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最強つよつよ白虎になって異世界を無双しよう!  作者: もこもこハダカデバネズミ


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神獣会談②

 褒め褒めダンスを二度も見せてあげたので、私は満足してその場へ座った。

 レオンハルトもこれ以上私へ文句を言う元気はないらしく、岩へ背中を預けたまま、自分の左脚を眺めている。外套を切って作った布が二本の枝をしっかり押さえ、さっきまで好き勝手な方向へ動きそうだった足が、今は見るからに固定されていた。


 見た目だけなら立派な応急処置である。本人が半泣きになりながら巻いたとは思えない。レオンハルトはしばらく足の指を動かしたり、布の結び目へ触ったりしていたけれど、やがて少し不思議そうな顔をした。


「なんか……ちょっと楽になった気がする。まだ痛いけど、さっきみたいに少し身体を動かすだけで足まで一緒に動く感じがなくなったというか。気のせいかもしれないけど」


「分かる分かる。お医者さんに診てもらうと、それだけでちょっと安心するよねえ。熱出して病院行った時とか、診察してもらって薬まだ一回も飲んでないのに、帰り道でもう少し治った気がするもん」


「それは治ってはいないと思うよ」


 フィロンから冷静な訂正が入った。知ってます。気持ちの話です。

 でも人間ってそんなもんじゃないだろうか。前世で風邪をひいて病院へ行った時も、待合室では死ぬほど具合が悪かったのに、先生から「ただの風邪ですね」と言われた瞬間、急にただの風邪になった気がした。

 いや、最初からただの風邪だったんだけど。自分の知らない重病かもしれない時間が終わるだけで、身体まで少し軽くなるかんじ。

 今回のフィロンは触診も出来なければレントゲンも撮れない白蛇医師だけど、何も分からず足を抱えているよりはずっといい。レオンハルトもそういう感じなのかもしれない。


 私は前足を揃え直してから、ふと気になっていたことを思い出した。


「そういえばさ。神獣に会いたくて来たって言ってたけど、なんで夜に一人で抜け出すところまでいったの? 外国から来たばっかりで、知らない山なんでしょ。会いたかったにしても行動力が怖いよ」


「……それは」


 レオンハルトの目がふっと横へ逸れた。神獣がいるから、自分で会ってみたかった。そこまではさっき聞いた。でも、それだけなら昼間に大人へ頼んで連れてきてもらえばいい。わざわざ夜中に一人で抜け出して、知らない山へ突撃する理由としてはだいぶ足りない。


 しばらく黙り込み、レオンハルトは添え木の端を指先で触った。


「……待てなかったんだよ。神獣が見つかったって聞いた時、どうしても自分で会わなきゃって思って。……それで、来た」


「自分もなのに?」


 首がコテンと横へ倒れた。だってそういう話だったよね。私とフィロンとレオンハルトは同じもの。こっちの人たちが神獣と呼ぶ存在。なら神獣に会いに来た神獣ということになる。フィロンみたいに「お! 新しい仲間の気配! お話しよう!」という感じでもない。自分探しの旅をするには若すぎる。レオンハルトは一瞬ぽかんとしたあと、耳まで赤くした。


「さっきまで知らなかったんだよ! というか、いまもよく分かってない! 俺は普通に人間として生まれたし、父上も母上も人間だし、兄上も姉上も人間なんだから、自分が神獣だなんて考えるわけないだろ!」


 それもそうか。私なんて目を開けたら虎だったし、フィロンは蛇だった。嫌でも「なんか前と違いますね」というところから人生が始まる。


 レオンハルトだけ、生まれ変わっても人間だった。前世の記憶があったって、「転生した人間」とは思っても「自分は虎や蛇と同じです。神獣と呼ばれる存在でござい」とはなかなかならないだろう。フィロンも同じことを考えたらしく、ニョロニョロと蛇行しながらレオンハルトの正面まで移動した。


「さっきは途中までしか話さなかったから、そこは改めて説明しておこうか。

私たちは、新しい身体になったからといって、その身体と同じ生き物の言葉まで自然に分かるようになるわけではないらしい。ガウーワは家族たちの言葉を聞き取れないし、本来なら私も蛇の言葉は分からないはずだ。私の場合は別の力があるから理解できているけれどね」


 フィロンはそこで少し間を置いた。


「その一方で、私たち同士や人間との間では、身体や生前に使っていた言葉が違っていても意味が通じる。虎でも蛇でも、人の姿でも、こうして会話できる。これまで会った他の神獣たちも同じだったから、おそらく私たちに共通する性質なんだろう。

