軍人と一般人の境界線
「……激走、だと?」
斉藤先輩が眉をひそめてこちらを、否、赤髪を見つめている。
「き、聞き間違いじゃねえの?」
赤髪がだらだらと流しながらそう答えた。
後ろ姿しか見えていない斉藤先輩にもわかるんじゃないか、これは。
とはいえ俺のせいで発覚したみたいだし……普通に考えればあれが決していいことではないことはわかるはずだ。
この場で尋ねてしまったのは俺の短慮だろう。
「あの先輩質問があるのですが、どうして男女なのに隣同士なのでしょうか?」
「……ふむ、救われたな結城――神野君に感謝するんだな」
若干の苦笑いをしつつ斉藤先輩。
結城先輩?がマジありがとう!とでもいいたげな瞳でこちらを見ている。
「質問に答える前にこちらの質問に答えてもらいたい」
――この学園の最たる就職先はどこだね?
問われたその言葉、答えは簡単だ。
「……あ」
「軍ですね?」
そうその通りだ、軍なのである。
「その通りだ、軍、国軍、国営魔術師――呼び方はなんでもいいが……つまりはそういうことだ」
軍と答えた斉藤先輩の顔が一瞬歪んだのは気のせいだろうか。
「しかし、同時に研究所などに就職する学生もおおいはずですが」
少しの考慮の後岬はそう尋ねた。
「それも正しい、だからこその折衷案なのだよ。
そういった学生もいるためにせいぜいが寮が同じというだけだ。
さすがに軍のように男女混浴だったり同室だったりはしない」
「だから斉藤、分かりにくいんだよその説明は!
ああーあれだ、ようするに、だ。
軍人目指すようなやつは男だろうが女だろうがこれくらいは平然とすごせるようになれってのと。
学者めざすようなやつでも、本気でこの道をめざすんならこれくらいは我慢しろよってことだ」
「……なるほど、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「結城、俺の説明は分かりにくいのか?」
「だからいつも言ってんだろうが、かったくるしくて柔軟性がないんだよお前の説明は!
お役人ですか?って尋ねたいくらいにはな」
「そう、か……努力はしているつもりなのだが」
そういう斉藤先輩は眉を下げて割とショックをうけているようだった。
「と、またせてすまなかった……寮室に案内しよう。
二人一緒で構わないかな?」