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第169話 戦場でのひとコマ③ ~クロムだってやれるもん!~◆

 場所は移り、ここはクルーエル・ラビ号の甲板デッキの上。


 ラビたちと共に戦うべく、乗組員のエルフや白熊族の近衛メイド隊たちが忙しなく行き交う甲板上で、たった一人だけ、やる事が無くて暇そうにボーッとその場で突っ立ってしまっている者が一人いた。


「……クロム、やる事ない………」


 黒い頭に白いアイパッチ。パンダのような見た目ながら、その正体はパンダではなく、海のハンターであるシャチを人間の型に落とし込んだような見た目をした獣人――クロム・レアだった。


「あれっ? クロムさん、どうしてこんな所でお一人なのですか?」


 たまたま近くを通りかかった近衛メイド隊副隊長のエレノアが、退屈そうにしていたクロムを見つけて声をかける。


「うん……大砲を撃つ係を任されたんだけど、やる事がよく分からなくて、他のみんなから邪魔だって言われて追い出されたの」


 そう言って肩を落とすクロム。シャチ族である彼女は、エルフや人間と違って怪力であるため、力の必要な砲手を任されていたらしい。しかし、クロム本人は大砲を撃つ手順をよく分かっておらず、砲弾の装填作業が全く進まずに、他の砲手たちから怒られてしまったという。


「でもクロム、みんなの役に立ちたいの。何かできることない?」

「く、クロムさんにできること……ですか?」


 そう言われたメリヘナは、頭足らずなクロムにもできることを考えてみるものの、何も思い浮かばずに「う~ん……」と唸り、眉間にしわを寄せた。


「……やっぱりクロム、馬鹿で無能だから、何もできないのかな?」


 溜め息を吐いてしょんぼりしてしまうクロム。メリヘナはそんな彼女を慰めようと、必死に彼女にしかない取り柄を捻り出そうとした。


「そんなことありませんよ! クロムさんだって色々と特技があるじゃないですか! そう例えば、ええと………どんな厚い壁にも穴を開けてしまうほど固い石頭、とか?」


 メリヘナは、以前サザナミ大大陸に訪れた際、泳いでいたクロムが勢い余って船底の壁を突き破ってしまったことを思い出し、そう言葉を口にした。


 するとクロムは――そうか! と言わんばかりにポンと手を打って、目を煌めかせる。


「石頭……そうだ。クロム、それならできる! クロム、頑張ってみる!」

「はい? 頑張るって何を――」


 メリヘナがそう言いかけた時、クロムは何を思ったのか、突然走り出して船の縁から体を乗り出すと、そのままバンジージャンプをするように体を投げ出したのである。


「あっ! クロムさんっ!」


 そのままクルーエル・ラビ号から落下してゆくクロム。重力に逆らうことなく落ちてゆく彼女の体は砲弾並みに加速していき――


 ズボッ!!


 ちょうど真下を通過していた敵戦列艦の甲板に頭から突き刺さり、勢い余って船体内部まで突き抜けてしまった。


「な、何だ!? 砲撃か?」

「いや、何か人間みたいなヤツが落ちてきたぞ!」


 乗組員たちは驚いた顔で、甲板に穿たれた大きな穴の中を覗き込む。


 すると、開いた穴の下から爆発音が聞こえて、穴から爆炎が噴き出し、そこからクロムが砲弾のように飛び出してきた!


 そのまま、敵戦列艦は船体の内側から大爆発を起こし、粉々になって沈んでいった。爆風で宙高く放り出されてしまったクロムは、そのまま再びクルーエル・ラビ号の甲板に戻って来て、後甲板アフターデッキのバルコニーに転げ落ちる。


「クロムさんっ! 大丈夫ですか!? お怪我は……」


 いきなり船から飛び降りたかと思えば、再び飛んで戻って来たクロムは、全身煤まみれで真っ黒になりながらも、にっこりと笑顔を浮かべて言った。


「クロム、この石頭使って敵の船に穴開けてやった! ……でも、落ちた所、ちょうど火薬庫だったみたい……ちょっと痛かったけど、あっちこっち飛ばされて、楽しかった!」


 下手したら死んでもおかしくない――いや、むしろ自殺するも同然な捨て身の頭突き攻撃で戦列艦一隻をあっという間に沈めてしまったクロム。そんな彼女の無謀極まりない行動に、メリヘナは呆れて言葉も返すことができなかった。


「いきなり船から飛び降りるだなんて……下手したら死んでたかもしれないんですよ! もう二度とあんな危ないことはしないでください!」

「えぇ……とても楽しかったのになぁ……」


 メリヘナから怒られてしまい、またしてもしょんぼりしてしまうクロム。


 けれども、自分でもこうして戦いの役に立てることが証明されて、少しばかり得意げになるクロムなのだった。

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