20 最終話
地上でのジクス試験は、昼夜を問わず行われた。
可能な限り実戦同様に過酷な状況で使用し、人為的失敗の起きやすい点を洗い出す為だ。
味方の基地やモビルスーツとは、ペイント弾や赤外線のビームを使った模擬戦を。
岩場や廃虚を目標にした実弾試験も昼夜を問わず行われた。
たまに、ジムの部隊を伴って、ジオン残党の勢力圏内まで行き、小規模な実戦もおこなった。
そんな期間もあってリアノフは、基地の兵士とも打ち解けてきて、雑談もする様になっていた。
「コロニー内での模擬戦もやりましたが、地球上だと状況が違いますね」
「その割りには、巧くこなしてましたよ?」
「こう見えてもアースノイドですから、地上でのモビルスーツ経験もあるんですよ」
リアノフは、用意されたカップの珈琲を飲みながら、種明かしをする。
彼にしてみれば、ジクスでの応用を注意するだけではあるのだ。
「そう言えば、近くの部隊が殺られたそうですよ。聞きましたか?」
「いいえ。こんな所までジオンが来ているんですか?確かに偵察機が飛んでいたと聞きましたが」
何処かで口にした事を、さも知りませんでしたと言う風で驚いてみせ、聞いていた偵察機の事を話してみせるリアノフ。
「詳細は不明です。部隊は全滅した様ですから」
「物騒ですね?ここは大丈夫なんでしょうか?」
生き残っていても、敵対派閥の部隊に事情聴取されるくらいなら、行方を眩ますか自害するだろう。
一人も生存者が見つからないのは予想できていた。
「大丈夫でしょう。ここは頻繁に哨戒機を飛ばしていますし、他の基地とも連携も取っていますからね。その部隊は、無許可で展開していた上に秘密裏に演習をしていたので、そういった警戒を怠った様です」
「無許可の演習ですか?そりゃあ上層部が大騒ぎでしょう?」
リアノフは、再び驚いてみせた。
やはり、連邦軍内部の派閥争いの為に自分が襲われた様だ。
「責任者の将官何人かが、降格の上で左遷されたとか?」
「当然ですが、ここの上司やコイツの開発系じゃないですよね?」
「大丈夫です。うちの将軍は勢力を広げ、この基地の司令官も昇進するって話です」
司令官が将軍に、それとなく情報を流したのだろう。
リアノフは、珈琲を飲み干して立ち上り、演習に参加した皆に向かって頭を下げる。
「今日も、皆さんのお陰で良いデータも取れました。ここに来て一週間になりますし、そろそろ御暇しようと思います」
「ああ、イベントが有るんでしたね。こちらこそ、いい訓練になりましたよ」
平時の兵士は、同じ訓練と整備を延々と繰り返す毎日だ。
厳しい演習だとしても、違うメニューが有るのは気分転換になるものだった。
「提案説明会は未だ先ですが、情報の整理と準備が有りますから、そろそろ行かないと」
ネオ・フューチャー社とは毎日の様に情報交換をしているが、ジクスの消耗具合は実物を見ないと分からない事が多い。
機密の関係上、基地の整備士には一部の整備しか任せられないからだ。
「名残惜しいですが、任務ですからね」
基地の兵士も、任務だからと理解してくれた。
◆◆◆◆◆◆
時は流れ、南米ジャブローでは、次期モビルスーツの提案説明会が行われていた。
最大手のアナハイムエレクトロニクスをはじめ、幾つかの企業がモビルスーツの提案を出しているが、実際は当て馬だ。
ネオ・フューチャー社がゼータの改良版でしかないのは、そう言った意味でも予算を割けない理由もある。
全社の提案説明が終了し、各ブースに将官達が立ち寄っているが、やはり大将格の将軍はアナハイムで話をしている。
「御社のモビルスーツは大変に素晴らしいものがある」
「お誉め頂き、ありがとうございます。現在、実戦機としてMSZ010を建造中で、ロールアウト間近です。必ずお気に召すと存じます」
