登校 クラス
今回より少しながくなりますがかわりに更新頻度が落ちますorz
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「神くん、準備できた?」
コンコンと扉をノックして尋ねる岬に俺はああ出来たよと返して扉を開く。
目の前には岬がいて、修介がいて、由井がいた。
いつも通りの朝だ。
「悪い、またせた?」
「ううん、待ってないわよ神野」
「俺ァ、割と待ってたけどな?」
「と、待たせたなら悪――」
「――言わずともいいことを言うんじゃないバカ修介!」
……目の前の光景に思わず股間を押さえそうになった。
「おっ……ぁ、テメッ、コレ……洒落に、なって、ネエ……」
頭をたたくだとかそんなレベルじゃあない。
明らかに全力で、的確に、無慈悲に、徹底的なまでに。
由井は修介の股間を蹴り上げていた。
修介は股間を抑えつつ地面にへたりこんでおり、比喩でなく脂汗がにじみ出ている。
……一男性としては同情することしかできない。
「余計なことを言う修介が悪いのよ」
「クソッ……テメ、あとで覚えてろよ……」
「あー、実際に俺が遅かったのが悪かったわけで、その、ね?」
何が、ね?なのかが分からない、いやまて、ちゃんと考えれば分かるはずだ、むしろ今俺は多分正しいことをいっているはずだ……ただまあ、へタレているという自覚はある。
けれど、けれどだ仕方ないじゃないか。
自分の息子の命がかかっているのだから!
「ごめん神野、これは私と修介の問題よ」
いいつつ由井は、自分に背中を向けてまるまっている修介の体を寮内用のスリッパで踏みつけた。
グイグイという効果音が聞こえそうだ。
揺れている――この状況で揺さぶられることがどれだけつらいかは俺もよくしっている。
修介の顔は脂汗だけでなく真っ青になっていた。
どうする、何ができる――思考する/結論を出す。
奇しくもそれは岬の表情と同じものだった。
岬の表情は語る。
――無理よ、諦めなさいと。
俺は修介に心の中で謝罪しつつ、視界の一部からの情報をシャットダウンした。
――――――――――
「ほら急いで! 遅刻するわよ!」
声を強めて言う由井に続くように廊下を早歩きで渡る。
「チッ、誰のせいで遅くなったとおもってんだよ」
「何かいった?」
「……何でもネエよ」
清々しい笑顔の由井に修介は一瞬どこかを守るかのように腕をピクリと動かし、しかし恐らくは意思の力によってそれを止めた。
修介のためにもどこを守ろうとしていたのかは考えないようにしよう……いやまあ答えはでているんだけども。
ガラリと開く教室のドア――扉を開けた由井はまず先に入り、続いて俺、修介、岬と続いた。
ザワザワと、ところどころで話す声が聞こえ、けれど扉が開いた音によってこちらに注目が集まった途端ピタリとそれは止まった。
大半のクラスメートの顔に畏怖の表情が張り付いていた。
「…………」
俺たち四人は誰も何もしゃべらない。
もう慣れてきたことだけども……それでもやっぱり少しだけ悲しい。
当然だろう、天才と規格外そして天才にうち勝った俺がいるのだから。
――訓練中の殺傷は明らかな故意が無ければ事故とみなされる。
だから……こちらの機嫌をもし損ねてしまうようなことをしてしまえば自分達にその矛先がいくかもしれないと、事実はどうあれそう思ってしまうのは仕方ないだろう。
そう理解はしていても、やっぱり少しだけ悲しかった。
クラスの視線が外れていく――まるで自分を見咎められたくないかのように。
それを見て、あはは、と由井はかわいた笑いをこぼした。
「嫌だなあもう、私は大した実力もないっていうのにこの扱い……」
「……仕方ねえだろうが、けどよ俺は正しいと思うぜ」
小さな声で答える修介。
「これがただしいっていう――」
「――勘違いすんなよ」
ああくそ、恥ずかしいから一度しかいわねえぞ?と修介は言った。
心なしかその顔は赤みを帯びていて。
「お前は優秀だよ、比較対象に霧島と神野と俺を選ぶのがまちがってんだっての」
「……そうかなぁ」
「……それに、それだけじゃねえよ――例えお前が弱かろうがあいつらは正しいんだよ。
ああクソ、本当に一度しかいわねえぞ」
「お前の敵は俺の敵なんだよ…………ようするにお前にケンカうるやつは俺にケンカうってんのと同じなんだよ」
そういいきった修介の顔は間違いようのないほど赤くなっていた。
きっとああいう顔をしてほしくなかったから言ったんだろうけど、もっといい言い方があっただろうに。
けどまあ、やっぱり修介はいいやつだよなあ……
「…………、バーカ」
「……うるせえよ」
言葉を聴きつつ、後ろを振り返ると岬がいて、俺と視線があって微笑んだ。
釣られるように俺も微笑んだ。
男性人の立場弱いなあ……