ようこそ崎守学園へ~学生寮編
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「……自宅通学組みは毎日これを登るのか」
まっすぐ続いていた坂道もようやく終わりが見えた。
「でしょうね……疲れるとまではいわないけれども、正直億劫になるわね」
「けどまあ……その、受験と合格発表をみにきたときも思ったけど、やっぱりすごいな」
俺は視界の先にあるものを見つめていった。
「……それは学園が?学生寮が?それともどちらともかしら?」
右手側に崎守学園。
左手側に崎守学園学生寮。
最初にここに来たときに想像できていたろうか?
「当然、どっちもだよ」
まずは学生寮、普通の寮というとマンション程度の大きさなのだが……そんなレベルじゃない。
というか母校の中学校よりも大きい。
赤いペンキを塗られた壁が続く続く続く――控えめに見ても300メートルはある。
ついでに玄関も四箇所にある。
何の飾り気も無く窓だけがところどころについているだけの建物だが、そのあまりの長さに地味などとはとても思えない。
そういえば、一緒の受験会場にいた人がこんな風にたとえていたななどと思い出す。
「電車」
高さ15メートル(推定、なお高さは六階)横幅300メートル(これまた推定)の赤い建物なので、なるほど遠くにいればそう見えないこともない、むしろ違いといえば窓が全体像がみえるほどの遠くからみると小さすぎて見えないくらいだ。
「なるほど、確かにそんな感じがするわね――なら校舎のほうは?」
あの言い方は受け売りであって俺が考えたわけじゃあないんだけど、はてさてどうしたもんかと考えつつ――んー、とうなりを上げる。
「ダメだ、普通の校舎としかいえない。
いやまあぜんぜん違うってのはわかってるんだけども」
あれが普通なら普通の校舎は一般家庭になってしまう。
「……うん、なんとなく思いついたわ。
ほら住宅の集まりを集合住宅っていうでしょう?
あれと同じよ」
――集合校舎
「それだ!」
校舎は普通なのだ。
ただし北と南に分かれている校舎が四つある。
北東、北西、南東、南西――それぞれにプールがあり、体育館が二つあり、校庭がある。
――何故坂道が3キロも続いたのか?
答えは簡単だ。
ひたすらに校舎がでかいのだ。
「……ふむ、あるいはマンモス学園などと呼ばれているな」
抑揚の無い声が聞こえた、ただし男の。
「なるほど、確かにその通りですね」
……、
…………、
「あの、」
振り返れば学校指定の制服を着た男子生徒。
長身、短くまとめられた黒髪、物静かな瞳――ふむ剣道でもやってそうだなと考えながらも、いやいやまてまて誰この人などとあせっている次第である。
「うん?どうかしたかね?」
「その、なんというかですね」
ちなみに岬は楽しそうにこちらをみている。
「ああそうか、すまなかった――自己紹介がまだだったな、俺は寮長の斉藤 恭介だ」
一拍間があって、
「ようこそ新入生」
斉藤先輩はそういった。