↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強つよつよ白虎になって異世界を無双しよう!  作者: もこもこハダカデバネズミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/33

知命

 朝起きたら、家族の会話が分かるようになっていた。


 正確には私が分かるようになったわけではなく、洞窟の天井のどこかに潜んでいるらしいフィロンが、聞こえてくるものを片っ端から教えてくれているだけである。姿は見えない。昨夜のうちにちょうどいい隙間を見つけたらしく、声だけが普通に届いてくる。


 どこにいるの、と聞いても「君の母君から見えないところだよ」としか答えてくれなかったので、私も探さないことにした。これくらいがちょうどいい。私の動体視力では見つけられなくても、お父さんやお母さんの目なら、白い尻尾の先が一瞬見えただけで気づく可能性がある。

 そうなったらフィロンの蛇生は、一秒後に終了する。せっかく出来た友達なので長生きしてほしい。


 目が覚めてすぐ、私のお腹へ後ろ足を乗せたまま寝ていた一匹がもぞもぞ動いた。四匹の中でいちばん大きい男の子だ。私の上から足をどけ、そのまま寝ぼけた顔で立ち上がったところで、お母さんが低く喉を鳴らす。


「『ガブ、足元を見て歩きなさい』だそうだ」


「えっ。ガブ!?」


 私は一気に目が覚めた。ガブ。今までずっと、きょうだい、大きい子、元気な子、くらいの認識だった白虎を見る。本人は何も知らず、大あくびをしながら私を跨ごうとして、今度はちゃんと踏まないように足を上げていた。


「ガブ! ガブ!」


 尻尾をぶんぶん振りながら呼んでみると、ガブはぴたりと止まってこちらを見た。耳も前を向く。おおっ、通じた!? と思った次の瞬間、前足を大きく開いてお尻を持ち上げ、そのまま私へ飛びかかってきた。違う違う、遊ぼうじゃない。名前呼んでるの! 当然そんな説明は通じず、そのまま押し倒されて首元を甘噛みされる。


「自分に呼びかけていることは分かるみたいだけど、名前として伝わってないね」


「私の名前はガウーワで伝わったのに」


「君は幸運だったんだろう。虎の声帯でも、たまたま名前として通じる形で発音できたらしい。今の『ガブ』は、彼には自分へ向けられた鳴き声の一つにしか聞こえていないようだよ」


 そうなのか。私はガブに首を齧られたまま考える。たしかにガウーワは虎でも言えそうだ。がうーわ。がおー。わう。かなり虎寄り。

 でもガブだって、虎の口でもそんなに言いにくそうな名前ではない。お母さんがガブを呼んだときには、フィロンにはちゃんと『ガブ』という名前として伝わっているのだから、もしかすると私には同じように呼んでいるつもりでも、実際に出ている音が何か違うのかもしれない。

 人間だったころなら同じ「ガブ」に聞こえる程度の違いでも、虎同士だと別物になるとか。日本語で言うところの『雨』と『飴』みたいに、同じ音でも違うものになってるのかも。私にはどっちも「がお」としか聞こえない鳴き声の中に、家族には分かる細かい違いが山ほどあるみたいだし、その逆があってもおかしくない。


 そう考えると、前世の菜花火花なんて絶対無理だと思う。私が本気で「なのはなひばな」と発音しても、家族にはたぶん「んがうああうあ」くらいにしか聞こえない。その点、ガウーワは奇跡的にそのまま通じた。名前ガチャ、大成功だった。


 ガブを前足で押し返していると、隣で寝ていたもう一匹が起きた。左の前足にある黒い縞が途中で切れている子。寝起きなのに、ガブが何か楽しそうなことをしていると分かった瞬間、こっちへ寄ってくる。その途中でお父さんが短く鳴いた。


「『ヴァウまで加わるな。ガウーワが潰れる』と言っている」


「ヴァウ!」


 こっちはヴァウか! 名前を呼ぶと、やっぱり本人は耳をぴくっと動かしただけだった。そのまま私の前足を嗅ぎ、何を思ったのか齧り始める。うん。知ってた。名前を知ったところで中身は何も変わらない。こいつは今日も何にでも噛みつく。


 そして最後の一匹。額の縞がくるっと丸くなっている子はまだお母さんのお腹に顔を埋めて寝ていたけど、お母さんが鼻先で身体を押しながら何かを言った。


「『ナーヤ、起きなさい。乳を飲むなら今のうちに飲みなさい』」


「ナーヤ! ナーヤ!」


 ナーヤ。私はもう嬉しくて仕方がなくなった。ガブ、ヴァウ、ナーヤ。名前があった。いや、当たり前なんだけど。私だってガウーワと呼ばれているのだから、きょうだいにも何かしら呼び名がある可能性は考えていた。でも今までは聞き分けられなかった。誰が誰へ何を言っているのか分からないから、名前だけ拾うなんて出来るはずもなかった。


