☆これまでの登場人物2 ルーヴェル使節団
忘れないようにの設定まとめと、今後人名が出る時に「こいつ……誰だ……?」となった時に気が向いたら読み返してもらう為のものです。読み飛ばし可。
【ルーヴェル王国】
西方に広い国土を持つ大国。褐色の肌に黒髪の者が多く、なかでも古くから続く高位貴族の家系ほどその特徴が顕著に現れる傾向がある。瞳は黒から濃褐色が多数派だが、金褐色や灰色も珍しくない。これは血統の純粋性を尊ぶ思想とは直接結びついておらず、単純に王侯貴族同士の婚姻圏が長く続いた結果。
女神がかつて人々の前へ人の姿で顕現した際も褐色の肌と長い黒髪を持っていたと伝えられ、現在の神像もその姿を基本としている。そのため褐色肌や黒髪そのものを神聖視するわけではないが、「女神様と同じ色」と幼児へ教える家庭は多い。外国人から見ると神官まで妙に身体が仕上がっている国だが、本人たちにはだいたい普通のこと。神官ってこういうかんじ。
【ルーヴェルの女神信仰】
アルディナと同じ女神を信仰するが、ルーヴェルでは女神が人々を害する悪しきものを打ち倒した「戦神としての御姿」を特に篤く信仰している。
ただし好戦的な宗教という意味ではなく、教義の中心にあるのは「害する力を持つものから、持たないものを守ること」。
祈りだけ捧げて誰かが食われるのを眺めているのは信仰ではない、という物理的な思想を持つ。
神官教育には神学、典礼、読み書き、治癒術などと並んで武闘術が正式な基礎科目として存在し、ルーヴェル式空手、ルーヴェル式徒手空拳、ルーヴェル式組打ち、投げ技と寝技を中心とするルーヴェル式プロレスなど、神殿や地方ごとに妙に多彩な流派がある。高位神官ほど長く教育を受けるため、結果的に偉い神官ほど強いことが多い。
一方で神官が剣や槍などの武器を常時携帯することは禁じられている。戦うための武器を持つ者には騎士や兵士という別の務めがあり、神官が神職としての権威と武器による威圧を同時に振るうことを戒めるため。
ただし巡礼者は野盗や魔獣に襲われる可能性があるため、護身用の杖と拳へ装着するナックルのみ例外として認められている。このため「武器を持たない聖職者」のはずなのに、強盗が神官の巡礼団を襲うと十人ほどの神官から素手と杖で袋叩きにされるという奇妙な事故が時々起こる。巡礼に参加する神官は治癒術も身につけているため、最悪の場合完全なる善意のもと、『改心するまで回復させながらぶん殴り続ける』という、襲撃者にとっての地獄絵図が完成することもある。
神獣に対しては非常に強い崇敬を持つ。特に氷嶺白虎は古くから女神に連なる聖獣として伝承され、人間が神獣を所有したり服従させたりすることは認められない。
ただし「高位の存在だからこそ、人間が安全な聖域と奉仕を用意すべきだ」という発想も強い。
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【ゲルハルト・アイゼンベルク】
ルーヴェル王国使節団長を務める高位神官。五十代後半。黒髪にはかなり白いものが交じっているが、褐色の肌と彫りの深い顔立ちはいかにもルーヴェルの旧家出身者らしい。
レオンハルトの父とは学生時代からの親友で、若い頃から王宮と大神殿を行き来する神官として働いてきた。真面目で責任感が強く、普段は多少頑固ながら常識のある人物だが、一度「自分が守らなければならない」と思い込むと周囲が見えなくなる。レオンハルト失踪時にはその性質が最悪の方向へ爆発し、大人四人にしがみつかれながら全員まとめて山へ運搬した。専門はルーヴェル式徒手空拳と組打ち。本人はもう若くないと言うが、若い神官から見ると「何を基準に言っているんですか」となる程度には現役。
若い頃に婚約者を事故で亡くしており、それ以降は独身。生涯独身を誓ったわけではないものの、新しい縁談を勧められてもその気になれず現在に至る。
兄弟姉妹や甥姪とは仲が良く、特に甥のオスカーには実子に近い感覚を持っているが、それ以上に甘いのがレオンハルト。レオンハルトの父から頼まれ、彼が生まれた際に自分の名前の一部である「ハルト」を与えている。ルーヴェルでは自分の名の一部を新生児へ与える風習があり、親子や祖父母から孫など血縁者間では時折行われるが、血の繋がらない他人への「分名」は非常に珍しい。勝手に名乗らせることはできず、双方の家から神殿へ書類を納め、名を分ける者と両親、新生児が揃ったうえで特別な祝福を受ける必要がある。「この人の徳が、この子の人生にも宿りますように」という祈りを形にする儀式であり、名を求められる側にとって大変な名誉。親友から自分の名を息子へ分けてほしいと頼まれた時には、儀式中は平静だったが終了後に別室で泣いた。以来レオンハルトを洒落にならないくらい可愛がっている。本人は公平に接しているつもり。
【オスカー・ライネルト】
二十代半ばの若い神官。ゲルハルトの妹の息子で、彼にとって甥にあたる。母親がアイゼンベルク家からライネルト家へ嫁いだため姓は異なる。褐色の肌に黒髪、精悍な顔立ちで、黙っていればいかにも真面目な若手神官に見えるが、感情が顔にも口にも出やすい。若い頃──といってもまだ十分若い──にはかなり荒れており、神学校時代は授業を抜ける、制服を着崩す、他校の学生と喧嘩する、門限を破るなど一通りやった。
