教師――橘信一
見れば分かった。
岬は手加減をして戦っていた――学園にくる以前のように、異常ではないレベルまでというくらいだが。
「――!」
声は聞こえない、聞こえないが由井が押されているのは分かる。
手加減をしているといっても岬は不必要な防御はそもそもにして必要ないのだ。
つまり異常なまでの堅牢さをもつ魔術障壁。
突破するには時間のかかる大魔術――しかしそんなものを構えている内に確実に三度は倒される。
だがだからといって防御に意識を割き凌いでいても未来はない。
氷柱/火柱/土流/暴風――顕現されていくそれら。
手加減はされていても由井の防御を打ち破り、またその上で魔術障壁を破砕するそれ。
流石に一撃で決定打になるほどの威力は残らないものの、ジリ貧だ。
攻めることは出来ず、守る事もできず、ましてや勝利することなどは不可能に近い。
「……にしても霧島は何なんだ?
アア?そういや歴代二位だって試験管に驚かれた俺が、信一先生に歴代三位だって言われたのはそういうことかよ……」
つぶやく修介に、しかし俺は何も言わなかった。
推薦入学だってこと伝えてなかったのかなと思いつつ。
「しっかし、まあアレだな……いい目標ができたっつーか?」
「俺に振られてもこまるんだけどな」
「いやいやお前以外の誰に話せるっていうんだよ、幼馴染なんだろ?
身近に自分より強いやつがいるってのはいいことだろ」
ああ、なるほど……天才は孤独だって誰かがいってたな。
競い合う相手がいない、目標にできる人がいない。
「俺の場合は目標じゃないから……なあ」
分かったからといって頷けるわけではなく、何故ならば言葉の通り俺にとって岬は目標ではない。
「アン?じゃあなんだっていうんだよ」
『 』
思考を取り消した。
「幼馴染だよ」
「意味わからねえ――と仕掛けるか?」
視線を向けなおす、なるほど確かにそんな感じだ。
防衛に回り続けていた由井が前に踏み出したのだ。
そして同時、次の光景が予測できた。
「そりゃ無理だろ」
「……だね」
「―――速っ!」
詠唱の一部だけが聞こえ、予想通り由井が加速した。
つまり、防衛にまわっていては勝機無し、かといって魔術で攻勢にでても魔術障壁を突破できない。
――ならばどうする? 答えは簡単だ、つまりは魔術障壁の関係のない攻撃――肉体を用いた攻撃をすればいい。
踏み込みは中々に速く、だが直線的だ。
重心は完全に前へと向いており、あれでは攻撃をよけることはできない。
果たして、予想違わず岬の生み出した土柱が由井の足元を穿った。
気づき、しかし止まれずに土柱に突っ込む由井。
「……いくか」
修介の言葉に頷く、勝敗は決していた。
――――――――――
岬達の下へたどり着くと、そこには信一先生がいた。
先生は由井の前に立ち、真摯な表情で言葉をつむいでいる。
「接近戦というものはリスクがたかいものだ。
なるほど、確かにあの時はそれ以外に勝機はなかったかもしれんがね。
逆に言えばそれだけしかないのだから相手には読まれているということだ。
恐らく神野森人あたりを参考にしたのだろうが、はっきりいって彼は参考にならない。
何故ならば彼は接近戦専門の魔術師とでもいうべきものだからな。
第一あの手の戦い方は血のにじむような修練によってリスクを減らし、戦いの機微をつかみ――そうようやく使い物になるものだろう」
言われ、下を向いていた由井は少しだけ泣きそうな顔で。
「でも、だったらどうすればよかったんです!?
先生が言った通り他に方法なんてなかったじゃないですか!?」
「そうだな、勝つ方法はなかった。
ああ、何か勘違いをしているようだから先に言っておこう。
私は別に勝てとは言わない。
言えることは一つ――長く耐えられるようになれ」
――いいか?
「お前は戦場で敵にあった、そいつは自分よりはるかに格上の魔術師で――そうだなさっきと同じ状況だとしよう。
さて、そこでどうするんだ? 勝てると信じて特攻でもするのか?
これだけは別に構わんがね、とは言わない。
絶対にやめろ、いいか絶対に、だ!
確かに実力差がある以上、逃げ切ることも難しいだろう――だがそれがなんだ?
一人で勝てないのなら二人で、二人で勝てないのなら三人で――勝てるだけの仲間がくるまで必死に耐えればいいだけの話だろう。
いいか、戦場では仲間がいる、一人ではない――それを意識して戦略を組み立てるんだ」
戦争を経験した教師なのだと、そう思った。
まったく関係ないですが個人的に、先生=神野>=修介>崎=信一先生=斉藤>由井
という感じでキャラが好きです。
……あれ、男キャラ優遇されすぎのうような、いやまあ書いてた時点で男ばっかりで自覚はありましたけども。
ま、まあ、女の子は出尽くしてるわけではないので、うん、野郎ばっかりにはなりませんよね……