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第175話 悪い子は痛い目を見なきゃね

「……くっくっ、シェイムズの小娘が、今度は亡霊と手を組んで私をおちょくるつもりか?」


 電撃を放たれた一瞬の隙に姿を眩ませたラビを探して、ヴィクターは甲板の上を歩いてゆく。


 グラッ――


 すると突然、船が斜めに傾いて、ヴィクターは体のバランスを崩しその場に倒れ込んだ。

 甲板の傾斜が急になり、奴はそのまま床の上を滑って下甲板へ続く階段を転がり落ちてゆく。


「ちっ、このボロ船が……」


 ヴィクターはすぐに起き上がるが、その際に俺が念動スキルでこっそり足元にロープを絡ませておいた。


『よしラビ、思いっきり引っ張れ!』

「はい師匠!」


 すると、俺の合図で隠れていたラビが握っていたロープを一気に引っ張った。

 ヴィクターは不意打ちで足を取られ、更に下の甲板へと頭から転落。ああ痛そう。


「ぐはっ! な、何なんだ一体っ!」


 下砲列甲板ロワー・ガンデッキまで一気に転がり落ちてしまったヴィクターは、暗闇の中に放り出される。天井に設置された魔法灯は全て消灯させ、予めラビに甲板の全砲門を閉じておくように指示しておいた。今この甲板には、光の一筋も入る隙間は無い。


 まだ暗闇に目が慣れないヴィクターは、炎魔術を付与した剣を松明替わりに辺りを見渡しながら、苛立ちの声を上げる。


「小娘っ! 何処に隠れているっ!? 姿を見せろ腰抜けがっ!」

「――ここですよ」


 背後からの囁き声にすかさず反応し、力任せに炎の剣をぶん回すヴィクター。

 しかし、そこにラビの姿はない。


 ラビは自分の手持ちスキル「夜目」を使って、暗闇の中でもヴィクターの攻撃を上手く回避し、見事に相手をかく乱させていた。


 ゴロゴロゴロゴロ……


 すると、突然聞き慣れない音が近付いて来て、ヴィクターはピクリと肩を震わせ音のする方へ剣を向ける。

 ――でも、時すでに遅し。


 ドガッ!

「ぐあっ!」


 突然、床の上を転がってきた大量の砲弾に脚を取られて、ひっくり返ってしまうヴィクター。


 そこへ、俺は大砲を乗せた台車を動かし、大の字に転がった奴の脚の上に転がしてやった。


「ぎゃあああああああっ!!」


 重量のある台車に脚を潰され、悲鳴を上げるヴィクター。

 しかし、流石は魔法の使い手だけあって、すぐに手持ちのスキル「治癒(大)(ヒール・マキシマ)」を使って潰れた脚を再生させる。


「クソっ! ふざけやがって!」


 ヴィクターは右目に付けていた眼帯を外し、目にはめ込まれた魔石を露出させた。


「『物理防御力上昇』、『魔法防御力上昇』の同時発動! これならどんな攻撃を受けても痛くも痒くもないっ!」


 魔石が赤く光り、ヴィクターの体に光が染み渡ってゆく。


 おいおい、物理攻撃完全無視って、そりゃチートだろう? 俺は呆れて溜め息を吐きながら――


 内心ほくそ笑んだ。……ってことはつまり、もっと好き放題に痛ぶっても良いってことになるよなぁ?


 ドガッ!

「がはっ!」


 ヴィクターは、何処からか飛んできた砲弾で頭を強打し、床に倒れ込む。

 俺は念動スキルで、倒れた奴に向かってひたすら砲弾を投げまくってやった。まるで節分の豆まきみたいに。


 それそれそれっ! 鬼は~外っ! 福は~うちっ!


 ドカッ! ゴスッ! バコッ! ドゴッ!


