1.北部への異動命令
貴族の階級について
公爵
侯爵
伯爵
子爵
男爵
になります
「北部へ行け。北部のオールブライト領で花嫁を募集しているらしい」
お父様に初めて呼ばれたら、北部への異動命令でした。
「これ以上我が家門の恥をさらすな。道中護衛はつけない。魔物に襲われるのならそれがお前の死に時だ」
「徒歩移動でしょうか」
「……流石に馬車は出す」
お父様はイライラしているようですが、良かったです。
オールブライト領といったらこの国の最北端。中央のエバンス領から徒歩だと何ヶ月かかることやら。募集ということはわたくしに縁談が来たわけではないということ。到着したら他のご令嬢にその席をお譲りすることになりかねません。
「剣を一本持って行ってもよろしいでしょうか」
「はぁ……好きにしろ」
話はこれで終わりだ、というようにお父様は手を払いました。
「では、失礼いたします」
「お姉様、北部の悪魔に嫁がれるの? お可哀想に」
妹のフェリシテがわざわざ使用人部屋の私の部屋の前まで来てくれました。
「私のように魔法の才があれば、お父様だってそんなむごい仕打ちはしなかったでしょうに。でも魔力のないお姉様が悪いのよ? お父様を恨まないでね?」
「オールブライト領主様は悪魔でいらっしゃるの?」
「えぇそうよ。魔物を狩ってはその血を浴びて、あろうことかその魔物を食らうのだって。お姉様も大変ね」
「まぁそうなの! 魔物肉は食べたことがないから楽しみね」
「~~! 北部まで無事到着できることを祈っておりますわ」
「ありがとう、フェリシテ」
旅支度をしなくては!
中央から出たことがないから、北部に行けるのが楽しみだわ!
「仕度が済み次第家を出ろ」
「はい、お父様」
お見送りは……流石にないですよね。
オールブライト領では上手くやっていけます。きっと! そんな気がします。
「まずは結婚してもらわなくてはね」
オールブライト領への道すがら、何度か野盗の襲撃がありましたが、こちらには剣があります。返り討ちにいたしました。
血が付いてしまいましたが、代えのドレスを多めに持ってきておいて良かったです。
魔物の襲撃も何度かありました。こちらは初めての対戦です。要領は人間相手とそう変わりません。人間よりすばしっこいくらいでしょうか。
「これ、捌いたら食べられますかね」
形状は鹿のようですし。鹿なら捌いたことがあります。
「初めて食べる獲物さんですから、毛皮を剥いでお肉だけ頂きましょう」
鹿の解体をするように、念のため太腿に忍ばせていた武器で捌いていきます。
「美味しく頂きますからね」
初魔物肉、調味料はないですが焼いて頂きます。
「独特な味がしますが、食べられないほどではありませんね。これは味付け次第では化ける気がします」
魔物肉を頬張りつつ、馬車に揺られること数日。
「お嬢様、着きました。ではあっしはこれで」
「ありがとう、トム。長旅お疲れ様」
トムは先を急ぐようにエバンス領へ帰って行きました。
「さぁ、勝負はここからです」
流石最北端の地です。まだ夏だというのに若干寒いです。羽織を持ってきておいて正解でした。
さく……さく……。
足下を見ると、薄ら雪が積もっています。
「誤算でした。ブーツも冬仕様にしておくべきでした」
まぁ、過ぎたことは仕方がありません。先を急ぎましょう。
中央の本屋で購入した地図を頼りに歩き続けます。
「この大きな木を右に進むと左手に巨岩があって」
もう少し先に行くとオールブライトのお屋敷が見えるはずです。
歩くこと数十分。ようやくお屋敷が見えてきました。
流石公爵邸、とても立派です。
「ごめんください。わたくし花嫁に応募しましたエバンス家の長女、ヴィオラと申します」
門番さんに用件を伝えます。
「まさか本当に来るとは……」
「まさかとは?」
「いえ、どうぞ中へお入りください」
豪奢な門を潜ると、綺麗な庭が見えます。
「ようこそお越しくださいました、奥様」
「お、奥様……!?」
家令らしき男性が頭を下げて出迎えてくださいました。
「あの、ということはわたくしは花嫁に内定ということでよろしいのでしょうか?」
「もちろんでございます。このような僻地までいらっしゃるお嬢様など、他には現れません」
仮にも仕える主人の治めている領地を僻地などと呼んでも良いのでしょうか……?
まぁなんにしろ内定をいただけました。
これで今後は安泰です。
「ギルバート、そこで何をしている」
お屋敷の方向から、見目麗しい男性が歩いてきます。銀髪を結わえて、瞳は若草を思い起こさせるようなエメラルド。とても美しいです。
「花嫁様がいらっしゃいましたよ、イライアスお坊ちゃま」
「お坊ちゃまはやめろ。それに花嫁など必要ないと言っているだろう」
まさかの展開です。
肝心の屋敷の主人に認められていないではないですか。
これは大ピンチです。
「あなた、ここがどこだかわかっているのですか?」
「はい。ウェール王国最北端のオールブライト領です!」
真正面に立たれるともの凄い迫力です。
「魔物と隣り合わせということは? 中央のお嬢様にこの地は無理です」
「剣があります」
領主様は怪訝な顔をしています。
「足でまといにはなりません」
「魔物と戦ったことでもあるというのですか?」
「はい。鹿のような魔物なら何頭か仕留めました。あ、ちゃんと美味しく頂きましたよ。調味料があればもっと化ける逸材ではあったのですが……」
「……魔物を食べたのですか?」
「はい。初めて食べるので、皮を剥いで安全そうな肉の部分だけですが」
絶句、というのが相応しい顔をなさっています。
「魔素は体に毒です。異常はありませんか。まさか魔物を食べる人間がいるとは……」
「なんともありません! 体は丈夫にできておりますので」
「念のため医者に診せます。ギルバート」
「はい、旦那様。奥様、こちらへ」
「何度も言うが奥様ではない」
やはりダメですか……。
いえ、ここで諦めてはいけません。
これからチャンスはあるはずです。




