人殺しである
「その通りだ!」
轟いた。
「魔術とは人殺しの道具である。
無論これが正しいとは思えないし、事実正しい使用法ではない。
医療魔術をはじめとする人のために使われる魔術が正しいと言えるだろう。
だが新入生諸君――現実を見たまえ。
今現在魔術は人殺しの道具として使われている。
なるほど確かに魔術とは殺人においてもっとも有効な手段だろう。
意識しイメージしそれを顕現する……たったそれだけだ」
話しを区切り学園長はパチンと指を鳴らした。
瞬間、魔術が発動した。
生み出されしは火球。
生成された拳大の炎が最前列の生徒を穿った――否その真横を。
「君は死んだ、分かるかね?
私が数センチイメージを横にずらすだけで君は死んだのだ。
殺すという覚悟も!
殺されるという覚悟も!
何もかもがないままに君は死んだのだ、理解できているかね?
そして理解していたかね?
今君が立っている世界がそういう世界なのだと」
悲鳴、侮蔑――そういったこえが聞こえる。
俺からは見えないけれども、その生徒は失禁してしまったようだ。
無理もないだろう、と思う。
「……ふむ、では当たり前のことを確認しようか。
私たち大和は今武蔵と戦争をしている。
ああ、利権だとかそんなものはどうでもいい。
確認をするのは戦争のことだ。
諸君に問おう、人殺しとは何かね?」
といった学園長は、しかし誰にも尋ねない。
「私は、いいかね?私は、だ。
私はこういった人間のことを指すと思う。
軍人、政治家――まあ彼らは当然だ、軍人は言わずもがな、そして政治家も人死にを計算して戦争をするのだからな。
そして君たちの中に軍人を、政治家を目指すものがいれば――当然己が人殺しになることを認めねばならない。
まあ、こんなことは本当に当たり前のことだ。
では次に話すのは当たり前なのに当たり前だと認められないことだ。
諸君らの中に医療魔術師や研究員を目指す人が当然いると思う、
本校でも毎年数多くの人材を世に送り出している。
ああ、だからこそ言おう。
君たちも人殺しであると自覚すべきだと」
――例え話をしよう。
「君は医療魔術師だ。
君は死に掛けている自軍の魔術師を50人助けた。
その魔術師たちは嬉々として敵軍の魔術師を100人殺した。
では考えてみよう。
君が自軍の魔術師を助けなければ敵軍の魔術師は死ななかった。
つまりは死なないはずの人間を殺したのだ。
殺したのは自分ではないなどという言い訳は通用しない。
なるほど、君が救ったのが一般人だったならばそれはそうかもしれない。
だが、君が救ったのは軍人だ、軍人なのだ。
君がしたのは人殺しをするといっている人間を助けるということだ。
これは人殺しと呼ぶべき行為ではないかね?
ああ、数はすくないが中には純然たる医療機関に勤めるものもいる。
だが君らとて同じ事なのだ。
その救った人が人殺しをしないなどという保障はどこにもなのだから」
――もうひとつたとえ話をしてみよう。
「君は研究者だ。
君は効率のよい炎の魔術の展開式を編み出した。
これによって人々の暮らしは豊かなものになった。
だが考えてみよう。
それは同時に効率よく魔術が人を殺せるようになったということだ。
君がどれほど戦争とは関係のないと思えるような魔術を作り上げようが、それが本当に戦争に用いられないとは限らない」
だからこそ、という言葉がやけに脳に響いた。
「君たちは自覚すべきなのだ。
己が人殺しであることを。
何故ならばここは、」
「現在戦争中である大和と武蔵――その文字通りの境である境市なのだから」
「故に武蔵はここを攻めてくる可能性がある。
当然だ、彼らにとって私たちは人殺しなのだから!
故に私は言おう、新入生の皆さん」
万感の思いをこめて橘学園長は言う。
「自分が人殺しであることを自覚せよ。
故に自分が殺されうることを自覚せよ。
何故などと動転してはならない、なぜならば君たちは彼らにとって人殺しであり、殺される理由はそれだけで十分なのだから。
だからこそ新入生の皆さん。
自分たちが人殺しであることを自覚し、いざというときに動転しなようになりなさい」
あと少しで戦闘に入れそうです。