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第181話 勝利の凱旋と、仲間たちのその後②

 国王と交わしたもう一つの条件、「レウィナス公爵領の先住民である白熊族はくゆうぞくへの差別を無くし、再び融和対策を推し進めること」についても、どうやら心配は要らなそうだった。


 あれから、かつてレウィナス公爵領だった土地では、シェイムズが推し進めていた白熊族との融和対策が再執行され、白熊族たちは以前のように差別を受けることは無くなり、普通に外を出歩けるようになった。


 このことに恩を感じたのか、あれから近衛メイド隊「ホワイトベアーズ」に志願する白熊族の少女たちが急増し、俺たちの船に更なる仲間が増えていった。メイド長であるポーラを筆頭に、メイド隊のメンバーは皆、主人であるラビに忠誠を誓い、彼女の元で働けることを幸せを感じているようだった。


「我々ホワイトベアーズは、いつもラビリスタ様のお側に控え、ラビリスタ様のために全てを捧げる覚悟で居ます。戦いの際も、率先して命を捧げる覚悟です!」


 そう豪語する新人メイドたち。まるで軍隊並みの忠誠心の持ち主ばかりで驚く。これも多分、メイド長であるポーラの指導による賜物なのだろう。

 けれどもラビは、そんな彼女たちを前に苦笑いしながら、「あ、ありがとう……でも、命は大事にしようね」と彼らに言い聞かせていた。



 世界最強のドラゴンとうたわれる黒炎竜――グレンは、相変わらず臆病で人前に現れるのが苦手だった。

 けれど、ラビの手にはめた召喚指輪サモンリングの中の居心地が良くてすっかり気に入ってしまったらしく、彼はいつもラビの側から離れなかった。


 時折、ラビはグレンと共に遠くの大陸へ出かけることがあった。

 ある時は、ラビと俺が初めて出会った湖へ。

 かつて世話になったレイクザウルス親子に会うために。


「レクちゃんにレク子ちゃん! ただいまっ!」

「ウォオオオ~~~ン!」

「アォオオ~~~ン!」

「あれ? 少し見ないうちにまた少し大きくなった? 進化すると成長が早いのね!」

「クゥウウ~~ン……」

「あははっ、ちょっとやめっ……舐めないでってばもう!」


 そしてある時は、以前大嵐に見舞われたリドエステ中大陸へ。

 大陸の土地神様ウラカンに会うために。


「ウラカン様! お久しぶりです! あれからお体の具合はどうですか?」

「……エエイ、ヤカマシイ小娘メ。オマエハ我ノ主治医デハナイゾ」

「でも前にあんなことがあってから心配で……あなたが体調を崩せば、大陸に住む住人の皆が危険に晒されるんです」

「分カッテイル。心配スルナ小娘。コノ大陸ニ再ビ厄災ガ降リ掛カラヌヨウ、我モ善処シヨウ」

「ありがとうございます! 何かあれば、またすぐに駆け付けますから!」


 こうして、あちこちの島や大陸を一人と一匹で駆け巡った後、クルーエル・ラビ号へ帰る道中、ラビを背中に乗せたグレンがふと呟いた。


「……こうやって、ラビちゃんと一緒に空を飛ぶ時間が、もっと増えたら良いのに……なんて思っちゃうのは、欲張り過ぎなのかな? やっぱり図々しいよね?……」


 気がとがめて、首をすくめてしまうグレン。


「そんなことないよ。私も、グレンちゃんと一緒に飛ぶ時間はとても楽しいの。風を体いっぱいに受けて進むのが気持ち良くてクセになりそう! 師匠のクルーエル・ラビ号もあるけれど、たまにはグレンちゃんと私だけで、どこか遠い場所へ飛んで行ってみたいなって思うんだ」


