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1話 空蝉に映す声
小説の音が聞こえた。
ページをめくる音でも、文字を書く音でもない。
もっと曖昧で、もっと確かな――誰かの声に似た何か。
――夏だった。
蝉の声がうるさいほど鳴いているのに、その中に混ざって、確かにそれはあった。
風が吹くたび、紙が擦れるような。
インクが滲むような。
そんな錯覚が耳の奥に残る。
不意に、胸の奥がざわついた。
懐かしいような、それでいて初めて触れるような。
不思議な感覚だった。
俺はその正体を、まだ知らない。
けれど――このとき確かに、何かが始まっていた。




