第1話 美少女三姉妹の幼馴染
俺、荒波勇信には、小さい頃からずっと大切にしている言葉がある。
『勇信、どうかお願いだ。三人のことを守ってやってくれ』
屋島花夫さん。
見た目はただのおじさんで、けれど俺が心から大切にしたいと思っている女の子三人の父親。
幼い時に彼から言われた言葉を俺はずっと胸に刻み、大切にしている。
「ってことで、柊花、捺花、春花? ちゃんと昨日出されてた課題はやったか? 俺、今年はクラス違うから見せてやれねーぞ?」
高校一年の秋の朝。
俺は、眠そうに家から出てくる美少女三人に語りかける。
「ちゃんとやりましたよーだ。いつまで経っても勇信に言われないと課題できないような子じゃありませーん」
眠そうにしながらも元気よく俺に言ってくるのは、三姉妹のうちの次女、捺花。
ポニーテールが特徴的で、最近クラスの男子に告白された、とか俺に相談してきた。
正直複雑な気持ちではあったが、なんとか平静を装って「よかったな」と相談に乗ったものだが……。
実際に冷静にいつも通りな対応ができていたかは怪しい。
捺花が彼氏……。
大切な恋人を奪われたような心地になるのは何なんだろう。
今でも軽く引きずってる。
「……ていうか、ユっちゃんお母さんみたい。本当のお母さんでも高校生の私たちにそんなこといちいち聞いてこないのに」
ボソボソッと半寝の状態で言ってくるのは、三女の春花。
こいつは……フラフラでちゃんと起きれてるのか心配になってくるレベル。
フワフワなロングヘアは綺麗で手入れも行き届いているが、昼間とかも常に眠そう。
授業中は毎回寝てるらしく、成績はいつも赤点ばかりの最下位常連。
テスト前になるといつも俺に泣きついてくるくせに、余裕のある時はこんな感じだ。
……まあ、そこはずっと俺の傍にいてくれそうで安心するのだが、ちょっと心配にはなる。複雑な感情だ。
「おはよう、ゆう君。今日も相変わらず朝から元気ねー……」
いや、お前さんたちのために元気でいるんですが。
そうツッコみそうになるのは、正統派の黒髪美少女、長女の柊花。
彼女は成績優秀で、運動もできる。
俺なんかの小言は不要だというレベルの優等生さんなのだが、実はこう見えて結構な寂しがり屋。
雷が鳴ってる嵐の日は家で一人でいられないし、暗い夜も留守番できない。
しっかりしているようで、誰かに頼らないと生きていけない典型的なタイプだ。
何かとウザがられている俺だが、定期的に声を掛けるようにしてる。
花夫さんに言われたからな。三人を守ってくれ、と。
「ったく。三人ともちゃんと起きてくれて俺は一安心だよ。揃ったんなら学校行くぞー」
「勇信、そうやって気だるげに言ってるけどさ、実際は私たちと一緒に登校できて嬉しく思ってるの知ってるからねー?」
小悪魔っぽく言ってくる捺花。
実際のところ、それは合っていた。
三人が元気でいてくれて、そんな彼女たちと一緒にいられて、俺は幸せだと思ってる。
「はいはい。ほんとお前は自信家だな、捺花」
「いっひひひ〜。それほどでも〜」
「褒めてねえっての。ほら、行くぞー」
三人を先導して歩き出す。
こうしていると、小学校の時の集団登校を思い出す。
あの時はまだこの三人も素直で可愛げがあったんだけどな。
今じゃすっかり俺がいて当然、俺に助けられるのが当たり前だと思い込んでやがる。
……まあ、何度も言うが、それで俺は幸せなんだけどな。
叶うなら、いつまでもこの時が続いて欲しい。
誰のところにも行かず、こうして俺と一緒にいてくれる三人でいて欲しい。
心の底からそう思う。
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「それにしてもなっちゃん、最近クラスの男子に告白されたんだって?」
何気なく会話しながら歩いていると、突如柊花が捺花に語り掛けた。
俺はドキッとし、微妙な表情を作ってしまう。
「そだねー、告られたー。割とサッカー部の一橋君」
一橋君。
結構なイケメンじゃねえか。
思わず冷や汗を浮かべてしまう。
俺に勝てる要素なんて一つもない。
「いいなー、一橋君。私もそんな人気者から告白されてみたいー」
「っ……!」
思わず「ダメだよ」と叫びそうになった。
喉元までその言葉が出かけて、どうにかそれを止める。
俺にダメだとか、そんなことを言う資格は無い。
捺花と付き合ってるわけじゃないし、そもそも俺たちは家族同然みたいな幼馴染同士だ。
俺が告白したところで、笑われて終わり。
それに、仮に捺花と付き合えたとして、柊花と春花はどうなる。
二人のことをおざなりにはできない。
亡くなった花夫さんの意思を、あの言葉をまるで守れなくなるわけだ。
三人のうちの誰かと、なんて。
そんな選択気軽に取れない。
「勇信はどう思う? 私が一橋君と付き合うの」
「へ……!?」
「やっぱ妬いちゃったり?」
俺の気持ちなんて露知らず、ニヤニヤしながら問うてくる捺花。
それを見て俺は……。
「べ、別に? お、俺に捺花のこととやかく言う資格なんて無いし? お前はお前で、好きな奴と付き合えばいいじゃん?」
最大限の強がりで返した。
というか、こう答えるしかないないから仕方ない。
胸が張り裂けそうな思いだ。
正直ちょっと泣きそう。
でも、三人とも傍にいてくれとか、そんなのは欲張りで。
絶対に叶えられるはずのない、俺の傲慢な考えなのだ。
だからもうせめて。
捺花は、そうやって俺を揶揄わないでくれ、と。
そんな風に思いながら、そっと彼女の方を見やる。
「……!」
見やった先。
捺花は、なぜかショックを受けたような顔をしていた。
なぜ……?
そう思った矢先、捺花の後ろから一台の車がフラフラと走ってきているのを確認する。
普通に車道を走っているが、どこか様子がおかしい。
まるでこっちに向かって来ているような、そんな感じだ。
「……いや、あ、危ない!!!」
車は、歩道を歩く俺たちの方へ突っ込んできた。
怪しげな雰囲気は的中。
一瞬見えた運転席では、運転手が気を失っているようだった。
「キャァァァァァ!」
柊花の叫び声が聞こえるけど、俺はそれを無視して三人を安全な方へ突き飛ばす。
が、避けきれなかった俺は言うまでなく……。
「っぐ!!!」
ドン、という衝撃音と共に、一瞬で意識を失うのだった。
車に轢かれた。
それだけは確かに理解しながら。




