第162話 バトル・オブ・アルマーダ②
「ラビさん! 後ろからまた何か来ます!」
サラに言われて振り返ると、遠くの空から二つの黒い影が、こちらに近付いてきた。
あれは……ドラゴンか? いや、ドラゴンにしては形が違う。
まるで首長竜にコウモリの翼が生えたようなその生き物は、胴に付いた四つのヒレを動かし、空を悠々《ゆうゆう》と泳ぎながら、俺たちの居るところまでやって来た。一匹は巨大だが、もう一匹は一回り体が小さい。
この二匹は親子なのか? しかもこの顔、以前にも何処かで見たような……あ、まさか!
俺が思い出すと同時に、ラビが叫んでいた。
「レクちゃん⁉ それにレク子ちゃん!」
ウォオオ~~~~ン!
アォオオ~~~~ン!
二匹とも、ラビが名前を憶えてくれていたことを嬉しがるように甲高く吠えた。
彼らはレイクザウルスという名前で、俺がこの世界に船として転生された時、転生先の湖に住んでいた恐竜親子だった。出会った当時は、まだ船の体に慣れずに動けなかった俺を岸まで引っ張っていってくれたり、船に乗り込んできた悪人どもを退治してくれたり……まぁ、色々と世話になった恩人だ。
……にしてもこいつら、以前見た時はこんな翼なんて生えていたっけか?
俺は不思議に思って、鑑定スキルを使って恐竜親子二匹のステータスを確認してみる。
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【種族】ネオ・レイクザウルス
【HP】2610/2610
【MP】1070/1070
【攻撃】990 【防御】750 【体力】910
【知性】148 【器用】410 【精神】650
【保持スキル】飛翔:Lv10、潜水:Lv10、水魔術応用:Lv5、氷魔術基礎:Lv4、突進:Lv8、噛み付き:Lv9、警戒:Lv6、冷寒耐性:Lv5、水圧耐性:Lv9 暴風強化:Lv7 消化強化:Lv3
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【種族】ネオ・レイクザウルス
【HP】950/950
【MP】470/470
【攻撃】510 【防御】370 【体力】800
【知性】100 【器用】240 【精神】210
【保持スキル】飛翔:Lv5、潜水:Lv8、水魔術基礎:Lv4、突進:Lv6、噛み付き:Lv8、警戒:Lv4、暴風強化:Lv2
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「あれ? ネオレイクザウルスに名前が変わってる?」
しかも、初めて出会った時と比べてステータスがかなり上昇している。そして、ちゃっかり飛翔スキルまで獲得していた。……まさかこいつら、飛竜に進化したのか⁉
こいつらと初めて出会った時は飛ぶこともできなかった彼らだが、俺が散々餌付けしたせいで見ない間にどんどん成長し、限界突破して恐竜から飛竜に進化してしまったらしい。
「――あぁ、その親子はアンタたちの知り合いだったのね。昨日突然ウッドロットにやって来て、訳もなく吠えに吠えてくるものだから、どうすれば良いのか困っていたのよ。この子たちも、どうやらアンタたちと一緒に戦いたいみたいね。仲間に加えてあげたらどう?」
エレノアがそう言って肩をすくめた。どうやら、ラビの危機を察知して、あの湖のあった島からウッドロットまで遠路遥々飛んで来てくれたらしい。
「そんな……私、あなたたちには伝言の矢を送らなかったのに、どうして……」
『こいつらは賢かったから、ラビがピンチであることを本能的に感知して、慌てて駆け付けて来てくれたんじゃないか? この親子もラビに相当ご執心だったみたいだからな』
俺がそう言うと、恐竜親子が首を伸ばしてラビに擦り寄ってくる。ラビはそんな二匹に優しく手を伸ばし、そっと頬を撫でてやった。
「私たちのことを心配して、わざわざここまで来てくれたのね……こうしてまた会うことができて、私とっても嬉しい……ありがとう」
ラビは、再び恐竜親子に出会えたことが嬉しくてたまらず、涙を浮かべながら感謝を伝えた。ラビの感謝の思いは、彼女の持つスキル「以心伝心」によって恐竜親子にも伝わったらしく、二匹は嬉しそうに吠えて、懐くようにラビの顔をペロリと舐めた。
「ひゃ! くすぐったいよ……もう!」
こうして恐竜親子とも再会することができ、予想外の助っ人も入って、俺たち海賊の連合部隊はかなりの戦力まで膨れ上がった。
……さて、これで役者は揃った。ようやく戦いを始められる――
――と、その前にちょっと待った! 実はまだ肝心な主役が登場してないんだよなぁ。
俺はそう思いながら、ラビに向かって声をかける。
『……おいラビ、俺のことも忘れてもらっちゃ困るぜ。後ろを見てみな』
「へっ?」
突然の俺の言葉に、驚いて後ろを振り返るラビ。
そこには、破損した箇所を完全に修復し、完全復活を遂げたクルーエル・ラビ号が、俺たちの背後に続いていた。
「ラビリスタお嬢様〜〜っ!」
クルーエル・ラビ号の後甲板にあるバルコニーから、近衛メイド隊隊長のポーラがこちらに大きく手を振っていた。
「クルーエル・ラビ号⁉︎ 無敵艦隊の攻撃を受けてボロボロになっていたはずなのに、短時間でどうしてこんな綺麗に……?」
『それは俺のユニークスキル、「自動修復」を使って新品同様になるまで修理したのさ。ここに来るまでは、魔力が枯渇して修復もままならない状況だったが、ウッドロットの御神木であるユグドラシルから放出される魔素を取り込んだおかげで、魔力を十分に回復することができたんだ』
しかも、魔物ウラカンが手伝ってくれているおかげで、ユグドラシルの木が放出する魔素の量も二倍になっていた。それゆえ、魔力が満タンになるまで蓄えるのにさほど時間もかからなかったのである。
「お嬢様、私たちも加勢いたします! 乗組員一同、ラビリスタお嬢様と共に最後まで戦う覚悟です!」
「「「おぉ~~~~~~っ!!」」」
甲板上で乗組員たちの歓声が上がった。
「――皆さん、ありがとうございます! 敵は大勢ですが、皆さんとなら必ず敵を打ち倒せると信じています!」
ラビは感謝を叫び、迫り来る敵の竜騎士部隊を真っ直ぐな目で見据えた。
ウッドロット防空騎士団、団長のエレノア、マジックアイテム研究者のラディク、進化した恐竜親子、そして俺こと海賊船クルーエル・ラビ号の連合部隊を率いたラビは、皆の先頭に立ち、向かい来る敵を指差して声を張り上げた。
「――総員、突撃開始ですっ!!」
どんなに大勢の艦隊や部隊を送り込もうと、俺たちならず者海賊連合の団結はそう簡単に破れやしないということを、今こそ奴らに示してやる時だった。