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最強つよつよ白虎になって異世界を無双しよう!  作者: もこもこハダカデバネズミ


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23/33

『異(略)』②

 結論から言うと、俺はアルディナ王国へ向かうことができた。


 もちろん、父上に神獣を見に行きたいと話して、その場で「いいよ」と許可が出たわけではない。

 むしろ翌朝、朝食が終わるのを待って書斎へ押しかけ、「アルディナへ行きたいです」と切り出した瞬間、理由の半分も説明しないうちに「駄目だよ」と返された。早い。せめて最後まで聞いてほしい。

 母上まであとから話を聞いて、「十歳の子を国境の外へ出したがるわけがないでしょう」と父上の肩を持ったので、最初は二対一だった。


 でも俺には《万語理解》がある。


 今まで黙っていたことについては少し怒られたけど、隠していた訳ではなく使う機会がなかっただけなんだから仕方ないだろ。祭祀院から何人か呼ばれて、南方語だの北方語だの、途中からは古い方言まで交ぜて試されたけど、全部普通に聞き取れた。

 最後の方は父上も怒るより頭を抱えていたし、ちょうどルーヴェルからアルディナへ、神獣への礼拝と現地状況の確認を目的にした使節団を送る準備が進んでいたこともあって、通訳の補助として同行する話がようやく現実味を帯びた。


 俺は侯爵家の子供なので最低限の礼儀も知っているし、剣も使える。護衛だっている。それでも父上はかなり渋ったけど、最後には山ほど条件をつけて許可してくれた。


 勝手に一行から離れない、護衛の指示には必ず従う、神獣を見つけても一人で近づかない。あと、貴族の子供をわざわざ同行させたと知られるとアルディナ側にも余計な気を遣わせるので、現地では使節団長付きの見習いのように振る舞うこと。


 服もいつもより地味なものを用意された。普段着ているものより少しごわごわしていて、正直あまり着心地はよくない。でも、その辺は仕方ないだろう。

 地方の村は王都ほど裕福じゃないだろうし、あんまりいい格好をしていれば目立つ。金持ちの子供だと思われて、荷物でも盗まれたら面倒だ。


 今回の使節団をまとめているのはゲルハルトさん。正確には祭祀院で父上の部下にあたる人らしいけど、学生の頃からの付き合いなので、俺からすると父上の部下というより昔から家へ来る父上の友達のおじさんという感じが強い。


 俺が生まれた日は、外を歩くのも危ないくらいの大嵐だったけど、無事生まれたと聞いて高位神官のくせに供もつけず馬車も待たず、一人で歩いてうちまで来たそうだ。

 屋敷へ着いた時には全身びっしゃびしゃで、途中で二回くらい転んで、玄関へ入ったところで使用人に捕まって毛布を何枚も巻かれ、その格好のまま俺に祝福の祈りを捧げたらしい。


 これは父上がことあるごとに話題へ出すので俺も完全に覚えてしまった。ゲルハルトさんが家へ来ると、だいたい三回に一回くらいは「レオンハルトの誕生日にゲルハルトの葬式がはじまるところだった」と笑い、本人が露骨に嫌な顔をするところまでセットだ。


 そんな話を聞いて育ったので、俺にとっては偉い神官様以前に、情に厚くて面倒見の良いおじさんとしか思えない。ただ、そういう人だからこそ父上から俺を任された責任をかなり重く考えているらしく、出発して半日もしないうちに釘を刺された。


「レオンハルト。アルディナへ入ったら、人前で私を『ゲルハルトさん』と呼ぶのはやめなさい。私は君の父親の友人として行くんじゃない。ルーヴェル王国の使節団長として赴くんだ」


「ゲルハルト様と呼べばいいですか?」


「そうだ。それと、向こうでは私付きの見習いとして振る舞いなさい。いつもの調子で喋っていれば、育ちのいい家の子供だとすぐ分かる。隠すと決めた以上、中途半端にしないように」