喧嘩そのものは強かったため本人も一時期それを誇っていたが、孤児院へ奉仕に行った際、自分より弱い子供へ暴力を振るう大人を目の当たりにし、「強いこと」と「何のために強さを使うか」はまったく別だと初めて理解した。
その時に年長の神官から教えられた「本当に邪悪なものには、信仰でしか勝てない」という言葉を現在まで大切にしている。
ルーヴェルにおける信仰とは祈祷だけを意味しない。悪しきものを止めるために身体を鍛え、技を学び、恐ろしくても前へ出て、守るべき相手の前に立つことまで含めて信仰である。そのためオスカーなりの解釈では、かなり端的に「悪いやつを止めるには最終的に武力がいる」。
得意なのは蹴りを多用するルーヴェル式空手で、昔の喧嘩癖がいい方向へ矯正された結果、若手神官としてはかなり強い。大神殿勤務時代から孤児院へ頻繁に出入りし、子供の面倒を見るのが上手い。反面、大人相手には短気で、腹を立てると口が先に動く。アリアへの暴言もその最悪の例。レオンハルトとは年の離れた従弟か弟のような感覚で接している。
【ヘルマン・クラウゼ】
五十代後半の参事官。使節団に同行する文官の最高責任者であり、実質的な副団長。褐色の肌に短い黒髪、両鬢には白いものがかなり交じっている。
神官ではなく王国官僚なので武闘術は学校教育程度しか修めていないが、それでもアルディナの一般文官よりはだいぶ身体が頑丈。
会談中にアリアの素性へいち早く気づき、ゲルハルトへ耳打ちした人物でもあり、使節団の中では最も政治感覚が鋭い。ゲルハルトが感情的になった際に代わって指揮を執れるよう選ばれており、実際レオンハルト失踪直後には村内捜索、出入口の封鎖、早馬による侯爵家への連絡までほぼ即座に決定した。ゲルハルトとは二十年以上仕事をしているため、尊敬はしているが「この人は平時には非常に優秀だが身内が絡むと駄目になる」と完全に把握している。
妻と成人済みの娘二人がおり、長女にはすでに子供がいるため祖父でもある。孫へ土産を買うのが趣味だが、本人の趣味が地味すぎるため木彫りの筆箱、変わった石、外国製の定規などを買って帰っては妻から「もう少し子供が喜ぶ物を選べないの」と言われている。
本人は毎回かなり真剣に選んでいるし、孫たちからは好評。信仰心は穏健で、奇跡や神獣そのものへの熱狂よりも「女神の教えを制度としてどう人間社会へ落とし込むか」を重視する。神獣をルーヴェルへ迎える案にも賛成だが、それは国家の名誉よりも安全な受け入れ場所を確保する意味合いが強い。今回の会談後、最も早く「聖典の解釈勝負を続けても駄目だ」と判断した一人。
【ルドルフ・フェルナー】
三十歳前後の神殿書記官。細身で黒髪、褐色の肌に長い指を持つ。使節団では記録、書類作成、典拠確認、各部署との連絡を担当しており、ゲルハルトが口頭で決定した内容を「あとで揉めない穏当な文章」へ変換するのが仕事。
神官資格も持っているが典礼より文書実務を専門としており、本人も「私に魔獣を殴らせるより書類を書かせた方が女神様もお喜びになる」と言っている。ただしルーヴェルの神官なので当然のように基礎武闘課程は修了済み。得意科目はルーヴェル式プロレスで、細身のため弱そうに見えるが相手の体重を利用して転がすのが異様に上手い。本人は武術を趣味にする気がまったくないので、大神殿の年一回の実技確認以外ではほぼ披露しない。
感情の起伏は小さいものの冷淡ではなく、むしろ他人が取り乱した時ほど自分が平静でいようとする性格。レオンハルト失踪の際、ゲルハルトが何度も書き損じた侯爵家宛の書状を黙って清書した。レオンハルトとは今回の旅以前にも何度か会っており、賢い子だとは思っていたが、旅のあいだ大人を言いくるめるように議論へ入り込んでくるため「アルセイン侯爵は大変だろうな」と密かに同情していた。行方不明になったあとはその感想を猛烈に反省している。
【その他の神官】
三名ほど。三十代から四十代を中心とした中堅で、神獣関係の典礼、治癒術、結界術をそれぞれ専門とする。全員が武闘課程修了者。ルーヴェルでは神学論争をする神官も、病人へ治癒を施す神官も、十代のうちに一度は道場で床へ叩きつけられる。
使節団へ参加する程度には神獣信仰が篤いが、ゲルハルトほど神獣を間近で見たいという気持ちは強くなく、「遠くから拝めれば一生自慢できる」くらいの者もいる。今回の騒動では一名が村へ残る救護役となり、二名が捜索班へ分かれる。
【護衛】
六名ほど。王国正規軍および神殿護衛隊から選抜された者たち。神官と違って武器の携帯制限がないため、剣、槍、弓などを装備する。信仰上は「神官を守る者」というより「神官が守るべき民のところへ無事にたどり着けるよう道を作る者」という扱い。
使節団の神官が全員ある程度戦えることを知っているので、他国の護衛より「要人を後ろへ下げる」意識がやや薄く、ゲルハルトが敵へ突っ込んだ場合には「まあゲルハルト様なら大丈夫だろう」と一瞬判断してから、いや団長を戦わせるな、と追いかけることになる。今回レオンハルトを失踪させたことについては全員かなり堪えている。
【随行員】
二名ほど。馬、荷物、宿泊用品、神殿への連絡などを受け持つ実務要員。神官でも軍人でもないため基本的に戦わない。守られる側。使節団における姫ポジ。
使節団が十五人規模で長距離移動できているのはほぼこの二人のおかげだが、会談の席にはほとんど出ないので存在感が薄い。本人たちは「偉い方々は神学論争をしていればいい、明日の馬の餌を考えるのはこちらだ」という現実的な立場。




