表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/185

第166話 バトル・オブ・アルマーダ⑥

 ド―――――ン! 


 遠くから爆音が聞こえ、音のした方を振り向くと、巨大なキノコ雲が無敵艦隊アルマーダの方から立ち昇ってゆくのが見えた。


『何だ? 何かあったのか?』


 訳も分からず俺が尋ねると、ラビが爆発のあった方を睨んで声を上げる。


「どうやら八選羅針会はっせんらしんかいの方たちが、無敵艦隊アルマーダを足止めしてくれてるみたいです。今のうちに、敵の竜騎士ドラゴンライダーたちを一掃してしまいましょう! ――グレンちゃん!」

「うん、分かった……つかまってて」


 グレンは翼を翻して大きく旋回すると、急加速して敵の渦中へ突っ込み、巻き起こる衝撃波でドラゴンに乗っている騎士たちを振り落とした。


「そらそらっ! 次に射落とされたいヤツはかかって来な!」


 そして、グレンの後からピッタリ付くように、ニーナの乗ったクリーパードラゴンが続き、衝撃波にやられてフラつく竜騎士ドラゴンライダーたちにすかさず矢を放っていった。


 ラビとニーナの合体技が炸裂し、敵ドラゴンを粗方片づけたところで、目前に巨大な船体を持つ装竜母艦そうりゅうぼかんが現れる。


「うわ! ラビっち、前方に親玉っ!」

「……っ! グレンちゃん、回避して!」


 ラビが慌ててグレンに指示を出す。しかし、装竜母艦の滑走路横に搭載された対空銃座や小型の砲塔が既にこちらへ狙いを定め、射撃準備を整えていた。


(駄目だ、撃たれるっ!)


 そう思った、次の瞬間――


 ズドォッ! ダダァン! ドドドドッ!


 こちらを狙っていた銃座や砲塔が、突如として爆発四散し、次々と炎に包まれた。


 ドンッ! ドンドンッ! ドンッ!


 背後から響く砲声。振り返ると、一隻の船が装竜母艦を攻撃したらしく、船体から砲撃による白煙が上がっていくのが見えた。


「……あの船は、誰の船でしょうか?」


 ラビは砲撃している船に目を凝らすが、海賊旗は掲げられているものの、これまで見たことの無いカラーリングをした珍しい船だった。……というのも――


「何だか凄く………ピンクですね」

『あぁ、超ドピンクだな……』


 その船は、目が痛くなるほどの鮮やかなピンク色で船体を塗られており、船底はおろか、マストから帆布に至るまで、色の濃さの違いはあれど、全てがピンク一色で統一されていたのである。


 しかも、船の両舷に並ぶ砲門一つ一つには真っ赤な口紅ルージュを付けた唇のイラストが描かれていて、すぼんだ唇の真ん中から大砲の砲口が突き出していた。ミズンマストに張られた三角帆ラテンセイルにはポップなハートマークがでかでかと描かれ、船首の舳先には、羽を生やした裸のキューピッド像が、弓を構えて目先の敵艦を狙っている。


(うわぁ………)


 あまりにどギツ過ぎる装飾に、思わず引いてしまう俺。なんか、またヤバいヤツが乗ってそうな雰囲気がプンプンするぞ……


 そう思って身構えていると……


「あっ!」


 ラビが船の甲板に誰かの姿を見つけたらしく、声を上げた。


 そこに立っていた人物とは――


「……やれやれ、本当は助ける気なんて無かったのだが……いつも贔屓ひいきにしてくれてる酒場の常連が居なくなるのは寂しいからね」


 甲板から声が上がる。――その声の主は、リベナント小大陸ルルの港町で、ある時はクールなドックの管理人。またある時は、キュートで可愛い酒場「スラッシー」の看板メイド。二つの顔を併せ持つ魅惑の女性、ルミーネ・ライラその人だった。


「ルミーネさんっ⁉ どうしてここに?」


 驚くあまり叫んでしまうラビ。ルミーネは酒場「スラッシー」でバイトをしているときに着用するフリフリなメイド服を身に付けていたが、眼鏡を付けているせいで、中身は皮肉屋なクール女史のままだった。


「ラビリスタ君が無敵艦隊アルマーダと絶賛交戦中であると聞いてね。私も居ても立っても居られなくなって、こうしてせ参じた訳だよ。少々到着が遅くなってしまったようだがね」


 そう言って、ルミーネは眼鏡をクイッと指で押し上げた。


「ルミーネさんも、私たちに加勢しに来てくれたんですか?」


 尋ねてくるラビに、ルミーネはふっと笑みを浮かべながら「それは私の勝手だよ」と答えつつ、こう言葉を続けた。


「――それに、今の私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。………今の私は――」


 ルミーネはそう言って、着ていたメイド服に手をかけると、思い切り衣装を引きはがした。


「――はぁ~~~~い♡ みんな、お・ま・た・せっ♡! 楽しい愉快な殺し合いタイムの始まりよぉ~~~~っ!」


 甲高い声と共に、宙に舞い上がるメイド服。まるで脱皮するようにメイド衣装を脱ぎ捨てた彼女は、ピンク一色かつ、全身を太いベルトでがんじがらめに締め上げられたぴちぴちボンテージスーツに身を包んだ格好で、そこに立っていた。


