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【第3話】定義不能の熱量

アルヴィス様からの「他の誰にもその色を見せるな」という言葉が、呪文のように私の頭を離れない。

 彼は相変わらず、私の数秒後の行動を言い当てては「興味深い」と呟き、私の髪や指先に触れてくる。そのたびに私の周囲には、彼にしか見えない『桃色の煙』が濃く立ち込めているらしい。


そんなある日のことだった。

 王宮の地下貯蔵庫へ魔導具の整理に向かった私は、そこで「視て」しまった。


(……十秒後)


古びた棚が崩れ、封印の解けた攻撃用魔導具が暴走する。

 青白い雷撃が、逃げ場のない室内を埋め尽くす最悪の映像。


「……っ、逃げなきゃ!」


踵を返した瞬間、背後で凄まじい崩落音が響いた。

 扉は瓦礫で塞がり、予知の通り、魔導具から溢れ出した雷光が蛇のように床を這う。

 私は目を閉じ、震える手で頭を抱えた。


(アルヴィス様……!)


最期に思い浮かべたのは、あの冷たくて美しい銀色の瞳だった。

 その時。


「——観測終了だ。これ以上の実地検証は必要ない」


鼓膜を震わせたのは、聞き慣れた、けれど今までで最も低い、怒りを含んだ声。

 目を開けると、私の目の前には銀色の魔法障壁が展開されていた。荒れ狂う雷撃を、紙切れでも払うかのように霧散させていく背中。


「アルヴィス、様……」

「エレン。君の周囲に今、灰色の煙が混じっている。……これは『恐怖』か?」


彼は振り返ることなく、淡々と問いかけた。けれど、杖を握るその指先は、白くなるほど強く強張っている。


「……はい、怖かったです。もう、お会いできないかと思って……」

「そうか。ならば、今の私を包んでいるこの『どす黒い霧』は、君を失うことへの『嫌悪』なのだろう」


彼は一歩、私に近づいた。

 瓦礫を焼き払い、無理やりこじ開けられた出口から光が差し込む。

 私を抱き上げた彼の腕は、驚くほど熱を持っていた。


「理屈ではないと言ったな。確かにその通りだ。私の魔力が、これほどまでに私の制御を離れて荒ぶるのは初めてだ」


彼は私の額に、そっと自分の額を押し当てた。


「エレン。この『不快な霧』を消せるのは、君の『桃色の煙』だけだ。だから、一生私の側でそれを吐き出し続けろ」

「……それって、プロポーズですか?」

「言語化すれば、そうなる。異論は認めない。……三秒後、私は君を抱き締める。これは、予知を待つまでもない確定した事項だ」


予知が閃くよりも早く、私は彼の腕の中にいた。

 ひんやりとした冬の空気のような彼から、微かに甘い、温かな魔法の残り香がした。


感情を知らない大魔法使い様。

 彼が私の恋心を完璧に定義するまでには、まだ少し時間がかかりそうだけれど。

 

 震える彼の手が、何よりも饒舌に、その「心」の形を教えてくれていた。

初めまして。春乃ことりです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


不器用で感情を知らない魔法使いと、未来が視えてしまうがゆえに翻弄される女の子。

そんな二人の、少しずつ温度が上がっていく空気感を楽しんでいただけていたら幸いです。

また別の物語でお会いできることを願っております。

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