「ガブ! ヴァウ! ナーヤ!」


 三匹まとめて呼んでみる。ガブが飛びついてきた。ヴァウも飛びついてきた。ナーヤは眠そうに一度こちらを見て、そのままお母さんのお腹へ顔を戻した。全然名前として通じてない。でもいい。私には分かった。今までずっと一緒に寝て、ご飯を取り合って、雪の上を転げ回って、叔父虎の背中を一緒に滑っていたきょうだいに、ようやく名前がついた。私の中でだけだけど。嬉しい。朝からものすごく嬉しい。


「フィロン、他には!? いまなんて言った!? お父さん何か言った!?」


「待ちなさい。一度に聞かれても困るよ。いま君の父君は『朝から元気なのはいいが、少し静かにしなさい』と言っている。母君は『元気ならいい』。ガブは君と遊びたい。ヴァウも大体同じだが、こちらは君の前足を噛みたい気持ちの方が強い。ナーヤは眠い」


「全部見れば分かるやつだった」


「獣の意思というものは、いつでも人間の演説のように複雑なわけではないからね。腹が減った、眠い、近づくな、一緒に行こう。それだけで充分に生きていけるものさ」


 お母さんが誰かを鼻先で押すたび、お父さんが喉を鳴らすたび、きょうだいが鳴くたびに「いまのは!?」と天井へ聞く。フィロンはそのたびに、多少要約しながら教えてくれた。

 ガブは思っていたよりずっと「遊ぼう」が多かった。ヴァウはだいたい「これは何だ」「噛んでいいか」「遊ぶか」のどれかだった。ナーヤは鳴く回数そのものが少ないけど、お母さんや私へ身体を寄せるときには「ここにいたい」とか「離れないで」とか、そんな感じの意味があるらしい。かわいい。知ってたけど、意味が分かるともっとかわいい。


 一方通行だけど通訳が出来る人……蛇が来てくれて助かった~~!


 今までだって家族が何となく言いたいことは分かっていた。

 怒られているとか、呼ばれているとか、心配されているとか、それくらいなら声や身体の動きで分かる。でも「何となく」と「実際にこう言っていたらしい」は全然違う。


 私が一人ではしゃいでいると、洞窟の奥にいた叔父虎が起きてきた。大きな前足でのそのそ近づいてきて、私の匂いを嗅いだあと、そのまま頭をべろんと舐める。


 一回では終わらなかった。べろん。べろん。べろん。


 昨日あんなに心配させたからだろうか。頭から耳の後ろ、首筋まで念入りに舐められ、寝癖で渦巻いていた毛並みが綺麗に整えられていく。


「彼は君のことをよほど心配しているらしい。『元気になった。よかった。まだ変なところはないか』と、さっきから何度も確かめているよ」


「悪いことしちゃったなあ」


 昨日の夜、私が突然悲鳴を上げたせいで、叔父虎は真っ先に洞窟から飛び出してきた。そのあとも身体中を確認されたし、たぶん私が寝たあとだって気にしていたんだと思う。

 申し訳ない。申し訳ないけど、心配されるの、嬉しいなあ。うふふ。


 私は毛繕いされるまま前足を投げ出した。叔父虎の舌で頭が右へ左へ揺れる。べろん。べろん。愛されベビトラです。すみません。昨日はご心配をおかけしました。今日はめちゃくちゃ元気です。


 その叔父虎が、私を前足の間へ抱え込むようにしながらお母さんへ向かって低く鳴いた。お母さんが返す。叔父虎がもう一度、少し長く何かを言う。おっ。会話してる。


「なんておしゃべりしているの?」


 私はご機嫌のまま天井へ向かって聞いた。ところが返事がない。あれ、フィロン? と思っていると、少しして天井のどこからともなく声がした。


「ガウーワ。君には知る権利があり、君が私に聞くのなら、私には答える義務があると思う」


「待って……なにか……重い話がはじまる……?」


 さっきまでヴァウが私の足を噛みたいと言っています、みたいな話だったのに。突然なんだ。

 私は前足を揃え、真剣な顔になった。叔父虎がその真剣な顔をべろんと舐めた。顔面全部が舌に持っていかれた。もう一度真剣な顔を作る。べろん。叔父虎ちょっと待って。いま私の虎生に関わるかもしれない大事な話が始まるから。


