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第176話 これが、私の戦い方です

 暗闇からラビの声が聞こえ、ヴィクターはすかさず落ちた剣を拾い上げようとしたが……


「なっ……か、体が痺れて、動かない!」


 ガクガクと震える自分の手や脚を見て、何が起きたのか分からなくなるヴィクター。


 ――やれやれ、ようやく効いてきたみたいだな。()()()()()()()()()()


 一匹だけじゃ効き目は薄いかもしれないが、あれだけ大量の数に襲われれば効果抜群だ。


 すると、暗闇の中にパッとランプの火が灯り、明かりの中からラビの顔がぼんやりと浮かび上がった。


「……もうそろそろ、降参してもらえませんか? これ以上この船ーー師匠を傷付けたくないので」


 ラビがヴィクターに向かって言う。


「……ふっ、クックックッ……降参しろだと? 剣も交えず、正面から戦うこともせず、まるで子供騙しのようなイタズラで散々私をコケにしたお前が、降参しろだと⁉︎」


 「ふざけたことを抜かすな!」とヴィクターは憤る。


「ロクに戦い方も知らないど素人が生意気なんだよっ! ガキのくせして一人前の海賊を気取りやがって! 貴様にこの戦いの何が分かる! 正面から剣を交えることもできないような弱者がイキがってんじゃねぇよ! ……目障りなんだよ、貴様も、貴様の親父も! このクソみたいな船も全部っ‼︎」


 ヴィクターは抱えた感情をぶちまけるように叫び散らした。


 ラビは吐き出される暴言を黙って最後まで聞いていたが、やがて口を開く。


「……確かに、私の戦い方は無茶苦茶で、戦術なんて何も知らないし、行き当たりばったりだし、あれだけの数の艦隊を相手にして生き残れたのは正直奇跡だと思っています。指揮官であるあなたと、正々堂々向き合って勝負しなかったことも、卑怯に思われるかもしれないです」


 「でも――」と、ラビは言葉を続ける。


「これが、私の戦い方なんです。戦いに使えるものは何でも利用して、頼れる人全てに声を掛けて、互いに助け合いながら共に苦難を乗り越えてゆく。私はあなたのように何でも一人でできなくて、いつも周りから助けてもらってばかりでした。……でも、これまで師匠と一緒に旅をする中で得たものを生かして、私なりに精一杯戦ってきたつもりです」


 ラビはそう言って、真っ直ぐな瞳でヴィクターを見据えた。


「……だから、もう終わりにしましょう。これ以上の争いに意味なんか無いです」


 そう告げられ、ヴィクターはがくりと項垂れるように頭を垂れる。

 そして、かつてシェイムズに付けられた右目の傷に震える手を当てながら、呟くように言葉を漏らした。


「………クックッ……シェイムズからも、貴様からも、親子代々に渡って散々私をコケにしやがって……あぁ、まるで生き地獄だ。これ以上はもう耐えられない………殺せぇ。一思いに殺ってくれ。シェイムズに負けたあの時から、延々と見せられ続けてきたこの悪夢を、貴様の手で終わらせてくれラビリスタっ!」

「――嫌です」


 感情的になったヴィクターの言葉を遮るように、ラビは即答した。


「あなたは殺しません。これからも生きて、犯した罪を償う努力をしてください。……きっと、お父様があなたを生かしたのも、屈辱を与えるためではなく、良き船乗りとして更生してほしかったからだと思います。お父様はあなたに、将来への希望を託していたんです」


 ラビの言葉に、ヴィクターは拍子抜けしたような顔をする。


「私の、ために……だと?」

「はい。お父様は戦時中も、敵味方関係なく、その人の人柄や性格で相手を見ていました。命を奪わなかったあなたのことも、きっと良く思っていたはずです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ラビは、かつてヴィクターから聞かされた御伽話を引用しながらそう言って、彼に向かってにこりと笑みを浮かべた。