 そんなラビの言葉を聞いて、グレンは真っ赤な目を丸くして首を上げた。


「ら、ラビちゃんからそんなこと言われたら……なんか、照れちゃうな……えへへ」

「あ、あれ? なんかグレンちゃんの体が熱くなってきてるけど、大丈夫? アチチッ……ちょ、グレンちゃん⁉︎」


 ――その日、ラビは照れて火照ったグレンの背中の上に乗っていたせいで、お尻を火傷した。



 リベナント小大陸にあるルルの港は、相変わらず無法者たちの溜まり場として栄えていた。


 特に、探検家船舶組合ボート・コンパニオン公認の酒場である「スラッシー」には、毎日多くのお客が詰めかけ、昼夜を問わず賑わっていた。


「は〜い、五番テーブルのお客様! エールとメタルビークの串焼き、お待たせしました〜!」


 そして店内では、メイド服姿のルミーネが両手一杯に飲み物や料理を抱えて店の中を駆け回っている。

 彼女が、実は八選羅針会の一人である「妖艶の桃姫(ピンク・プリンセス)」ことルシアナ・リリーであることなど、お店を訪れるお客は誰も知らない。……いや、むしろ知らぬが仏で、彼女の真の顔を知ってしまえば、そいつは地獄を見ることになるだろう。


「お〜い、こっちにも注文!」

「はぁい只今! クロムさん、八番テーブルにオーダーです。注文を聞いてお料理をテーブルまで運んでくれたら、お昼の差し入れで肉料理を一品付けますよ!」

「お肉、食べれるの? うん、クロム頑張る!」


 ……そして何故か、白黒頭のクロムも酒場の手伝いを任されるようになり、ルミーネと同じフリフリの派手なメイド服を着て店内を彷徨いていた。

 いつもボーッとしているクロムだから、よく注文ミスしたり、躓いて料理を台無しにしてしまうことはしょっちゅうだったけれど、それでもクロムはクロムなりに、酒場で働くことを楽しんでいるようだった。



 ラビが国王に提示した最後の条件――「レウィナス侵攻事件の黒幕として関わった王国貴族や諸侯を厳重に処罰すること」についても、国王は約束を守り、事件を起こした主犯であるフョートル・デ・ライルランドと、レウィナス一族を殺害したヴィクター・トレボックを裁判にかけ、重罪を犯したとして厳正なる処罰を執り行った。


 そして、同じく共犯である国王――レーンハルト・バルデ・マイセンも、今回の事件でけじめを付けるため、儀式を執り行って国王の座を息子であるラングレートへ正式に明け渡した。

 ラングレートは相変わらず頭に血が昇りやすい性格で、家臣たちにキツく当たったりもしていたが、それでも彼の王国への熱情は凄まじいもので、日々の公務に真摯に取り組む姿は、国民からも好印象を持たれていた。


 一方、ライルランドは大公と男爵の地位を剥奪され、王国貴族から完全に追放された。管理していた土地も全て没収され、彼は行く場を失った。

 全てを失ったライルランドは、国外逃亡を図ろうと夜な夜な馬車を走らせ、国境へ急いだ。

 ……が、何者かの集団に馬車を襲われ、ライルランドは刺客の刃を受けて殺害されてしまったという。


 おそらくライルランドの政策や無敵艦隊アルマーダ計画の失敗を根に持つ過激な一派が襲撃したのではないかと噂されているが、事実は定かではなかった。


 ラビの両親を手にかけたヴィクターは、重罪人として牢獄送りとなり、王国で最も警備厳重とされる囚人要塞へ収容された。

 その要塞では、囚人たちは毎日奴隷のように体を酷使する労働をさせられ、人としての扱いを受けられない非道な場所であるらしく、大抵の者は過労死するか、気が狂ってしまう者も多く居るという。


 ヴィクターが牢獄に入れられたその日、彼の収容されている棟では、一晩中甲高い笑い声が響き渡っていたという。

 ――それから、彼がどうなったかは、俺たちの知る由ではない。

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