第22話 ゲートウェイの遺構 ─デッドロックの核心─
青龍が舞い降りた丘の向こうには、
人を拒絶するような静謐を湛えた「風の杜」が広がっていた。
物理的な結界こそ確認されないが、
一歩足を踏み入れるごとに鳥の声は遠ざかり、
自らの足音だけが異常な分解能で耳に響く。
「……誰もいないな」
隼人の低い声が、無人の杜に溶けて消えた。
杜の最深部、
現れたのは円形の祭壇を中心とした小さな広場だった。
周囲には風よけの柱が等間隔に配置され、古い祈祷具が並ぶ。
破損もなく、供物の跡も新しい。
「管理はされているわ。掃除のログも更新されている」
ナギが祭壇に触れ、残留する残留思念をスキャンする。
「なのに、人の気配(生体反応)だけが完全に欠落しているわね」
空気は重かった。澱んでいるのではない。
膨大な「祈りのデータ」が送信先を失い、
この一点に蓄積されすぎているのだ。
風は吹いている。
しかし、それは円の中心で渦を巻くだけの
「デッドロック状態」に陥っていた。
カグヤが祭壇を見つめ、静かに目を伏せた。
「ここは……かつて、ただそこに立つだけで
人々の祈りを空へ昇華できる
『ゲートウェイ』の役割を担う巫女がいた場所なの」
カグヤの視線は祭壇ではなく、ナギの横顔に向けられていた。
「……けれど、その中継者が失われてから
、風は行き場を失ったわ」
ナギは迷いなく、祭壇の石段を上がり中心に立った。
「ここだわ」 目を閉じ、手のひらで大気の密度を探る。
「祈りのパケットはここまで来ている。
でも、送り出すための『垂直の通路』が閉ざされているのね。
OSの再起動だけじゃダメ。ポートを物理的に開ける必要があるわ」
「なら、どうすんだよ?」
「誰かがここに立ち、一時的な架け橋になるしかない。
風が通れるルートを、一つでも強引にこじ開けるわよ」
「なら、俺もだ。一人で負荷を背負い込むんじゃねぇ」
隼人が迷いなく、ナギの隣に並び立つ。
二人が祭壇の中心で同期した、その瞬間。
停滞していた大気が、行き先を得たかのように
音もなく直上に噴き上がった。
天を衝くような風の柱。
「……通ったか」 隼人が安堵の吐息を漏らす。
確かに、肌を圧迫していた大気は軽くなった。
だがナギは、静かに祭壇から降り、険しい表情を崩さなかった。
「……一時的なバイパスは形成されたけれど、
根本的な解決にはなっていないわ。
私たちが離れれば、またすぐにパケットが詰まり、再発する」
ナギの脳内では、既に次なる
「恒久的なシステム修復計画(パッチ当て)」の演算が始まっていた。




