お誘い
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「……はっはっ……はっはっ」
息を吸って二度に分けて吐く。
言葉はない、思考もない――ただ走る。
折り返し地点を通過し、上り坂をひたすらに。
「……はっはっ……はっはっ?」
視界の先、人影が二つ見えた。
おそらくだけれど一人は修介だろう、しかしもう一人は?
街灯もなにもなく暗い坂道ではそれがだれだか判別が出来ない。
片方を修介とするならば、お互いの身長はほとんど変わらない――つまりは長身。
そんな知り合いいたか?と思いつつ記憶を検索するも思い至らない。
(近寄れば分かるか)
そう思いつつ走るペースを落とし、早歩き、歩き、とかえていく。
距離がゆっくりとつまっていき、20メートルをきったあたりでその二人が誰だかが分かった。
ひとりはやはり修介、そしてもう一人は生徒会長――斉藤恭介先輩だった。
――――――――――
「こんばんは神野君」
「こんばんは斉藤先輩――俺の名前を覚えていてくれたんですね」
挨拶をしてくれた斉藤先輩は制服姿だった。
その隣にいる修介は斉藤先輩のほうを見て怪訝そうな顔をしている。
その気持ちは分かる、何故ならば斉藤先輩は寮長であるからだ。
夜分に学園の坂道とはいえ、制服姿でここにいる理由は基本的にはないはずだ。
駅前の商店街は廃れていて買い物をするには不向きで、というかそれ以前に夜中にやっているような店自体がない。
ならば自分たちのように鍛錬?考えにくい。坂道でする理由はないだろう。
「……有名だからな君たちは」
答える斉藤先輩の表情は無表情、だというのに会話に困っているという雰囲気を感じるのは何故だろう。
「有名、ですか?」
「有名だとも、1年生の間だけではなく上級生の間でも」
「……ンナこたぁどうでもいいんですよ生徒会長殿。
あんたの言う通り神野もいるんだからそろそろ話しっていうのをして貰えませんかねえ」
明らかに上級生、それも生徒会長にする態度ではない修介に斉藤先輩は気分を害した風でもなく、そうだったな、といって微苦笑した。
「どうにも会話というのは苦手でな、すまない――さて本題なのだが、二人とも明日の昼休みはあいているだろうか?」
「アー、別になんもないですけどそれがどうかしたんすか?」
「いつも通り友達と学食でお昼を食べにいくだけですね」
修介の言葉を補足する。
それを聞いて斉藤先輩は、それはよかったといった。
「急な話しで申し訳ないのだが、明日のお昼休み……勿論昼食を済ましてからで構わないのだが、兎に角きてもらえないだろうか?」
「……それは、構いませんが、けどどうしてなんです?」
格別問題を起こしたというわけでもなし、特に呼ばれる理由は俺も修介もなかったと思うのだけれども。
「……ああ、すまない伝えそびれていたか。
君たちを生徒会にスカウトしたい」
――――――――――
斉藤先輩に俺と修介が昼休みの件を了承したことを伝えると、ではまた明日の昼休みにと言い残して斉藤先輩は坂道を上り始めた。
どうやら生徒会の業務が終わり帰宅途中に俺たち――修介の姿を見つけたので今日のうちに話をしておこうと思ったらしい。
しかし生徒会、生徒会ねえ……。
こちらと同じように立ち止まり、顎に手をあてている修介に尋ねる。
「修介はどうするんだ?」
「アー、正直悪くねえって思ってる。
こんなとこの生徒会っていうことと俺らに声をかけったっつーことは、腕っ節も関係あるってことだろ?
詳細聞くまではなんともいえないけどよ、今んとこは悪くねえと思ってる」
「……俺も、そんな感じかな」
俺は強くなりたいのだから、恐らく強い人が集まっているであろう環境は望むところだ。
とはいえ話しも聞かないで決められるようなことでもなし、
「明日次第ってとこかな」
「だな」
すべては明日昼休み次第、か。
こちらがまだまだ序盤なのにあたらしい作品を投稿しちゃいました(おい
世界観が別のお話ですが、全力でネタバレになっているのでご注意ください。
とはいえ一つの点を除いて物語に関係するネタバレは出ないので、完全に別のお話とだけみても何の問題もないはずですが。