番欲しかったものは最初から持っていたんだ。

でも、それに気づくのは遅すぎた……。

     * * *


 吹きすさぶ隙間風の中、薄い毛布を三人で引っ張り合った夜のことは、今でもはっきりと覚えている。戦争で親お亡くして孤児となった俺たちは身を寄せ合って助け合って生きてきた。

 ルキウスの呆れたようなため息も、エリアナの柔らかい笑い声も、明日も明後日もずっと続くと思っていた。俺たちには何一つなかったけれど、互いの体温だけが確かな財産だった。

 十二歳になると、神から与えられるスキルを得ることができる。スキルさえ手に入れれば、三人でこの泥水のようなスラムから抜け出せる。そう信じて疑わなかった。

「次。前へ出なさい」

 冷ややかな大人の声と、儀式場の張り詰めた空気が、俺を現実へ引き戻した。

 薄暗い教会の石畳。促されて魔力水晶に手を伸ばしたあの日、俺たちの運命は残酷なまでに分岐した。


 ルキウスは、百人に一人とも言われる希少スキル『軍師』を授かり、生来からのその類まれなる知能もあり見込まれて、その日のうちに高位貴族の養子として迎えられた。


 エリアナは、膨大な魔力と『癒し』のスキルを開花させ、次代の聖女候補として教会の奥深くへと引き取られていった。


 そして、俺に与えられたのは――『息を止めている間は認識されない』という、取るに足らない能力だった。

 貴族にも教会にも見向きもされず、ただ一人、俺はスラムへと放り出された。


 別れ際、華やかな馬車に乗り込む二人を見送った時、俺の心にあったのは嫉妬や絶望ではなかった。

(よかった。これで二人はもう、お腹を空かせることも、凍えることもないんだ)

 温かいご飯と、ふかふかのベッド。それだけで十分だ。俺は純粋に、二人の輝かしい未来が嬉しかった。


 だが、現実は優しくない。

 二人という傘を失ったみすぼらしい子供など、スラムの連中からすればただの獲物でしかない。


「おいガキ、何か金目のモン持ってんだろ。出せよ」

 儀式の帰り道。薄暗い路地裏で、俺は街のチンピラ数人に囲まれていた。

 抵抗する間もなかった。腹を蹴り上げられ、泥水の中に這いつくばる。痛みで息が詰まる中、なけなしの銀貨と、エリアナが編んでくれたお守りの腕輪(ミサンガ)まで奪い取られそうになった。

(ルキウス、エリアナ……)

 薄れゆく意識の中で、温かい二人の顔が浮かぶ。


「――薄汚いネズミどもが。俺のシマで誰の許しを得てこんな事をしてる?」

 野太く、地を這うような声が路地裏に響いた。

 見上げると、質素な綿のシャツを着た大柄な男が立っていた。しかし分厚い胸板と、鋭い眼光が、ただものでない狂気的な雰囲気を醸し出していた。男はチンピラに襲いかかり凄まじい暴力であっという間にチンピラを半殺しにすると、取り巻きと思われる男達にささやき、チンピラを拉致していった。


 男は、血と泥に塗れた俺の前にしゃがみ込み、大きな手を差し伸べた。

「俺はアンソニー。これも助けた縁だ。今日から俺が、お前の兄貴だ。立て、家族の家に帰るぞ」

 それが、義に厚い長兄・アンソニーとの出会いだった。

 彼に連れられ足を踏み入れたのは、スラムの暗がりとは無縁の、地味で堅牢でありながら広大な屋敷だった。

 そこは、この街の裏社会を牛耳る『ヴィットーリオ・ファミリー』の本拠地だった。


俺には、決してみすぼらしいものではない、清潔な服と暖かい食事が与えられた。怪我を治療され、そればかりか、アンソニーの兄弟たちと共に、生きるための教育や教養まで施された。


 しかし、ファミリーの絶対的支配者であるゴッドファーザー――ドン・ヴィットーリオは、俺に対して親切な後見人以上の情を見せることはなかった。


 冷酷な裏社会のドンでありながら、彼は実の親という存在に強い敬意を持っていた。

「俺が安易に親代わりを名乗ることは、この子の本当の親に申し訳が立たない」

 それが、ドンの不器用で厳格な優しさだった。


だからこそ、俺は『お客さん』のような境界線の手前に置かれていた。

 だが、俺には覚悟があった。

 光の当たる道を歩み始めたルキウスとエリアナ。あの優しい二人には、きっとこれからも数え切れない困難や悪意が降りかかる。

 誰も俺を認識しないなら、俺はただの影でいい。裏社会で圧倒的な力を得て、この命を懸けて二人を影から護り抜く。

 屋敷に来て数ヶ月が過ぎたある夜。

 俺は、葉巻を燻らすドン・ヴィットーリオの書斎を訪れ、その重厚な絨毯の上に深く跪いた。


「ドン……お願いがあります」

「どうした、アレン。こんな時間に。アンソニーとでも揉めたか?」

 静かに見下ろすドンの目を、俺は真っ直ぐに見返した。


「私を、あなたの子供にしてください。裏の仕事でも、汚れ仕事でも、何でもさせて下さい。この命を、あなたとファミリーに捧げます、ドン、ドン・ヴィットーリオ。」

そしてその手を取り、口づけし、ゴッドファーザーと呼ばう。


部屋に重い静寂が降りた。

ドンは素早く屈み、両手を取った。そして、大きな両腕で俺の体を力強く抱きしめた。

「……わかった。今日からお前は、私の息子だ」

 葉巻の煙と、火薬の匂いが微かに混じったドンの胸の中で、俺は密かに息を止めた。

 ――これでいい。光はあいつらに任せる。俺は、この泥と血の底から、這い上がってみせる。


お読みいただきありがとうございました。

もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。