 そこまで言われれば仕方ないので、俺は素直に頷いた。ゲルハルトさんはこういうところが細かい。でも考えてみれば、父上から「ちゃんと連れて帰ってこい」と言われているんだろうし、十歳の俺が外国で何かやらかせば自分の責任になる。そう考えると当然の話だった。


 旅そのものも、思っていたよりずっと楽しかった。馬車で何日も揺られるなんて退屈するかと思っていたけど、同行している人が十五人近くいれば毎日何かしら起きる。


 ゲルハルトさんの甥っ子のオスカーさんは、最初の二日くらいは俺を侯爵家の子供として扱うべきか、ただの同行者として扱うべきか迷っていたらしい。でも三日目には、俺が馬車の窓から身体を乗り出しただけで頭を鷲掴んで引っ込めるようになった。

 言葉遣いはちょっときついけど面倒見がよく、寒そうにしていると黙って自分の分の膝掛けを譲ってくれるし、手袋を片方なくした日は自分の予備を貸してくれた。大人用なので指先が余りまくって剣を握れなかったけど、そこまで言うと嫌な顔をされそうだったので黙っておいた。


 白冠聖典とかいう難しいものを研究しているマティアスさんは、神官なのにかなりお酒が好きで、宿へ着くたびにその土地の酒を試したがる。

 ゲルハルトさんから「明日に響くほど飲むな」と毎回言われているのに、一度だけ本当に飲みすぎて、翌朝馬車の揺れで死にそうな顔になっていた。


 文官のエーミルさんは俺の水筒が空になると勝手に満たしてくれるし、宿では俺の部屋が寒くないか最初に確認するくせに、自分の荷物は二回も別の馬車へ置き忘れた。二回目には護衛の人から荷札の紐を首にかけられていた。本人は怒っていたけど、誰も助けなかったのでたぶん日頃から似たようなことをしているんだと思う。


 国境近くで一度大雪に降られ、予定していた宿場まで進めなくなった時には、街道沿いの小さな修道院へ泊めてもらった。


 部屋が足りず数人ずつの雑魚寝になり、俺もゲルハルトさんたちと同じ部屋へ押し込まれた。侯爵家に生まれてから床に寝るなんて初めてだったので、俺としてはむしろ冒険っぽくて楽しい。


 毛布は硬いし、隣のマティアスさんはいびきがうるさいし、夜中にオスカーさんが寝ぼけて俺の毛布を半分取ったけど、そういうのもあとから思い返せばいい思い出になるだろう。

 修道院で出された豆の煮込みが妙にうまくて、俺が三杯目を頼もうとした時だけはオスカーさんに止められた。


「その身体でどこに入るんです。明日、馬車の中で腹が痛いと言われても知りませんよ」


 まだ食べられたと思う。でも旅先で腹を壊して一日寝込む主人公は格好悪いので、そこは大人しく諦めた。


 年嵩の文官であるルドルフさんは針も薬も予備の靴紐も何でも持っていて、途中から俺は困ったことがあればとりあえずルドルフさんに聞くようになった。

 本人はそのたびに「私は便利袋ではありません」と言うのに、結局ちゃんと出してくれる。


 護衛をまとめているディートリヒさんは口数が少なく、最初はちょっと怖そうに見えたけど、馬が休みたがっている時には誰より早く気づくし、夜営で余ったパンをこっそり犬にやっていた。俺が見ていることに気づいたら、人差し指を口へ当てられたので黙っている。



 こういう人たちと何日も同じ道を進んでいると、使節団という堅苦しい言葉より、だんだん旅の仲間という感じがしてきた。


 ただ、旅の途中でひとつだけ、俺とみんなの考えが少し違うことには気づいた。


 ゲルハルトさんたちは、神獣へ会いに行くつもりがほとんどなかったのである。

 正確には、自然に姿を見せてくださるなら礼拝する。でもこちらから山へ入って探し回ったり、接触を求めたりはしない。現地でどのような状態にあるのかを確認し、アルディナ側から話を聞いて、そのまま帰国するつもりらしい。父上と同じ考えだ。