「……知る権利を行使します」


「分かった。では、そのまま伝えるよ。彼は君の母君へ、『二本足程度の命とは言えど、まだ早すぎる。ガウーワはまだまだ生きられるだろう』と言っている。……君がどれくらい生きるのか、それを気にしているらしいね」


「二本足?」


「人間のことをそう言っているらしい。前後の意味を考えても間違いないだろう」


「人間……」


「ああ……」


「朗報……では……?」


 フィロンが黙った。叔父虎がまた私を舐めた。でも私はそれどころではなかった。


 人間の寿命。人間の寿命ってことは、五十年くらいはあるよね!? 織田信長が人生五十年って言ってたくらいなんだから、少なくとも五十年くらいは人間の寿命として認識されていたはずだ。現代日本ならもっと長いけど、ここがどれくらいの文明なのか分からないので、ひとまず五十年で考える。五十年。私がなんとなく想像していた虎の寿命より、三倍くらい長い。えっ。長生きじゃん!


「五十年くらい生きられるってこと!?」


「五十年という数字がどこから出てきたのかは分からないが、少なくとも彼らが君を『普通より早く死ぬかもしれない子』として心配していて、その比較対象に人間を使っていることは確かだね。

私が人だったころなら、五十まで生きれば充分に長く生きたと言う者もいただろう。幼くして亡くなる者も珍しくなかったし、人の糸をパルカエがいつ断つかなど、誰にも分からない。だが君の家族の感覚では、人の一生はずいぶん短いものらしい」


「それでも私には長いよ! 私、もっと早く死ぬと思ってたもん」


「ああ、そういえばそうだ。自分がこの世界で長く生き残っているから、そこら辺の感覚が鈍くなっていたらしい」


 むしろ大朗報だった。私はずっと、野生動物なんだからそんなに長生きしないだろうと思っていた。虎の寿命を正確に覚えているわけではないけど、人間より短かったことくらいは知っている。それが少なくとも、家族が心配している範囲では人間並み。思ったより長寿~~! 叔父虎はそんな私の心も知らず、また頭を舐めている。


「フィロンはどれくらい生きてるの?」


「さあ……数えるのをやめてからは分からないが、五百年以上は生きているよ。五百年を越えたあたりで、数えることそのものがひどく嫌になってね。それから先は季節を数えることもしなくなった。本当に分からないんだ」


「自暴自棄になったんだ……」


「誰とも言葉を交わせない時期が長かったからね。最初のうちは何年目か覚えていたんだが、数えても数えても終わらないと気づいてからは、だいぶ酷かったよ。人というものは、長く独りでいるようには出来ていないらしい。蛇になっても、そこだけは人のままだった」


「可哀想」


「そんな真っ直ぐに言われると少し困るね」


 フィロンの苦しい過去、少し掘るだけでいっぱい出てきそう。一旦横に置こう。今は私の寿命です。


 人間を寿命の短い生き物として例えているなら、たぶん普通の白虎はもっと長生きするんだと思う。その中で私は、人間程度しか生きられないかもしれないと思われている。


 理由は何となく分かる。喋れないし、きょうだいの中で一番小さいし、たぶん大人たちから見ればどこか普通と違う子なのだと思う。それで短命かもしれないと心配されているんだろう。

 でも前世人間の私からすると、五十年でも六十年でも生きられるなら充分長い。そりゃ百年、二百年生きられると言われたら嬉しいけど、野生動物として生まれて人間並みの寿命があるだけでもかなり得している。


「君が傷ついていないなら良かったよ」


「野生動物の中で捕食者として生まれただけで大当たりよ。これ以上は望まないつもり」


 本当にそう。私は今日も食べられる側ではなく食べる側。寒いけど毛皮がある。お腹が空いたら、お父さんかお母さんか叔父虎がご飯を持ってきてくれる。寝床はあったかい。きょうだいもいる。しかも長生きするかもしれない。十分です。人生二周目、今のところかなり引きがいい。


 天井から、フィロンが小さく笑う気配がした。


「ガウーワ。君は愛されているね。君の家族は、昨夜からずっと『元気になってよかった』と言っているよ。母君も父君も、彼も。きょうだいたちはそこまで事情を理解していないようだが、君がまた遊ぶようになったことは嬉しいらしい」