 引っ切り無しに投げ続け、気付けばヴィクターの体は砲弾で埋まっていた。


「こっ、この……いい加減にっ――」

『おいおい、まだ終わっちゃいないぜ?』


 ヴィクターの体を埋める砲弾の数々。

 そのうちの幾つかは、黒く丸い玉から導火線が伸びており、パチパチと火花が散っていた。


「なっ―――!!」


 刹那、閃光と爆音が何発もとどろき、床が抜けてヴィクターは更に下層の最下甲板オーロップデッキへと落ちていった。


 いや~、自分なりの方法で悪人を裁けるってのは気持ちがいい。傍から見れば完全に弱い者虐めしてるみたいだが、悪人に情けは無用だ。


 積み上がった砲弾と瓦礫の中から、ボロボロになったヴィクターが這い出してくる。物理攻撃耐性のおかげで怪我は負っていないようだが、俺に散々弄ばれて、すっかり憔悴してしまっている模様。髪もボサボサ、提督用の豪奢な軍服も煤にまみれて真っ黒。ふん、好い様だな。


 ――さて、ではそろそろ仕上げに移るとしようか。


『ラビ、お客が最下甲板オーロップデッキにおいでだ。()()()()()()()()()()

「はい師匠!」


 瓦礫の中から這い出してきたヴィクターは、いつの間にか周囲から鋭い視線を向けられていることに気付き、ビクッと肩を振るわせる。


「な、何が一体……」


 周囲へ目を向けると、暗闇の中から赤く光る目がいくつもこちらを凝視していた。


 そして次の瞬間――


 ドドドドドドッ!

 バサバサバサバサッ!


 無数の影が一斉に床の上を駆け、羽音と共に黒い何かが宙を舞い上がった。


「うわぁああああっ!」


 暗闇の中から、大量のテールラットとポイズンバットの群れが解き放たれた。腹を空かせたテールラットは鋭い爪と牙でヴィクターに次々と襲い掛かり、血に飢えたポイズンバットが上空から毒牙を見舞った。


「ぐあぁっ! このっ! こざかしい真似をっ!」


 噛み付かれながらもひたすら剣を振り回して抵抗するヴィクター。

 しかし、倒しても倒してもまだまだ次から次へと襲い掛かってくる。


 当然だ。俺の船に潜んでいるネズミとコウモリは、クルーエル・ラビ号の乗組員全員を合わせたよりも数が多いのだ。全部かき集めれば、一個大隊並の頭数を揃えられるんじゃないか?


 予めラビに頼んで、船に潜むテールラットとポイズンバットを全て最下甲板オーロップデッキに集めさせておいて正解だった。

 どうしてそう簡単にに集めることができたのかって? それはラビの手柄だ。彼女の持つ「以心伝心」スキルのおかげで、ネズミやコウモリたちに命令し、使役することができるようになっていたのだ。


「みんな、襲ってもいいけど、くれぐれも殺さないようにお願いね」と、ネズミやコウモリたちに指示を飛ばすラビ。

 散々害獣の群れに飲まれ、揉みくちゃにされてしまったヴィクターは、必死に床を這いつくばって逃げ道を探すのに必死だった。


「クソっ、クソっ、クソがっ! こうなれば、この船ごと一気に焼き払ってくれる!」


 右目の魔石から魔力を放出させ、手に持った長剣に業火を宿すヴィクター。


『はい、危ないから火遊びは止めましょう』


 そこへ、俺がすかさず水魔術の「水生成ハイドロ・ジェネレイト」を発動し、風呂桶三杯分ほどの水を生み出してヴィクターにぶっ掛けてやった。


「がばがぼがぼがぼっ‼︎」


 ヴィクターは濁流に飲まれて、最下層へ降りる階段を転がり落ちてゆく。あちゃー、少しやり過ぎたかも……


 バシャッ!


 落ちた先は水溜りになっていて、ヴィクターはずぶ濡れになった顔を上げた。右目にはめていた魔石は無くし、魔法の炎も水に濡れて消えてしまい、辺りは再び闇に包まれる。


「ちくしょう……シェイムズの小娘が、この俺を好き放題に弄びやがって………姿を見せろっ! ラビリスタぁあああっ‼︎」


 ボロボロの濡れネズミと化したヴィクターが、怒り任せに怒鳴り散らす。


 すると、暗闇の中から――


「デッドエンドです、ヴィクターさん」


 ラビの声が聞こえた。

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