第一話
よしっ、決めた!!
伊藤淳。大学生。本日告白することを決めました。
相手は同じ弁当屋のバイトの先輩、「片瀬早苗さん」。
今までどんなバイトも先輩達とウマが合わなくてケンカをし、一月も続かずにすぐに辞めてしまっていた俺。
でもこのバイトは別だった。それは先輩の早苗さんに惚れてしまったからだ。
何となく雑誌を見て、何となく連絡した弁当屋のバイト。
初めてバイトに入った日、俺は何をやっていいか分からずに厨房をうろうろしていたら、男の先輩小島が、
「おいっ、お前!!うろうろしてんじゃねぇ!!邪魔だ、こらっ!!」
と言ってきた。
さて、ここも初日で終わりかと右手を振り上げワンパンを食らわせようとした時、
「伊藤君・・・だっけ?こっちでご飯入れてくれるかな。」
と優しく微笑んでくれた人がいた。
あの微笑に俺は一瞬で心を奪われた。今までろくな女との付き合いがなかった俺にとって早苗さんはまさに天使だったのだ。
それ以来、俺は彼女に少しでも好かれようと一生懸命頑張った。
早苗さんがバイトを一生懸命していたら、俺も一生懸命に。
早苗さんがバイトを休まず頑張っていたら、俺も休まずに頑張った。
早苗さんがバイトの他の人たちと仲良くしていたら、俺も頑張って仲良くするようにした(小島とも)。
そうやって一緒にバイトを続けて一年が経過がした・・・。季節はもう秋だ。
今では冗談を言い合い、肩をポンポン叩き合う仲になったのだが・・・いまだに早苗さんには何も伝えることが出来ずにいた。
一年かけて近づいた距離が、今では気持ちを伝えることで失うことが怖くなってしまったのだ。
そんなある日・・・
「早苗さん、卒業したら外国に行くんだって」
そんな噂が俺の耳に飛び込んだ。
どうやらイギリスの文化を勉強しているうちに実際に行ってみたいということになったらしい。
いてもたってもいられなくなった。あと数ヶ月で早苗さんが俺の前からいなくなってしまう?そんなの嫌だ!!
俺は必死に考えた。どうしたらいいんだ。このまま今の関係を保って笑顔で見送ったら良いのか。それとも・・・。
そして俺は一つの結論に至った。
よし、告白しよう。
そして今・・・
バイトのシフトを店長に頼み込んで、早苗が最後のバイトの日に淳も入れてもらった。
仕事を始めて・・・
「ごめんね〜淳。今まで楽しかったよ。」
とか
「イギリスは昔からの夢だったんだ〜。」
とか早苗は淳に色々と話をした。だが淳は上の空で、
「はい・・・。そうですね・・・。」
とかしか返事が出来なかった。
そんな感じでバイトの終了時間。
「あ〜終わった!」
早苗が伸びをする。
みんなも早苗を囲み、今までの思い出話、これからのことで話が弾んでいた。
「お疲れっした。」
淳はその脇をそっとすり抜け店を出ようとした。
「あれっ?淳〜」
早苗の呼び声に一瞬止まり、聞こえないふりをして去っていった。
「淳には伝えたいことがあったのに・・・」
早苗はぼそっとつぶやいた。
みんなとのお別れも済み、早苗は店を出た。時間はもう夜中の1時だ。外は真っ暗で人が歩いているのも見えない。
「さて、帰りますか。」
早苗が家へと歩き始めると、ふいに携帯の着信が鳴った。聞きなれた音楽だった。早苗が出ると、やはり相手は淳だった。
「お〜淳じゃん。一人で帰っちゃってお姉さんは寂しいぞ〜。どした?」
ちょっと間があって淳がつぶやいた。
「早苗さん、ちょっと話したいことがあるんですけど。」
「ん?何?・・・真面目な話かい?少年。」
「・・・ええ、直接会いたいんだ。」
「・・・分かったよ。近くの駅のとこにいるよ。」
そういって早苗は携帯を切った。




