第159話 カゴの鳥解放作戦②(※後半から◆)
――”カゴの鳥解放作戦”の決行前、エルフの里ウッドロットでは、とある事件が起こっていた。
話を聞いたところによれば、ユグドラシルの真下で、突然何もないところから巨大な転移魔方陣が出現し、そこから巨大生物が召喚されたらしい。
巨大生物? ゴジ○でもやって来たのか? などと思いながら俺たちは現場へ急行すると……
そこには、見覚えのある巨大な化け物が、俺たちを待ち構えていた。
「あなたは……ウラカン様っ⁉」
「――久方ブリダナ、小サキ英雄ヨ」
喋ることのできるオオサンショウウオみたいな見た目をしたこの怪物は、以前リドエステ中大陸でラビとグレンが王国の秘密要塞を撃破した際に出会った魔物ウラカンだった。
ニーナがウッドロットから助けを求める伝言の矢を放った際、ラビは頼れる助っ人の候補として、ウラカンの名前を挙げていたのだった。
「でも、まさか本当に来てくれるなんて!」
「オマエニハ、大キナ借リガアル。ソノ借リヲ返シニ来タマデノコトヨ」
そう言ってウラカンは体勢を変え、こちらに巨大な尻尾を見せる。その尻尾の先には、ニーナの放った伝言の矢が突き刺さっていた。
ウラカンはラビに窮地を救われて以降、ずっとラビに借りを返したいと思っていたらしい。だから、ラビの放った伝言を受け取るや、すぐにこのウッドロットへ転移して来たという。
この魔物、転移スキルも持っていたのか……リドエステからここまでかなりの距離があったと思うのだが、それを一度の転移で移動できてしまうとは、恐ろしい化け物である。
「ご協力ありがとうございます。ウラカン様が来てくれたおかげで、私の作戦も実現できそうです!」
ラビが感謝の言葉を口にすると、ウラカンはフシュウと鼻から息を噴き出しながら答えた。
「礼ナド要ラヌ。オマエニハ一度助ケラレタ身ダ。我ニデキルコトガアレバ、何デモチカラニナロウ――」
○
そして現在――
ウッドロッドの中心部にある巨大樹ユグドラシルの魔力と、魔物ウラカンの魔力とがシンクロし、三つの神隠しランプへと伝達されて、透明魔術結界が島を中心に張り巡らされた。ユグドラシルの四方に伸びる枝木がアンテナの役割を果たし、魔力が島周辺の空域にも散布され、結界は島だけでなく、島を囲う機雷原までを覆い尽くした。
ユグドラシルの枝上にあるエルフの村では、村のエルフたち全員が外に出て、心配そうに空を見上げていた。その中には、里長のロムルスやニーナの両親であるエレノアとラディク、そして養子の子どもたちも含まれていた。
「……あっ、あれ!」
子どもたちが空を指差して声を上げる。
ドーン、ドーン、ドドーン………
パパッと空に光が瞬き、破裂音と共に無数の爆炎が上がった。その爆発は、ラビたちの罠に掛かった無敵艦隊が、機雷原に足を踏み入れてしまい起きたものだった。
「おお、これは……」
空を見上げて唸る里長のロムルス。爆発が起きたということは、すなわちラビの誘導作戦が成功したことを意味していた。
「ど、どうやらラビちゃんの考えた作戦は成功したみたいだね、エレノア」
「ええ、そうみたいね。まったくあの子ったら、どえらい作戦を立ててくれたものね。王国の艦隊をここまで連れて来るなんて、最初聞いたときはふざけてるのかと思ったわ」
呆れたように腕を組んで首を横に振るエレノア。
「ま、まぁ結果こうして成功したんだから、良しとしようじゃないか。ほら、空を見てみなよ。まるで打ち上げ花火みたいだ。エルフの里が王国の手から解放されて自由になったことを祝うには、持って来いの景色じゃないかい?」
ラディクはそう言って空を見上げた。
「見て見て! すごい! とってもキレイ!」
花火のように煌めく空を見て、エレノアの子どもたちも大はしゃぎ。周りのエルフたちも、無敵艦隊が突っ込んだことによって爆破除去されてゆく機雷を見て歓喜に沸き立ち、互いに手を取り合って喜んでいた。
かつて王国の設置した機雷原というカゴが壊され、ようやく本当の自由を手にできたエルフたち。彼らを祝福するように、大きな花火が空を彩っていった。
そんな中、クリーパードラゴンに乗ったニーナが、エレノアたちの元へ飛んで来た。
「やっほ~! みんなおっ待たせ~!」
「あっ、ニーナ姉だ!」
現れたニーナを見て喜ぶ子どもたち。エレノアが彼女に問いかける。
「ニーナ、アンタちゃんと神隠しランプを届けて来たんでしょうね?」
「モチのロン! ランプ三つ揃ったおかげで力も安定したし、透明結界を張る魔力はウラカン様が足りない分を補ってくれてるよ」
ニーナはクリーパードラゴンと共に島を囲う機雷原を抜けて、それまでずっと借りっ放しだった神隠しランプの最後の一つを届けに来たのだった。
「――さて、作戦は成功したといっても、これで全ての敵が片付く訳じゃないでしょ? ここからはアタシたちの出番だね」
そう言って、腕まくりするエレノア。ニーナも得意顔で大きく頷いた。
「よ~し、残った敵を掃除しに行きますかっ!」