ただ、君の場合は少し分かりにくい。今の身体も人間だからね。生まれた時から周囲にいる人間の言葉が分かっていたなら、それが普通の人間として聞き取っているのか、私たちと同じ仕組みで意味を受け取っているのか、自分では区別しようがなかったはずだ」


 レオンハルトは黙って聞いている。今度はさっきみたいに《万語理解》の話で赤くなったりはしなかった。


「……じゃあ俺、人間の言葉が分かること自体はずっと普通だと思ってたけど、その中に別の仕組みが混ざってたかもしれないってこと? 南方語とか東方語まで分かるのは普通じゃないって分かってたけど……」


「そういうことになるね。ただ、《万語理解》と君が呼んでいるものが、それだけですべて説明できるかはまだ分からない。

君にしか出来ないことが混ざっている可能性もある。私たちは、まだ君と出会ったばかりだからね」


 レオンハルトは、納得したようなしてないような顔になった。十年間ずっと自分の足で歩いていた人に、今日から「実は歩き方ちょっと特殊ですよ」と言っても、そうなんだ……くらいにしかならないのかもしれない。私はなんとなく可哀想になってきて、前足をひょいと上げた。


「あとね、《万語理解》? が全部それだったって決まったわけじゃないんでしょ。そんなにガッカリしなくていいと思うよ。

私だって、みんなと会話出来るやつとは別に魔法あるし。 私はね、ノミダニ疥癬あっち行け~~! ってやると、身体についてる悪いやつを凍らせて追い出せる。モフモフに生まれし者として最も有用な魔法が使えるよ! その代わり、お母さんみたいに口から冷凍ビームを出したり、お父さんみたいに広いところを一気に凍らせたりはまだ出来ないけど」


「待って。冷凍ビームって何」


 そこから説明すると長くなるので今は置いておこう。うちの家族たちは冷たい息で獲物を凍らせます。私はまだ出来ません。以上。


「フィロンもあるよ。動物の言葉が分かるの。鳥とか鹿とか虎とか、いろんな生き物が何言ってるか聞こえるんだって。だからフィロンは同族の言葉もわかるんだけど、フィロンが何を言ってるかは向こうに伝わらないし、ご飯を食べる時に断末魔まで聞こえる」


「得られるものに対して失うものが大きすぎない?」


「マイナス思考だなあ」


 私は呆れて鼻を鳴らした。動物とお話出来るんだよ。夢の能力じゃん。こっちの言葉が通じないとか、食事のたびに「いやだ死にたくない」みたいなのを聞く可能性があるとか、そのへんはまあ……うん。細かいことを気にしてはいけない。


 フィロンは何も言わない。

 あれ。もしかして本人も少しだけ「失うもの大きいな」と思ってる? 顔を見ると白い頭がこちらからゆっくり逸れた。聞かないでおこう。



 その後しばらく、三人で特に意味のない話をした。意味のない話が出来るくらいには、レオンハルトも落ち着いてきたということだと思う。

 どれくらい魔法が使えるのとか、フィロンは何年くらい蛇をやっているのとか、私のきょうだいは何匹いるのとか。途中でレオンハルトが「氷嶺白虎ってそういうかんじに暮らすんだ……」と言ったので、お父さんとお母さんと叔父虎と私ときょうだい三匹の大家族です、と胸を張っておいた。


 めちゃくちゃ過保護に育てられております。朝起きたらお母さんに顔を舐められ、ご飯を食べればお父さんに口元を舐められ、遊びすぎれば叔父虎に咥えて持って帰られます。

 まあ、動物園の虎とおんなじ感じかも。この山において我々は最強捕食種。のんびりと生きています。私たちきょうだいはまだ鹿に蹴っ飛ばされて泣きじゃくるくらいには弱いけど、いずれ無敵のつよつよ白虎に育つことでしょう。


 そんな話をしている途中だった。レオンハルトが急に口を閉じた。さっきまできょうだいの話を聞いていた顔が、ほんの少し曇る。私は首を傾げたけれど、今度はコテンコテンしすぎと言われないよう一回だけにした。


「どうしたの? 足また痛くなった?」


「いや、そうじゃなくて……さっき、自分が主人公じゃなかったって話しただろ」


「うん。ゲーム脳だったやつ」


「言い方!」


 レオンハルトは少しだけむっとしたけれど、すぐにまた添え木へ目を落とした。


「……でも俺、たぶんまだちゃんと分かってないんだと思う。前世の記憶があって、魔法も使えて、《万語理解》もあって。十歳なのに剣だって結構出来たし。この世界で生まれてからずっと、何か始まりそうで始まらなくて……神獣が現れたって聞いた時、やっと来たって思ったんだ。

