好きな人がいた
――――――――――
「……次は体育館だ、そのあとは――」
「――斉藤先輩、よかったんですか?」
プールから出て、鉄格子をの鍵を閉めずに出た斉藤先輩の声を遮り、訊ねた。
「よかった、とは?」
「それは……」
訊ねたのは俺だというのにその質問に詰まった。
何か良い言葉はないかと思考して、
「ここが魔術師の――殺人者を育てる場所だってのにいいのかって聞いてる……のであってるよなオイ?」
代わりに修介が訪ねていた。
情けないと思うと同時、申し訳ないとも思い――それを読み取ったのか修介は。
「いやまぁ、俺自身気になったから訪ねるんだけどな?
で、いいんすか? 生徒会長殿。
そりゃまあ? ここが普通の学校ってんなら美談でしょうけど?
ここ、人殺しを育てる魔術師の学園じゃないすか。
んで聞きたいんすけど、んなぬるい事やってていいんすか?」
「……ふむ、神野君も同意見かね?」
「修介ほど過激ではないですがね」
首肯しつつそう答える――流石に殺人者だからだとかいうつもりはない。
そうだな、と斉藤先輩はつぶやいて、歩き始めた。
その背中を追うように歩き始めると、斉藤先輩はもう一度そうだな、とつぶやいた。
プールと体育館の間、その間を埋める校庭の砂を踏みしめつつ耳を傾ける。
「良くないな――そうだな、良い訳がない。
極端な話し、ここは軍人として使える人間を――いや駒を作るための学園だからな。
こんな余分なものはないほうがいい――当然のことだな」
そういう斉藤先輩、しかしそこには個としての意見がない。
修介もそう感じたのか、
「それで? 生徒会長個人としてはどうなんで?」
斉藤先輩は語る。
「答えはもうプールで出しているだろう?」
「くっ、はははっ、なるほどなるほど!
そう言われてみればそうだよなぁ!」
気が付けば目の前には体育館が、そして斉藤先輩はおそらくマスターキーで鍵を開け、ガラリと扉を開いた。
「入ってきてくれるかな?」
靴を脱ぎ、体育館へ。
室内用のシューズはもってきていないので靴下だ。
俺たちが体育館に入ると、斉藤先輩は無言で鍵を閉めた。
「アン?」
「……む」
その行為に戦闘態勢とまではいかないものの警戒心を抱く。
こちらに向き直った斉藤先輩は苦笑し、
「そう警戒しないでくれ――単に人に聞かれたくない話しだからここを使わせてもらうだけなのだから。
さて、さっき見てもらった通り、あれが俺の――生徒会の方針だ。
そしてさっきの質問だが――先ほどのような回答ではなくしっかりと答えてみようと思う。
とはいえ俺はしっての通り、その、なんというか口下手なのでな。
なんといえば伝わるのかが分からない。
だから、ただ自分のことを語ろうと思う――多分それが答えになるからだ。
生憎とおもしろい話ではないので退屈させてしまうかもしれないが聞いてくれ。
……そうだな、語る前に一つだけ先に言っておこうと思う」
「俺には昔好きな人がいた」
そういう斉藤先輩の顔には、苦笑ではなく、後悔が現れていた。