 神獣が向こうで静かに暮らしているなら、それを人間が邪魔するべきではない。


 それ自体は正しいと思う。ただ、それだと俺が困る。


 いや、俺だけの問題ではない。神獣にだって選択肢は必要だろう。アルディナの山でそのまま暮らしたいのか、ルーヴェルへ来てみたいのか、あるいは別の場所へ行きたいのか。こちらが勝手に「今のままが幸せなはず」と決めて何も知らせないのだって、人間側の押しつけには違いない。


 それに何より、ここまで来て神獣を遠くから拝んで帰りました、ではイベントとして弱すぎる。俺が十歳まで待ってようやく始まった物語なんだから、もう少しくらい何かあるだろうと思う。


「神獣様がルーヴェルへいらっしゃる可能性って、まったく考えないんですか?」


 馬車の中でそう聞いた時、ゲルハルトさんは手にしていた書類から顔を上げた。


「考えないというより、我々から求めることではない。レオンハルト、出発前にも言っただろう。私たちは神獣様を連れ帰るためにアルディナへ向かっているんじゃないんだ」


「もちろん分かってます。無理やり連れてくるのは俺も反対です。でも、神獣様がルーヴェルを見てみたいと思う可能性はありますよね? 俺たちが何も話さなかったら、選びようがないでしょう」


 ゲルハルトさんはそこで少し黙った。俺は別に変なことを言ったつもりはない。ルーヴェルでは白虎をずっと聖獣として祀ってきたし、王都大神殿には広い聖域もある。そこを紹介するだけなら、神獣の自由を奪うことにはならないはずだ。


「……自然にお話しする機会があれば、ルーヴェルで白虎がどのように敬われているかをお伝えするくらいは構わない。だが、それとこちらへお招きする話は別だ」


「ですよね。俺もそう思います」


 嘘ではない。本当にそう思っていた。ただ、そうなると次に気になるのは、もし神獣がルーヴェルへ行きたいと言った場合だ。

 受け入れる場所はあるのか。食事はどうするのか。環境は合っているのか。国境を越える時にはどうするのか。

 一度気になり始めると、俺はいろいろ質問した。最初はマティアスさんが面白がって答えてくれて、王都大神殿の北側には普段ほとんど人が入らない広い聖域があり、白虎なら気候も問題なさそうだと教えてくれた。食事だって、昔は家畜を奉納する祭祀があったくらいだから用意できないわけではないらしい。

 するとエーミルさんが横から、「食肉の供給まで考えるなら王都より北部神殿の方が現実的でしょうね」と言った。その直後に「いや、別に連れて帰る話ではありませんけど」と付け足していたけど、一度口にした以上、選択肢として存在することには変わりない。


 翌日は、神獣と一緒にいる氷嶺白虎の話になった。そもそも神獣と聖獣は別物だ。見た目が同じ白虎だからといって、向こうが神獣を自分たちの仲間や家族として認識しているとは限らないんじゃないか、と思った。

 神獣だけ何かが違うせいで避けられていたり、群れから追い出されていたりする可能性がある。それなら人間の側で保護した方がいいかもしれない。野生で暮らしている以上、縄張り争いや群れの中での争いくらいはあるだろう。


「神獣様って、ほかの白虎からちゃんと仲間だと思われているんですか?」


 そう聞くと、ゲルハルトさんはすぐには答えなかった。確認された記録そのものが少ない以上、こちらまで詳細はそこまで伝わっていない。だったら、なおさら確かめた方がいい。俺が「もし群れの中でうまくやれていなかったら、ルーヴェルで保護することも考えた方がいいですよね」と続けると、今度はなぜか少し長いこと見られた。俺としては、神獣様が困っている可能性まで考えているだけなんだけど。


「……レオンハルト。お前、さっきから神獣様が白虎の群れで冷遇されている前提で話していないか?」


「前提にはしてませんよ。仲良く暮らしているなら、それが一番です。でも確認するまでは分からないでしょう?」


「だからといって、分からない段階から保護の話を始める必要はない」


「でも、実際に困っていると分かってから『何も用意してません』じゃ遅くないですか? ルーヴェルで受け入れられるようにしておくだけなら、神獣様にも損はないと思うんです」


