サンタはいないよ、仙太郎
サンタクロースはいない、実際は親がおもちゃを買っているのだと大人ぶった園児が暴露した。
仙太郎はサンタクロースがいないことにすっかり気落ちし、心に開いた穴の空っぽなのが悲しくて泣きじゃくりながら、祖父の道雄に訊ねた。
「サンタクロースはいないの?」
祖父は優しい声でこう言った――それは本当だよ、仙太郎。サンタクロースはいないんだよ。
「じゃあ、プレゼントは? おじいちゃんとおばあちゃんが用意してるの?」
「そうだね。わたしとキヨミさん(仙太郎の祖父は妻のことをおばあちゃんではなく名前で呼んだ)が用意するんだ」
そう言った後、祖父は秘密基地の在り処を教える悪ガキみたいにニッと笑って仙太郎に言った。
「でも、ホントのクリスマスはサンタクロースのクリスマスよりもずっとすごいんだ。そして、これから話すのが大人だけが知っているクリスマスのホントだ。ホントのクリスマスを教えるかわりに仙太郎もホントのクリスマスを誰にも言わないと約束できるかい?」
仙太郎は、コクンとうなずいた。
「よし。話そう。二十四日の夜、ホントのクリスマスは子どもたちが眠ってから始まる。お前たちが眠っているのを確かめると、わたしとキヨミさんは町の中心部へと車を走らせる。同じような車が何百台も走ってきて、町のデパートというデパートの駐車場を埋めてしまう。デパートが明るくライトアップされている上に、何百台という車のヘッドライトがまぶしくて、目を開けてられないほどだ。このときだけはおまわりさんも路上駐車を許してくれる。大人たちは慌しく、駅前のデパートへと入っていく。三越にも伊勢丹にもお店の人が案内しきれないくらいの大人たちがやってくるのだ」
「ワルツ堂百貨店も?」
「もちろんワルツ堂百貨店もだ。仙太郎、デパートの一階で売っているものといえばなんだ?」
「女の人のお化粧とか洋服とか」
「そうだ。だが、二十四日の夜だけはサムライ戦隊シンケンジャーのおもちゃを売る。デパート中が一階から十二階まで、全てがおもちゃ売り場になっているのだよ。それこそ大忙しだ。前から予約していたシンケンブレードやシンケンレーザーガンが化粧品売り場に山となって積み重なっているのだが、それも街じゅうの大人たちがそれこそ束になってかかると五分で売り切れてしまう。お客たちが『はやく売ってくれ、うちの息子が目覚める前に!』と叫ぶと、売り場の人は台車を押して大急ぎで倉庫からおもちゃを持ってくる」
「じゃあさ、じゃあさ」めまぐるしいもの好きの仙太郎が熱っぽく訊ねてきた。「地下の食べ物売り場は?」
「ありとあらゆる自動車のおもちゃを売っている。自分で乗るやつもあれば、手で走らせるのもあるし、ゼンマイを使ったやつもある。プラモデルもあるし、もちろんラジコンもある。チョロQもあるぞ」
「七階のおもちゃ売り場は?」
「売り場全体が鉄道模型だよ。この町を模型で完璧に作ってあるから、わたしたちの家やおひさま幼稚園だって、ちゃんとそこにあるんだ」
「屋上は?」
「小犬と子猫がたくさんいる。みな捨てられたのをデパートで引き取って、プレゼントに小犬や子猫を約束した親たちが受け取りにいくのだ。この階は騒々しいぞ。ワンワンニャーニャー。みんなで元気に鳴くからな」
「おもちゃが途中で売り切れたらどうするの?」
「工場から新しいのが届くのさ!」道雄は何にも驚くことはないんだといった調子で言った。「二十四日の夜はおもちゃ工場も大忙しだ。おもちゃを満載したトラックがどんどんデパートにやってきては箱詰めにされたおもちゃを下ろすのだが、下ろすそばから売れていくのでね。おもちゃ会社のトラックは五分と同じ場所に止まってはいられない。すぐに新しいおもちゃを取りに帰るべくすっ飛んでいくんだ」
ここまで言えば十分だった。仙太郎の中で新しいファンタジーが湧き出し、心の空っぽを埋めるどころか外にあふれて、きらきらとこぼれ落ちていた。
それからも大人ぶった園児がサンタクロースはいないんだ、全部親が用意しているんだ、とワケ知り顔で言うたびに仙太郎は、あいつはホントのクリスマスを知らないのだ、と心の中で思い、プッと吹き出すのだった。