「そうなのか?確かに、アレは火力も性能も素晴らしい。だが、パイロットを三人も使い、モビルスーツ戦では二人あぶれると言うのは、何とも勿体ない話だ。何とか一人で運用できる様にできないのかね?」
「しかし、あれだけの汎用性を維持するとなると・・・」
アナハイムの試験機は、変形合体が出来るが、分離した個々が戦闘機として使える様にしており、リモートによるものではなかった。
「実戦は、数が物を言う事もある。戦闘機も重要だが、その新型一機がメタス三機分の戦術的能力を発揮するとは思えんのだ」
アナハイム技術者の額に汗が流れる。
どんなに強力でも、確かに一機では戦術も何もない。
分離した状態の戦闘機でモビルスーツを倒せるならば、モビルスーツを開発する必要も無く、本末転倒になる。
三機のメタス同様に、合体したモビルスーツで一度に三機のモビルスーツに対峙しろと言われれば、パイロットの能力が追い付かない。
「では、ロールアウト間近の機体は・・・」
「まぁ、その機体はアーガマにでも配属するが、コストも掛かるソレを量産する訳にはいかない。むしろ、あのゼータとかの簡易版をつくってもらった方が役に立つんだが?」
「確かに、それは可能ですが・・・この件は本社に持ち帰らせていただいてよろしいでしょうか?」
この場に決定権を持つ責任者が居ないのを察した将軍が、無言で頷いている。
アナハイムが将軍と話している姿を、少し離れたブースから見ていたネオ・フューチャー社の職員が、あからさまに溜め息をついた。
「まぁ、アナハイムは定番だろうな」
『もしかしたら』と期待をもっていたネオ・フューチャー社では、ブースの皆がアナハイムの方を見ていたので、全ての職員が同じ気持ちだったのだろう。
「俺の出世も無しか?」
「だけど、テストパイロットとしてのキャリアは残りますから、将来の出世に役立つでしょう」
リアノフの落胆を、NF社の職員がなだめる。
励まされて顔を上げ、再びアナハイムの方をみたリアノフの視界に、アナハイム側から近付く一人の兵士の姿が入った。
「ミハエルか?」
「アキラ・・・やはりお前もか?」
彼はミハエル・ローダ。
軍での競技ではリアノフと一二を争う相手で、軍の大会などでの顔見知りであり、『恐らくテストパイロットでは?』と思っていたが確認のしようは無かった。
「ミハエルの方は良かったな。出世も間違いないだろ?」
「いや、確かにアナハイムが採用にはなるらしいが、俺の乗った機体自体は不採用らしい。お前同様に原隊復帰だよ」
確かにアナハイムの試験機は、高性能で高出力だ。
だが、プレゼンを見る限り、確かにジクスの方が使い回しが良い感じがする。
その他、人員的なデメリットを指摘された様だ。
「ジクスは分離したパーツで戦闘はできないが、リモートで呼べるからな」
「そうらしいな」
「ちょっと良いかね?」
リアノフとローダが話していると、それに割り込む人物が居た。
「はっ?はっ、失礼致しました少将閣下」
「失礼しました」
振り返った二人が見たのは、少将の階級章を付けた男性だ。
慌てて敬礼をする二人の姿は滑稽でもある。
「君がアキラ・リアノフ准尉だね?」
「いえっ、自分は・・(ここで反感を買っても仕方無いか)・・はいっ。アキラ・リアノフであります」
少将が用のあるのはリアノフらしい。
彼は曹長だが、勘違いだとしても上官の言葉を否定するのは芳しくない。
「例の戦闘は見事だった様だな。君には近々、転属命令が出るだろう。うちの部隊を率いてもらうつもりだ」
『例の戦闘』が、宇宙でのジオン戦なのか、地上での偽装部隊殲滅のものかは判断がつかないし、口にするのはやぶ蛇だ。