『うえぇ⁉』

「えぇ⁉ ちょちょ、ルミーネさんっ⁉」


 まるでルミーネの体に別人が乗り移ったような性格の変わりように、思わず二度見してしまう俺たち。


「あぁもう、ルミーネなんて地味な女の名前で呼ばないの♪ 今の私は、美しさと欲望の化身。伝説の海賊、八選羅針会はっせんらしんかいの一人――『妖艶の桃姫(ピンク・プリンセス)』こと、ルシアナ・リリー。この名前を、その小っぽけで貧相なカラダに刻み付けることね、子猫ちゃん」


 そう言って、ウインクしながら投げキッスを飛ばすルシアナ。それまで彼女がルミーネだった時の面影は欠片も無く、唯一遺物として残っていた若草色わかくさいろの長髪も、彼女の駆使する視覚操作の魔術によって、瞬く間にピンクに染め上げられていった。


『おいニーナ、あれは一体どういうことだよ……』


 名前だけでなく人格まで完全に挿げ替わってしまったあのピンクの化け物を前に、俺は近くに居たニーナに尋ねた。


「あらら……とうとう本性現しちゃったか~。――見ての通り、あれがルミっちの真の姿だよ。彼女も私たちと同じ、八選羅針会のメンバーなんだ。クールで毒舌な一面と、お茶目でキュートな一面を持つルミーネって女性も、実は本性を隠すための彼女なりの演技だったってワケ。あのピンクボンテージ衣装姿になると、ルシアナ本来の姿に戻る仕組みなの」


 そう解説するニーナ。おいおいウソだろ……それじゃ二重人格じゃなくて三重人格も良いところじゃないか! ジキルとハイドもビックリだよ! てか、何でわざわざ二重人格を演技してまで素性を隠そうとするんだよ! 衣装チェンジで性格チェンジするとか、魔法少女かよ! ややこしいわ!


 などとツッコミが追い付かない中、ラビは驚くあまり声も無くしてポカンと口を開けてしまっていた。


「あらあら、なぁに? 私の素顔を見てそんなに驚いちゃったの? 呆けた顔してだらしなく口開けちゃって、カワイイ子猫ちゃんね。……その小さな口に猿ぐつわを噛ませて鞭で叩いたら、どんな風に鳴いてくれるのかしらぁ?」

「ふえっ⁉」


 唐突にそんなことを言われて動揺してしまうラビ。……ヤバい、こいつ相当なドSだ。こんな奴ならまだクールで毒舌なルミーネの方がまだマシだった気もするが……八選羅針会の一人ともあれば、一応戦力にはなる……のか?


「ふふ、まぁいいわ。子猫ちゃんは後で可愛がってあげるとして、今はこの爽快なひと時を最後まで楽しむとしましょうか」


 ルシアナはそう言って、手に持っていたフリフリレースの付いたピンクパラソルを広げて肩にかけ、腰に付けていた黒くて太い鞭を手に取ると、ヒュンと宙に鞭先を飛ばしながら、声を上げた。


「さて、最初に鞭で叩かれたい生意気な豚野郎は誰かしらぁ? この私と『ソウル・シャドウズ』号が相手になるからには、容赦や手加減なんて言葉は抜き! 存分に痛ぶって、イイ声で鳴かせて、あ・げ・る♡ ――撃ち方始めっ!」


 ドンドンドンドンドンッ!!


 海賊船ソウル・シャドウズ号側面の砲列甲板に置かれた大砲が、ルシアナの合図で一斉に火を噴き、手負いの装竜母艦に最後のトドメを刺した。黒煙を上げて轟沈してゆく母艦。その黒煙を突き破って、鮮やかなピンクの殺し屋が飛び出した。


 奇襲攻撃を食らい、まだ反撃準備も整えられていない敵艦に向かって、ルシアナ率いるソウル・シャドウズ号は容赦なく砲弾を叩き込んでゆく。


 ドンドンドンドンドンッ!!


 鉛弾が命中し、バリバリと音を立てて吹き飛ばされてゆく敵甲板。まるでアリの巣を踏み潰すように艦隊を蹂躙じゅうりんしてゆくルシアナは、快感に喘ぎながら身悶みもだえた。


「ああんっ♡! さぁ、もっと鳴いて! もっと痛がって! 最高に甘美な悲鳴を私に聞かせて頂戴! あぁっ、そう! イイわ、その調子っ♡ はぁああああんっ♡‼︎」


「……あ、あの、ルミーネさん――じゃなくてルシアナさん、大丈夫でしょうか?」


 艦隊をほふっては体をくねらせ、ヤラしい声で喘ぐルシアナを、心配そうな目で見守るラビ。俺は思わず「あんなの見ちゃいけません!」とラビの目を塞ぎたくなる気持ちに駆られた。


『まぁ、とりあえずあっちはあっちで任せて、俺たちは俺たちのできることをやろうか……』


 ドドォオオン! と音がして、ルシアナの突撃していった方角から火の手が上がった。どうやらまた別の敵艦がピンクの化け物の餌食になったらしい。


 ……あの変態ドS女が、俺たちの側に付いていてくれて本当に良かったと、俺はつくづく思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