さっき二人と同じだって分かって、俺だけ特別だったわけじゃないっていうのも分かった。それで恥ずかしいなって思って、もういいやって思ったんだけど……なんか、まだ変な感じがする」


「何が?」


「分かんない。ずっと、“レオンハルト”って主人公でプレイしてるゲームみたいな感じだったから。それが違うなら、じゃあ今までなんだったんだろうっていうか……」


 私はなんとなく言いたいことが分かった。人生そのものをゲームだと思っていたわけではない。ただ、ゲームだったらここから物語が始まる、という感覚をずっと現実へ重ねていたのだろう。


「だってフルダイブ系のネトゲってこんな感じだろ。生まれてからずっと現実なのは分かってるよ。でも魔法使えるし、ステータス画面がないだけで体感は本当にゲームみたいだし、前世のゲームより解像度すげえなって最初は思うだろ」


 …………。なんですって? 今なんか聞き捨てならない言葉があった。


「令和ってこんな感じのゲーム出来るの!?」


「え、そこ!?」


「だってフルダイブってあれでしょ。頭の中に入るみたいにゲームして、歩いたり触ったり出来るやつでしょ!? 私が死んだころ、そんなの漫画とかアニメとかの世界だったよ! 私だって結構オタクだったんだからね。FFXIとかすごいやり込んだし、ワンピも好きだし」


「FFXIって……だいぶ昔のMMOじゃん。俺の頃だと資料とか昔のゲーム特集で見るやつだよ」


「昔のゲーム……」


 未来人め。自動運転だけでも羨ましかったのに、そんなものまで持っていたのか。

 私が夢中になっていたゲームは、レオンハルトからすると歴史の向こう側に片足を突っ込んでいるらしい。四十年以上違うんだもんなあ。もし前世で普通に生きていたら、私はレオンハルトの前世、うしこしさとしくんが死んだころにはかなりいい歳だったのだろう。


 年齢を計算しかけて、ちょっと嫌になったのでやめた。やっぱり普通に死んでる可能性がある年が算出されかけたし。虎になったら全部ノーカウントです。私は赤ちゃん。


 ずっと黙って聞いていたフィロンが、そこでゆっくり首を持ち上げた。


「二人の言っている遊びがどういうものなのかは、やはりよく分からないのだが……自分を物語の中の英雄だと思ってしまう、という気持ちなら少し分かるよ。

さっきも言ったが、ヘラクレスを名乗って棒を振り回す子供はたくさんいた。ただ、本当にヘラクレスと同じ人生を送りたがる大人はあまりいなかった。英雄の物語は人に語るには面白いが、本人にとっては災難の連続だからね。神々に愛されることも、特別な運命を与えられることも、それだけで幸福とは限らない」


 それはなんとなく分かる。神話の人たち、だいたい人生が大変そうだもんね。フィロンはレオンハルトをまっすぐ見て、もう少しだけ続けた。


「フォルトゥーナが何を与えるかは、人には選べない。裕福な家に生まれることもあれば、奴隷として生まれることもある。丈夫な身体を得る者もいれば、病を抱える者もいる。君のように二度目の人生を得ることだって、少なくとも私たちは自分で選んだ覚えがないだろう?

けれど、与えられたものが立派かどうかと、その人生を楽しく生きられるかどうかは別の話だよ。君が神獣でも、ただの人間でも、レオンハルトであることは変わらない。

家族がいて、好きなものがあって、出来ることがあって、これから覚えることもある。英雄にならなくても、誰かと笑って暮らせるなら、それは十分いい人生だと私は思うがね。

少なくとも私は、死ぬまで毎日が物語の山場であってほしいとは思わないよ。疲れるから」


 最後だけ、妙に実感がこもっていた。そうだよね。フィロン、生前お医者さんだったもんね。毎日大事件が起きる医療ドラマみたいな人生は嫌だろう。

 今日は誰も大怪我しませんでした、風邪の人だけ来ました、くらいの日が一番いいはず。レオンハルトはすぐには返事をせず、添え木をした自分の脚へ目を落とし、少し考えてから鼻の下を指で擦った。