 そう言うとゲルハルトさんは眉間を押さえ、向かいにいたオスカーさんが吹き出した。


 俺としては普通の話をしているだけだ。神獣が俺を選んでくれた時、準備不足で断るなんて一番駄目だろ。

 ゲームでも何でも、重要イベントが起きてから必要な道具を持っていないことに気づくのは悲しい。事前準備は大切だ。


 それから数日すると、俺が聞かなくてもみんなの方から話すようになった。王都大神殿の聖域では少し狭いかもしれないとか、西部の神殿なら雪が多いとか、人が不用意に近づけないよう警備するならどこがいいとか。


 最初は俺が何か言うたび「迎えに行くわけではないからな」と注意していたゲルハルトさんも、国境を越えた頃には「仮にお迎えすることになったとしても、当然まずアルディナ王国の許可が必要だ」と言うようになっていた。仮に、がついているのでまだ完全ではない。でも最初よりずっと具体的になっている。


 一度、ルドルフさんから「レオンハルト様はずいぶん熱心ですな」と笑われたので、神獣が好きだからと答えておいた。これも嘘ではない。白虎なんて格好いいに決まっている。


 ただ、俺のためにようやく始まったイベントを、何もしないまま誰かに終わらせてほしくないだけっていうのがいちばん大きい。


 それでも、俺一人のために使節団の方針を変えてくれなんて頼んだ覚えはない。

 みんな俺よりずっと長く生きていて、それぞれ神官や文官として仕事をしてきた大人なのだから、嫌なら十歳児の話くらい聞き流せるはずだ。その人たちが自分で考えて、「もし神獣様がお望みになるなら、ルーヴェルへお迎えするのも悪くない」と思うようになったのなら、それは別に俺がどうこうしたわけではない。イベントとして選択肢の正解を踏んで、いい感じに進んでいるんだと思う。


 みんなも本当は、ずっと楽しみだったんだろうな。自分たちの国で昔から聖獣として祀ってきた白虎が、実在するどころか神獣だったなんて、どう考えても嬉しいだろう。しかも使節団の中心は神官ばかりだ。ほんとはもっとはしゃぎたかったのを、立場とか年齢とかで我慢していただけなのかもしれない。 

 俺も前世では、大人になるほど本当に嬉しい時ほど大はしゃぎできなくなったし、そういうのはなんとなく分かる。俺があれこれ話したことで、みんなが少し素直に楽しめるようになったのなら、それはそれで嬉しかった。まあ、おじさんたちの好感度を上げてどうするんだって話ではあるけど。


 ルーヴェルでは白虎はずっと特別な存在だった。街道沿いの神殿へ寄れば白虎の彫刻があるし、子供向けの昔話にも出てくる。

 ゲルハルトさんでさえ子供の頃は白虎の木彫りを枕元へ置いて寝ていたらしい。これはオスカーさんが本人の目の前で教えてくれた。


「余計なことを言うな」


 ゲルハルトさんが本気で嫌そうな顔をしたので、俺とオスカーさんは笑った。その木彫りの人形は、オスカーさんに引き継がれて幼少期の夢を守ってくれたという。親族同士のほのぼのエピソードだ。


 旅の後半には、神獣を迎えられた場合の話は半分くらい普通の雑談になっていた。


 名前を人間がつけていいのか、そもそももう名前があるのか、祭りを増やしたら嫌がられないか、白虎の像を本人へ見せたらどういう顔をするのか。


 ゲルハルトさんは「神獣様を観光資源のように話すものではない。不敬だぞ」と何度も注意していたけど、自分でも王都大神殿の聖域には新しく水場を作った方がいいかもしれないと言っていたので、もう似たようなものだと思う。

 定説通りなら神獣は美少女に擬人化するものだと思うんだけど、その辺はどうなんだろう。さすがにそこまでやると盛りすぎかな。でも白虎の擬人化少女って、普通にそそるよなあ。ルーヴェルに来た途端、教会で突然神獣が美少女に! ありそうなイベントだ。美少女姿なら住む場所も食事も想定しやすいし、良いと思う。