「えへへ」


 私は叔父虎の前足へ頬を押しつけた。愛に満ち溢れた虎生。勝ち組すぎる……。

 そのままうふふとなりながら叔父虎の胸毛へ顔を埋める。もふもふ。横からガブが乗ってきた。ヴァウも来た。ナーヤは少し離れたところでお母さんに舐められていたけど、こっちが楽しそうだと思ったのか、しばらくしてもぞもぞ寄ってくる。四匹まとめて叔父虎の前足の間へ収まり、ぎゅうぎゅうになった。最高。


「……少し、考えていることがあるんだ」


 天井からフィロンの声がした。常に何か考えている蛇が、また何か考えている……。


「難しい話?」


「それほどではないと思うよ。私たちは一度人として生き、その生を終えて、次の生では獣になった。私は蛇、君は虎だ。私自身がそうであったし、私がこれまで出会ってきた者たちも皆そうだった。

だから私はいつの間にか、『私たちのようなものは、人から獣へ生まれ直すものだ』と考えていた。だが、考えてみれば、それは私が出会った者が皆そうだったというだけの話だ。神々がそういう定めを置いたと、私が知っているわけではない。それなら、私たちと同じ存在で、人間から人間へ生まれ直した者もいるのかもしれない」


 私は叔父虎の毛の中から顔を上げた。人間から、人間。


「そんな人いるの?」


「分からない。ただ、少し前に一度、君が生まれたときとよく似た気配を感じたことがある。君のときほど近くはなかったが、間違えるとも思えない。西の方だった」


「会いに行かなかったの?」


「途中までは行ったよ。ただ、気配を追っていくと西国の王都へ続いていたので、そこで諦めた」


「なんで?」


 王都なら人間がいっぱいいそうだし、むしろ人間から人間へ転生した人がいる可能性は高そうなのに。フィロンの返事に少し間があった。


「西の国は、私がこの身体で最初に生まれた国なんだ。そして目を覚ましてそれほど経たないころ、人の住む場所へ近づいて捕まり、危うく美味しく食べられるところだった」


「ああ……それは仕方ない」


「だから、あまり近寄りたくない国になった。今の私なら、以前のように簡単には捕まらないだろう。それでもね、嫌な記憶のある土地へわざわざ戻ってまで、正体も分からない気配を追いたいとは思えなかった。

それに、もし本当に人として生まれ直しているのなら、蛇の私が突然会いに行く方が迷惑かもしれないだろう?」


 ものすごく仕方なかった。私だって生まれてすぐ地元民に捕まって鍋へ入れられかけた土地があったら、五百年経っても積極的には帰りたくないと思う。フィロンは人間のことを嫌っているわけではないみたいだけど、それとこれとは別問題だろう。


 人間から人間に転生。いいなあ。私たちは獣として生まれたせいか、同じ獣同士では言葉が通じないのに、人間相手なら普通に喋れるらしい。なんでそこだけ逆なんだ。


 もし人間として生まれていたら、そのまま人間同士で会話できるわけだから、同族と話せないという今の私たちみたいなデメリットが最初から存在しないことになる。

 そもそも人間として暮らすなら、人間と会話できれば大体それで足りる。前世の記憶があります。異世界へ転生しました。身体も人間です。周りの人とも普通に喋れます。何それ。ほとんど欠点ないじゃん。チート転生だ。いいなあ。



 私はちょっとだけ羨ましくなって、それから自分の周りを見た。叔父虎の前足の間。右にはガブ。左にはヴァウ。お腹のあたりにナーヤが頭を突っ込んできている。少し向こうにはお母さんがいて、その奥にはお父さんが伏せている。洞窟の天井のどこかには、喋る蛇までいる。


 ……でも、転生先を選べます、と言われても、やっぱり今の私がいいかもしれない。

 人間になれば手も使えるし、文字も読めるし、普通に喋れる。服だって着られる。ご飯も料理できる。お風呂もあるかもしれない。


 でも虎はもふもふだ。家族ももふもふだ。強い。ご飯を食べて寝て遊ぶだけでも怒られない。しかも私は、めちゃくちゃ愛されている。


 満足満足。


 私は叔父虎の胸元へもう一度顔を埋めた。人間から人間への転生も、たぶんいいものなんだろう。でも私の二周目は、これでいい。というか、これがいい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もふもふに生まれて、もふもふ家族に愛される。 しかも強い(≧∇≦)b 私もそういう転生したい! 笑
500年以上経っても前世のことを覚えてるなんて、彼にとってよほど大事なんでしょうね
本来の寿命は種族通りなのかな。そうなら、もりもり食べて沢山遊んで、元気一杯おおきくなれそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。