「小官が部隊をでありますか?」
「ああ、詳しくは後日と言う事になるが、心しておいてくれ」
そう告げると少将は、NF社スタッフの方へと歩いて行った。
「おい、リアノフ。エライ人に目を付けられたな?お前、死んだみたいだぞ」
「本当なら、曹長から上級越えて准尉と二階級特進だからな」
死亡した兵士は、階級を二階級特進させて軍歴とする。
だが、リアノフを【准尉】を呼んだのは間違いではなく、実際にはジクスを採用する部所があって、上級曹長へ昇進。
その後にリアノフの転属による昇進が有るのを示唆しているのだろう。
「ミハエルは、あの少将を知ってるのか?」
「ああ、監察部所のジュピトリア少将だよ。以前、失敗やった時に見掛けたが、あまり良い噂は聞かないな」
「失敗って、あぁ、あの一件か?アレが無ければ、今もローダ上級曹長殿ですからね」
「アレで降格になって、今じゃ同格の曹長だがね」
ミハエル・ローダは、以前はリアノフよりも上官だったのだ。
「ともあれ、昇進確定おめでとう。次に会う時は敬語を使わないとな」
「今まで同様に、そうそう会う機会は無いだろうけどな」
今までの不幸を取り返した様な昇進に、リアノフは笑いを隠せなかった。
NF社のスタッフは、急な少将の来訪に戸惑っていた。
「これはこれは、ジュピトリア少将閣下。我が社に興味がおありで?」
「ふむ。あの機体について聞きたいのだが、一機のコントロールで部隊の複数のAパーツを引率する事は可能かね?」
「分離したAパーツはリモートできるので、設定しておけば可能ですが」
少将は少し考えて、再び口を開く。
「具体的には、フル装備で部隊を衛星軌道から目的地へ高速移動させ、上空からBCパーツの陸戦タイプで降下させて作戦を実行し、一機に分離したAパーツ全機分を基地まで引率させる事は出きるのだね?」
「はい。何も問題なく行えると思います」
実質的にも、リモートのプログラムを一部変更すれば可能な技術だ。
「説明を見る限り、作戦終了後に補給をしたAパーツを作戦地区にまで引率して、部隊と合体させ、そのまま衛星軌道の戦艦まで飛ばす事も?」
「基地で補給として、プレゼンで御見せしたプロペラントをフル装備すれば、それも可能です。実際にテスト段階では何度か衛星軌道の輸送船まで上りましたから」
少将は何度か頷き、資料に目を通していた。
ジクスの推進力用燃料は、一般企業でもシャトルに使われる物で、軍で使われる核インパルス推進での核燃料よりは容易に入手ができる。
補給基地も、廃棄されたシャトルに用空港を再建すれば、低コストで秘密裏に利用できる。
「そこまで可能ならば、仕様変更はあるが、一ヶ月前後に相談に行かせてもらおうか」
「少将の元で採用していただけると?」
少将は、無言で頷いた。
「確かに採用は嬉しいのですが、軍の標準装備としての数が賄えるほどは、当社の生産力が高くございませんので」
「そこは、軍の方から支援を入れるし、数も二十機前後で構わない。むしろ、大手でないのが有りがたい」
少将は、NF社を部所に取り込む事を考えていた。
配下の開発部門に吸収するにしろ、機密性の為に後日に会社と関係者を潰すにしても、大企業では手間と騒ぎが大き過ぎるからだ。
「では、後日に」
「ありがとうございます。連絡を御待ち致します」
この後に開発されるジクスの後継機【MSZ010PRO-NF】ゼグプロが、不正を行う部隊を殲滅する謎の小隊【タナトス】として、軍内非公認組織【テーミス】の元で活躍するのは、また別の物語となる。
ここまで御覧頂きありがとうございます。
今回で終幕とさせていだきます。
作者は、しばらくガンプラでゼグプロの開発へと向かいますので、別の世界で頑張りますm(_ _)m