 馬車の車輪が泥にはまって全員で押したり、泊まった宿の犬がなぜかオスカーさんにだけ吠えたり、エーミルさんが自分用に買った干し果物を一晩でほとんどマティアスさんに食べられて大人同士の大喧嘩を今世ではじめて見たり、毎日それなりに楽しかった。


 父上や母上からこんなに長く離れたのも、自分の足で別の国へ来たのも初めてだ。異世界転生。外国への旅。神獣。それに一緒に笑える旅の仲間。かなり主人公っぽくなってきた。あとは神獣と出会えば、いよいよ本編開始である。





 そんなふうに道中を過ごしながら、俺たちはようやくセデ村へ着いた。思っていたよりずっと小さな村で、王都や領地の町を見慣れている俺からすると、ここが神獣騒ぎの中心なのかと少し拍子抜けするくらいだった。

 雪に囲まれた家々も道も静かで、もっとこう、神獣出現! 各国騒然! みたいな雰囲気を想像していた俺としては少し地味だ。拍子抜けと言ってもいい。でも、長い旅の終わりにようやく目的地へ辿り着いたと思うと、それだけで気分が上がった。


 いよいよここから本番だな、と周囲を見回していたところで、アリアという女の人が出てきた。最初は、若い神官だなと思っただけだった。二十歳前後だろうか。十代の終わりくらいにも見える。前世でも女性の年齢を当てるのは苦手だったし、外した時にろくなことにならないので考えないようにしていた。


 ただ、顔は普通に可愛い。いや、素の顔が整ってるな。ナチュラルメイク、という訳では無さそうに見える。髪はきちんとまとめられて、服装も神官らしく派手ではないのに地味には見えなかった。

 目が大きく、黙っていればかなり柔らかそうな顔立ちをしている。外套を着込んでいるのにお胸が大きいことまで分かるので、中身は相当だと思う。おお、と思った。何というか、急にそれっぽい人が出てきた。


 それにルーヴェル語がうまい。《万語理解》のある俺だからよく分かるけど、ゲルハルトさんたちが普通の速さで話しても一度も聞き返さないし、言葉の選び方も自然だった。


 辺境の村へ派遣された若い神官というだけなら、ここまで出来る必要はなさそうなのにな。


 そして、何より口が強かった。ゲルハルトさんは口論が苦手な人じゃない。むしろ仕事柄かなり得意だと思う。父上とも昔から議論になるらしいし、俺がお願い事をしても理由が足りなければ普通に却下する。

 それなのにアリアさんは、ゲルハルトさんが聖典を持ち出すたびに版の違いだの昔の解釈だのを引っぱり出し、そのまま押し返してくる。


 あ、これ強キャラだ。


 俺は少し離れた後ろで黙って見ていた。今は俺の身分を隠しているし、いきなり割って入る場面でもない。こういう時はまずイベントを見て、必要になったところで動くのが一番格好いい。


 ただ、途中から少しゲルハルトさんたちが押されすぎていた。


 俺としては神獣を無理やりルーヴェルへ連れていくつもりなんてない。本人の意思を聞いて、もし向こうが望むなら迎える。そのための準備を考えてきた。それをきちんと説明できれば別に悪い話ではないはずなのに、ゲルハルトさんは旅の途中で俺たちと話していた時より言い方が固い。

 外交というのはそういうものなのかもしれない、と考えていたところで、オスカーさんがやらかした。


『東の女は口ばかり達者だ。神殿は娼婦にまで弁論を教えるのか』


 聞こえた瞬間、俺は心の中で頭を抱えた。あーあ。それは駄目だろ。二十代ってこういうところあるよなあ。頭に血が上がると、絶対あとで後悔することをその場の勢いで口にする。俺も前世で若かった頃は似たような失敗くらいした気がするけど、さすがに外国の神官を娼婦呼ばわりしたことはない。

 普段のオスカーさんはいい人なんだけどな。宿場で子供にまとわりつかれた時も、最初は面倒そうにしながら最後には肩車をしていた。口の悪さが玉に瑕というやつで、今回はその瑕がちょっと深かった。


