#42
ボートは4人しか乗れず、怪我の酷いタモっちゃんと女子以外はみな泳ぎながら浜へと戻ることにする。
その浜へと戻る途中、工場が轟音と共に爆発した。
そして、それに呼応するかのように、村のあちこちから火の手があがり始める。
あれもタカコたちが?
「小百合ちゃんのお母さんね。きっと」
タカコが悲しそうにつぶやいた。
え、マリ子さんが?
「え? なんで? だって保さんの持ち出したこれがあれば皆を治せる薬がいつかできるかもってサワダさん、言っていたのに……」
紀子が握りこぶしを小さく振るわせると、タカコが小さな声で続けた。
「愛する夫と、娘を置いて、自分だけ幸せになるわけにはいかない、って……止めたんだけど……だめだった」
「そんな……」
「ようやく家族一緒になれたんだ。祝福してやんな」
本間がボソリとつぶやいた。
そういや昔もこんなニヒルキャラだったな。カゲが薄かったからすっかり忘れていたけど俺のあとついてたタカコの糞みたいにいつもセットだったっけ。
「小百合ちゃん、おいどんも好きでしたばい……ヒロシがちょっと羨ましかですばい」
デブ福が、鼻水をずずっとすする。
タカコは俺の顔を見た。
「おにい……洋介……ちゃんは……どうするの? これから……」
さっきまでの威勢のいいカッコイイ女なんかじゃなく、あの頃の、俺のあとをついてまわってた頃のタカコと同じ目をしていた。
「洋介さんの仕事はまだ終っていないわよね。依頼主が待ってるもの!」
紀子が横から口を出す。
「そっか……依頼主……そっかそっか。よかった」
タカコが笑顔になる。
「おにいちゃん、面倒見いいものね。でもこんな若い子、たぶらかしたらダメよ」
「ちょ、ちょっと待って! なんでおにいちゃんなの? 洋介さんは、私のお兄ちゃんなの!」
「いいわよ、お嬢さん。私はもう洋介さんのこと、おにいちゃんだなんて呼ばないから」
「ちょ、それ、ずるいっていうか違う!」
「よーちゃん、相変わらずモテるな。小百合ちゃんもずっと」
タモっちゃんがその名前を出した瞬間、ボートの上の女二人がきっと俺を睨む。
……俺か?
俺が悪いのか?
なんか釈然としないんだけれど。
でもまあ……哀しみだけに閉じこもるのは、今はやめよう。こんなことでもちょっとでも皆が笑えるってのはいいことだ。
「……タカコ」
「なぁに?」
「困ったら呼べよ。一度受けた依頼なら必ずやり遂げる探偵、池袋鮫の洋介ってのは俺のことだぜ」
「洋介ちゃん、変わってないのね……嬉しいね、なんか」
「さ、洋介さん。一緒に帰りましょ! 私のこと、守ってくれるんだよね?」
横から紀子がまた割り込んでくる。
「相変わらず、面倒見がいいのね」
タカコがまたそれを言う。しかも満面の笑顔で。
えーと。
この笑顔は……ちょっと「いいこと」とは違うかな。