「……主人公じゃなくても、別に何もなくなるわけじゃないのか」


「いいんじゃない? 私なんて虎だよ。主人公とか以前に、人間ですらなくなったけど毎日けっこう楽しいよ。昨日はきょうだいと雪の中で転がったし、今日はダニを大量に凍らせた」


「今日だけ急に人生の振れ幅がおかしくない?」


 言われてみればそうかもしれない。でもタヌキがちょっと元気になったのでよかった。ハッピネスなことなので問題ない。ダニの氷はもう見たくないけど。


 レオンハルトの顔から、さっきまで残っていた変な力が少し抜けた気がした。主人公じゃない。特別じゃない。そういうのは、たぶん本人が思っているほど大変なことではない。

 だって私も別に、前世では何者でもなかった。仕事へ行って、帰って、漫画を読んで、ゲームして、たまに友達とご飯を食べる。

 好きな漫画新刊が出れば買うし、ゲームで先が気になったら夜中に「もう少しだけ」と言いながら全然もう少しで終わらなかった。それで普通に楽しかった。

 今は虎になって、家族と一緒に寝て、虫に怯えて、蛇と友達になっている。これもまあ、楽しい。


 問題は、このあとだ。


「それで、レオンハルトはこれからどうするの?」


 私は添え木のついた足を見た。一人では歩けない。私の背中へ乗せることは出来るかもしれないけれど、どこへ連れていけば人間がいるのか、私はちゃんと知らない。人間の匂いが残っている方角くらいなら分かるけど、怪我人を乗せて山を適当に歩き回るのは駄目な気がする。


 それに私には家族がいる。人間を背中へ乗せて「ただいまー! 拾った!」と洞窟へ帰ったら、どうなるんだろう。

 …………駄目な気がする。ものすごく駄目な気がする。お父さんとお母さんと叔父虎が一斉に警戒する未来しか見えない。それか「あらガウーワ! 一人で狩りができたの? すごいわね、今日はご馳走よ!」となる可能性もある。我ら肉食獣、人間もギリ食べ物の可能性がある。


 フィロンも少し考え込んだ。


「そこは考えた方がいいかもしれないね。彼をこのまま置いていくわけにはいかないし、人間たちが探しているなら、出来ればそちらへ知らせたい。

ガウーワに運んでもらうことも出来るだろうが、脚を傷めている以上、どんな道でもいいわけではない。それに君の家族のこともある」


「私、おうち帰らないとそのうち迎えに来るよ」


「それも問題だね」


「え。迎えって……あの、大きい氷嶺白虎が?」


 レオンハルトの声がちょっと裏返った。そうです。私よりずっと大きくて、口から冷たい息を吐ける氷嶺白虎が最低三匹来る可能性があります。それを説明しようと口を開いた、その時だった。


 遠くから、低く太い鳴き声が響いた。森の木々の間を抜け、雪の上を震わせるように届いてくる。かなり離れているはずなのに、耳だけではなく胸の辺りまでびりびりするくらい大きい。私は反射的に耳をぴんと立て、声のした方へ頭を向けた。


「あ、お母さん」


「ひっっ」


 隣でレオンハルトが身を縮めた。そんな怖がらなくても。


 まあ私も知らない巨大虎の声が山の向こうから響いてきたら怖いと思うけど。フィロンが少しだけ頭を傾け、もう一度遠くへ耳を澄ませるように静かにした。


「『帰ってきなさい』と言っているよ」


「やっぱり」


 あの声は知っている。すぐ来なさい。もう遊びは終わり。これ以上待たせたら迎えに行きます。だいたいそういう時のお母さんである。


 まだ姿は見えない。ずっと向こう、洞窟のある方角だ。ちゃんと出かける前にほりほりしてきたから、行方不明扱いにはなっていないはず。それでもそろそろ帰ってこいということらしい。

 隣では、レオンハルトが添え木のついた脚を抱えたまま、今にも泣きそうな顔で同じ方向を見ている。


 帰らなくちゃ。でも、この子は歩けない。



 もう一度、遠くでお母さんの声がした。


 さっきより、ほんの少し近かった。

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― 新着の感想 ―
レオンハルトもやばいがもっとやばいのはフィロン。確実に母に仕留められる。
そう言えばレオンハルト君てば男と認識されてるみたいだし玉と竿はついてる?けど神獣だからそれが相応の年齢になっても機能が発現しないってことかしら。 ガウーワくんちゃんの体も一応男女どっちかになってるのか…
氷嶺白虎ご本虎から直接生態系について聞き取り調査するという功績…!
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