 ゲルハルトさんの顔を見るまでもなく失言だし、当然のようにアリアさんにも聞こえていた。しかも、笑顔のまま全部言い返された。


 うわあ。強い。


 オスカーさんは完全に黙り、ゲルハルトさんまで頭が痛そうな顔になっている。俺だって助け船を出せるなら何か言うけど、今出ていけば「ところでこの子供は誰だ」というところから始まるので動きにくい。



 そのあと、ルドルフさんがゲルハルトさんへ小声で何か耳打ちした。もちろん俺には全部聞こえた。アリア・アルヴェーン。以前はかなり高い身分の貴族だったらしい。今は家名を返しているけど、アルディナの現国王が事実上の後見人みたいな立場にいる。下手に圧力をかければ、国王本人が出てくる可能性まである。


 俺はもう一度アリアさんを見た。元高位貴族令嬢。今は家名を捨てて神官。国王から特別に気にかけられている。外国語が堪能。頭がいい。辺境の村まで来て神獣を守っている。顔も可愛い。胸も大きい。


 設定、盛りすぎじゃないか? と思ったところで、急に全部がつながった。


 ああ、分かった。これ、メインヒロインだ。


 考えてみれば当然としか思えない。異世界転生して神獣と関わっていく話なのに、ずっと男と虎だけということもないだろう。俺には婚約候補が何人かいるけど、あっちは幼なじみとか政略的な意味とか、たぶん序盤の日常パートの設定だ。アリアさんは明らかにイベント側の人間。


 しかも年齢もちょうどいい。今の俺の身体だけ見れば十歳なので、もちろんすぐどうこうという話じゃない。そのくらいの常識は俺にもある。アリアさんがショタコンになっちゃうしな。


 でも中身は前世込みなら四十年以上生きているわけで、今世の同い年くらいの女の子を恋愛対象として見る方がさすがに無理がある。俺はロリコンじゃない。


 その点、アリアさんくらいなら前世の感覚でも普通に女性として見られる。若いけど子供ではないし、可愛いけど俺が一から面倒を見る必要もない。


 頭が良くて、自分で考えて行動できて、神官なら旅に出ても変じゃない。元貴族なら俺の家族へ紹介する時だって話が早いだろう。かなり都合がいい。


 神獣イベントだけでも十分なのに、ヒロインまで一緒に用意されているとは思わなかった。十年間何も起きなかった分、一気に来たなあ。



 その時、アリアさんがこちらを見た。目が合ったので、俺は反射的に笑った。こういう時、子供の顔というのは便利だ。普通にしているだけでも大人より警戒されにくいし、自分で言うのも何だけど俺は顔がいい。父上も母上も整っているし、兄上だってかなり見栄えがするので遺伝だろう。


 アリアさんは一瞬だけ何か考えるような顔をしたあと、こちらへにっこり笑い返してくれた。

 ほら。やっぱり。俺も自然に笑みを深くした。いやあ、美少年に生まれてよかった! これ、一目惚れしてくれたな。絶対!





今回の『なんか嫌~~!ポイント』


〇アリアの人生や経歴を「設定が盛られたメインヒロイン」として処理している。

〇神獣の意思を尊重すると言いながら、「自分の物語のイベントを進めたい」が先にある。

〇自分が侯爵家の子供として周囲へ与える影響を無視して、自分の都合が良い方向に誘導を繰り返しながら「嫌なら十歳児の話くらい聞き流せる」と考えている。

〇自称40代の意識なのに成人直後と思われる若者のアリアをみて『丁度いい』と認識する。


〇胸のことを「お胸」といっている。

〇胸のことを「お胸」といっている。

〇胸のことを「お胸」といっている。


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― 新着の感想 ―
亡くなったの30代なのに中二病過ぎる思考回路が一番キモい。社会人としての常識どこに落とした
こいつ無意識に洗脳スキルか何か使ってないか? いくら権力者の息子に話を合わせても、普通は「ありえない妄想を膨らませてる子供」に見えるんじゃないか? 神官ならそういう子供を山ほど見たはず
目勃起バレてるぞ!!
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