第160話 次なる助っ人の登場
「前方に機雷っ! 接触するぞ!」
「駄目です! 回避間に合いません!」
「第六・第七艦隊全滅! 装竜母艦二隻大破!」
「被害甚大! 陣形維持不能!」
ラビの罠に掛かって機雷原に突っ込んでしまった無敵艦隊は、もはや完全に指揮系統を失い、混乱状態に陥っていた。
仲間の艦が次々と機雷に触れて爆沈してゆく様子を目の当たりにし、ヴィクターはその場で膝を付いたまま動けないでいた。
「おのれ……おのれ……シェイムズの小悪魔が……」
ぶつぶつと呪詛を吐くヴィクターを見ていたライルランドは、ちっと舌打ちして彼を見放すように目を背けた。
「ええい使えない男め、もうよい! 代わりに私が指揮を執るっ! 状況は⁉」
「はっ! 艦隊の被害は拡大、前方に機雷原があるため、これ以上は進めません!」
「ならば残った装竜母艦から竜騎士部隊を全て発艦させろ! こうなれば、エルフの里もろとも焼き野原に変えてくれるっ!」
ライルランドの命令により、装竜母艦からレギオン級やコモン級ドラゴンに乗った竜騎士たちが蒸気カタパルトに乗せられ、次々と飛行甲板から飛び立ってゆく。残る装竜母艦は全部で三十、一隻の母艦に約五百匹のドラゴンが収容されており、合計一万五千の竜騎士部隊が全て空へ解き放たれた。
「死にぞこないの小娘め……上手く罠に掛けたからといって調子に乗るなよ。我が無敵艦隊は不滅であることを教えてやる! 全艦、砲撃準備! 目標をエルフの里ウッドロットへ定めろ!」
残る艦隊が全砲門を開き、ウッドロットへ照準を合わせてゆく。
そして砲撃準備が整い、ライルランドが命令を下そうとした、その時――
ズダダァ――――ン!
突然、艦隊背後に居た戦列艦の一隻が火を噴いて爆ぜた。そしてまた一隻、さらに一隻と、船が次々に撃沈されてゆく。
「こ、今度は何だっ⁉」
突然の攻撃に慌てふためくライルランド。マストに登っていた見張りから声が上がる。
「艦隊後方に船影を多数確認! 海賊船です!」
「なにぃ⁉」
新たな海賊船の出現に、ライルランドは急いで船尾に走り、望遠鏡を向けた。
レンズに映ったのは、総勢三十隻ほどの船団。八隻の船が先頭に立ち、こちら目掛けて砲撃しながら前進してくる。
その八隻には、どれも異なるデザインの海賊旗がミズンマストに掲げられていた。戦場にはためく七つの髑髏。ライルランドは唇を噛みしめ、彼らの名を口にする。
「まさか……あれが伝説の海賊、八選羅針会か!」
○
「………どうやら、間に合ったみたいだな」
砲撃を受けて轟沈してゆく無敵艦隊の戦艦。
その様子を、海賊船サイレント・ウェイ号の甲板で、八選羅針会のリーダーであるヨハン・G・ザヴィアスは腕を組んでじっと睨んでいた。
「や~れやれ、こりゃまたスゲェ艦隊の数だな。これだけ相手するのは骨が折れそうだぜ」
そして、彼の肩に留まった鳥――もとい玩具の鳥チャッター・ピジョン28号から、羅針会メンバーの一人であるアスキン・バードマンの声が上がる。
「だが、既に艦隊の大半は撃沈させられたようだ。ラビリスタがやってくれたな」
ヨハンはそう言って手にした望遠鏡を覗き、艦隊の前方を見やる。
そこでは、ラビとサラの乗った黒炎竜が、王国の竜騎士部隊を相手に壮絶な空中戦を繰り広げていた。
その様子を見て、ヨハンは口角を上げる。
「ふっ、一人であの大艦隊を相手するとは、まったく大した娘だ。……おいシャーリー!」
「――ここに居るわ」
ヨハンが名を叫ぶと同時に、サイレント・ウェイ号の横に一人乗りの小さなヨットがぴたりと付け、操縦していた赤髪の女――シャーリー・ロヴィッキーが可愛い萌え声を返した。
「ラビリスタを狙うハエ共を叩き落としてこい。彼女に傷一つ付けさせるな。必ず生きて帰すんだ」
「……分かってる」
「リョウカイ! リョウカイ! 敵を蹴散らすゾ! グアッグアッ!」
シャーリーの肩に乗ったオウムが言葉を返し、ラビの元へヨットを走らせた。
「お前も行け、アスキン。シャーリーのサポートを頼む」
「了解! 手っトリ早く片付けるとしましょうか! 鳥だけにね! ピィピィピィ」
そう言って、アスキンの玩具の鳥はヨハンの肩から飛び立っていった。
「よし、残る全船団は俺の後に続いて敵艦隊の退路を塞げ。突撃だ!」
ヨハンの号令で、サイレント・ウェイ号を筆頭とした海賊船団が無敵艦隊目掛けて前進を始める。ヨハンはこれから始まる戦を前に、高鳴る胸の鼓動を感じながらすぅと大きく息を吸った。
「……さて、見せてやろうじゃねぇか。海賊の戦いってのを、な」