「シェイムズが私に……くっ、クックックッ……ひゃはははははっ! これは傑作だっ! 見事な茶番劇だ! 馬鹿げてる! そんな御伽話など私は信じない! 私の行いは全て正しかったんだ! はははははっ!」


 自分の犯した行為が全て無駄であったことを悟ったヴィクターは、しばらくの間、壊れた玩具のように笑い続けていた。


 しかし暫くして、彼の周囲で異変が起こる。


「ひっ! 今っ、足元に何かが……」


 ヴィクターが悲鳴を上げ、水溜まりに浸かった脚へ目を向ける。


 水面には無数の黒い影が浮かんでいて、ヴィクターの周りを取り囲むように迫ってくる。


「なっ、何だこれは……や、止めろっ、来るな! 来るなっ!」


 毒で体が麻痺しているせいで動けないヴィクター。そんな彼の体に纏わり付くようにして、無数の生き物が水面から這い出してきた。


『おいラビ、こいつらって……』

「ナメクジさんたちですね。ヴィクターさんのことが好きで集まって来たみたいですよ」


 船倉ホールドに潜んでいた大量のウィークスラッグ(ナメクジ)が、一塊になってヴィクターにのしかかってゆく。


「ぎゃあああああああっ‼︎ わ、私はナメクジが嫌いなんだ! 離れろ! 離れろっ! 一体この船はどうなってんだ⁉︎ まるで害獣の巣窟じゃねぇかクソがっ! く、来るな! 止めろぉおおおおおおっ!」


 必死の抵抗も虚しく、ヴィクターは集まってくるウィークスラッグたちに飲み込まれてしまった。


『……おいおい、放っておいて大丈夫かよ? ありゃマジで死ぬ一歩手前の悲鳴だったぞ』

「大丈夫です。遊びも程々にするよう、あの子たちには伝えていますから」


 そう言って、ラビは自分の肩に這い上がってきた一匹のウィークスラッグのヌメヌメした頭を、慣れた手付きで優しく撫でていた。


 以心伝心スキルで、船に住み着く害獣たちを全て手懐けてしまったラビ。以前は大量のナメクジを前に泡を吹いていた彼女も、今ではすっかり懐いてペットも同然の扱いになってしまっている。ナメクジに愛される少女って、なんか絵面がヤバいのだが……


 まぁ今回、これだけ散々な目に遭って、ヴィクターも心から学んだだろう。相手が小娘だからといって甘く見るべからず。その才能は、剣を交えずして最強の敵を倒してしまうほどの力を持つのだから。



 ――こうして、ラビとヴィクターとの因縁の闘いは、俺たちらしいやり方(?)でようやく終止符を打ったのだった。







※この時点での俺(クルーエル・ラビ号)のステータス

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【船名】クルーエル・ラビ

【船種】ガレオン(3本マスト)

【用途】海賊船 【乗員】124名

【武装】自動機関砲ガトリングガン…5基 タイレル小臼砲…2門 タイレル中臼砲…2門 18ライル・ラディク砲…20門 24ライル・ラディク砲…18門

【総合火力】3824 【耐久力】15000/15000

【保有魔力】3000/3000

【保有スキル】神の目(U)、乗船印ボーディングサイン(U)、総帆展帆そうはんてんぱん(U)、自動修復(U)、詠唱破棄、治癒(大)(ヒール・マキシマ):Lv6、魔素マナ集積:Lv7、結晶操作:Lv6、瞬間転移:Lv9、閲読えつどく、念話、射線可視、自動砲撃支援:Lv1、念動:Lv10、鑑定:Lv10、遠視:Lv10、夜目:Lv10、錬成術基礎:Lv10、水魔術基礎:Lv8、火魔術基礎:Lv8、雷魔術基礎:Lv8、身体能力上昇:Lv6、精神力上昇:Lv6、腕力上昇:Lv6

【アイテム】神隠しランプ、魔導防壁展開装置シールドジェネレーター

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