#38
「ヨウスケはタカコ、アイシテル、ですカー?」
え?
ハンドライトに手をかけたまま、俺はサワダの顔をのぞきこんだ。
マジな目。
こいつ、本気で聞いている。
そういや何度も口説いたとか言っていたっけ。
「いや、俺の大事な……妹みたいなもんだよ」
「それ、聞いて安心ネー」
「ん?」
「タカコ、まだヨウスケにラヴ、ネー。でもヨウスケ、ニュー・ヤング・ラヴァーいる、ヨウスケのハート、タカコに向いてない。これで安心」
っつーか、紀子は彼女でもなんでもないっつーの……と心で思ったけれど、今それを言うタイミングじゃあないことは分かっている。
「サワダ。応援するぜ」
サワダの表情、緊張感は消えないままだが、少し口元がニヤリとする。
「アフター、ディス事件、タカコにプロポーズする。それマイ・プライベート・ホープ、ネー。ホープ。人のこと、強くする、ネー」
希望、か。
俺の希望はなんなんだろう。兄さん、さゆりちゃん、タモっちゃんにヒロシまで。
いや、それを考えるのは後でいい。
俺はサワダから借りたハンドライトを後ろ手に構えると、サワダと一緒に静かに移動しはじめた。
「3人を捕らえろ!」
太く強い声が響く。後から来たあの老人だ……あ。
この声、記憶の中の、じいちゃんの声に似ているのかもしれない。
だが、そんな回想は一瞬で吹っ飛ぶ。
網場と老人のまわりの作業員達が、次々と変貌していったから。
ディープ・ワンだ。
「汎用タイプのディープ・ワン、ネー!」
サワダが小声で俺に解説してくれる。確かに皆、ちょっと蛙の入った深海魚顔。あの街の電気屋で暴れていた男や、浜辺で俺たちを追いかけてきた連中と同じタイプ。
その時だった。
サングラスの男が、突然ジャケットを投げ捨てた。
「なめるんじゃねぇぜ。てめえらみたいなザコとは違うんだ。ディィィィプ・チェェンジ!!」
え、何いまの掛け声。
その男の体がみるみる流線形に膨れていく。
「ハイブリッド・ディープ・ワン、本マグロの本間玄人参る!」
本間玄人って、あのレーサーのか?
「くらえ! マキシマム・ブリッド!!」
すごい勢いのタックルを、サカナ人間になりかけている作業員達の群れの中にぶちかます。
うわ、人間ってあんなに飛ぶんだってくらい、作業員たちがボーリングでストライク取ったときのピンみたいに転がりまくる。
それだけじゃなかった。
「おいどんもいきますたい! はぁぁぁ! ディィィプ・チェンジ!」
あの相撲取りの体もみるみる膨れていく。
「ハイブリッド・ディープ・ワン、フグの福乃海でごわす!」
膨らんだ体が、ボールのように弾む!
「バルーーン・ボンバー!!」
そのまま跳ねて、反対側の群れにつっこんだ。こっちも豪快になぎ倒している。
なんだこいつら。
本当に、リアルの特撮モンじゃねぇか。
よく見たらタカコの体もほんのり桜色になっている。
タカコも何かサカナになるのか?
「網場博士! 笹目翁! あんたらの悪行もここまでだ!」
「小娘が何をほざく、海の王たるワシの力を見せてやろう!」
「甘く見るなこの老いぼれめ! 絞め殺してやるわ! ディィィィプ・チェンジ!!」
ちょ、ちょっと。
タカコはまんまタコ? っつーか、笹目翁……ってまさか……大叔父さん?
えー?
タカコの腕が鞭のようにしなり、老人に叩きつけられ……たのを老人とは思えないごっつい腕で受け止めて。
笹目翁と呼ばれた老人は不敵な笑みを浮かべている。
「お前らだけの力と思うなよ? ディィィプ・チェェェェンジ!!」
老人の顔が、大きくなる。口が耳まで裂けながら次第に無数の凶悪な牙をむき出していく。
……さ、鮫だ。
池袋鮫とか調子に乗っていた自分を隠したいくらいに、ゴリゴリの鮫顔に変貌している。あれ以上の鮫なんてない。
ジョーズだ……ホオジロザメの……って、ひょっとして最強なんじゃないのか?
少なくとも、マグロやフグやタコが敵う相手には思えない。
震えていたのは俺だけじゃなかった。隣のサワダの声も……
「ジーザス! オクトパス・イズ・シー・デビル。バット……ジョーズ・イズ・ベリーベリーストロング……」
サワダ、タカコの変身を見るのは初めてだったのか。俺だってショックなのに。
だが次の瞬間、サワダは駆け出していた。




