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第156話 反撃はここから!

「………しょう……ししょう……師匠っ!」

『――――はっ!』


 ぼんやりと遠くからラビの呼ぶ声が聞こえ、俺はようやく意識を取り戻した。どうやら転移した際に気を失ってしまっていたらしい。


『悪い、ちょっと意識飛んでた……』

「師匠! いくら呼んでも返事が無いから心配したんですよ」


 自分でも船の体で転移魔術を使ったのは初めてだったが、膨大な魔力を一気に消費してしまうと、俺自身への負担が大きくなって一時的に意識を失ってしまうらしい。転移した際に気絶するとか、マジで某SFアニメのワープ航法さながらである。


 とりあえず、目が覚めた俺はすぐさま周囲を確認する。それまで背後に付いていた敵艦隊の影は見えず、砲声も止んでいる。デスライクード号の姿も無い。


『……転移、成功したのか?』

「はい、どうやらそのようです。ホログラムパネルに空図を広げて確認しましたが、私たちの居る現在位置が、過去の位置より数十リールほど移動していました」


 ホログラムに立体投影された空図を俺も確認したが、自分の現在位置を示す赤い点が、さっきまで居た地点とは異なっていることが分かった。デスライクード号に散々ボコされて撃沈される寸前ということもあり、テストも無しの一発勝負ではあったけれど、転移は見事成功し、どうにか窮地を脱することはできたらしい。


 ――しかし、それはあくまで一時的な窮地に過ぎないことは分かっている。


 現状、サラの体に刻まれた印紋マーカータトゥーがある限り、俺たちは何処へ逃げても敵に位置を特定される。言わばGPS発信機のようなものだ。サラの印紋を解除しない限り、俺たちの位置は常に相手側に筒抜けということになる。奴らはすぐに俺たちがここにいることを突き止め、全艦隊を率いてこちらへ転移して来るだろう。そうなれはまた袋叩きにされて、今度こそ本当にお終いだ。


 ギシ、ギシ、ギシ……


 ――すると、下の放列甲板ガンデッキから、ぐったり脱力したニーナが、サラに肩を支えられて後甲板アフターデッキへ続く階段を上ってきた。


「ニーナさん⁉ 一体どうしたんですか?」


 二人の姿を見て驚くラビに、ニーナは「えへへ……」と力無く笑う。


「へ、ヘーキヘーキ……ちょっと魔力使い過ぎて萎えてるだけだから。負傷者の手当ては大方終わったよ~。いやぁ、何十人もまとめて治癒魔術使って治すとか初めてだったから、ガチで疲れたんですけどぉ……」

「ニーナったら。だから無理はするなってあれほど言ったのに……」


 ニーナの肩を支えているサラが、心配そうな顔をして言う。ニーナが負傷者たちに治癒魔術を施してくれたおかげで、治療室に入れられた乗組員たちは全員、辛うじて一命を取り留めたらしい。サラも治療の手伝いに専念してくれたらしく、話を聞いたところによれば、止血する道具が足りずに、自分の着ている白いウェディングドレスを破いて血止めの包帯に使っていたという。そのせいで、床に付くほど長さのあったスカート丈は、今ではすっかり破り取られて膝上あたりまで短くなってしまっていた。


「あの、皆さんごめんなさい……私が居るせいで、皆さんをこんな危険な目に遭わせてしまうことになるなんて……本当に、何とお詫びしたら良いか――」


 そう言って、悲しそうな表情で頭を下げるサラ。


 確かに、サラの身に刻まれた追跡魔術のせいで位置を特定され、俺たちは王国軍の罠にかかり、こうして追われ続けている訳なのだが……


 だが、それが理由でサラを恨むのは筋違いだ。彼女はただ利用されただけに過ぎない。ラビもそこはきっぱりと首を横に振り、「それは違います!」と即答する。


「サラさんは何も悪くないです。自分を責めないでください」

「で、ですが……もっと早くこの追跡魔術のことをあなた方にお伝えできていたら、こんなことにならずに済んだかもしれないのに……」


 サラはどうしても、自分への罪悪感を拭えないでいるようだ。


 ――しかし、そんな彼女に対して、ラビはこう言葉を付け加える。


「心配しなくても大丈夫です。確かに、先ほどの戦いでかなり甚大な被害が出てしまいましたけど……これも、()()()()()()()()()()()ですから」

「……えっ?」


 思わず声を上げてしまうサラ。まるで、先ほどの激戦すらも予想の範疇にあるようなラビの物言いに、彼女は驚きを隠せない。


「私たちだって、やられてばかりではありません。次に会敵した時に備えて、きちんと手は打ってあります」

「で、ですが、あれだけの艦隊を相手に、一体どうやって立ち向かおうというのですか?」


 半信半疑なサラに対し、ラビは腕を上げて船の進行方向を指し示す。


「ほら、()()を見てください。――私たちが戦うために必要な手札は、これで全て揃いました。ようやく、私たちも敵と対等な勝負ができます」

「えっ? でもあれは………まさか――」


 何かに気付いて、ハッと息を呑むサラ。


「はい、その()()()です。これから、私たちの反撃作戦が始まります。そのために、サラさんにも力を貸してほしいんです」

「私の力を? ……こんな私がお役に立てるかどうか分かりませんが、あなた方の助けになるとあらば、喜んで力になります! 何でも仰ってください!」


 ラビの手を強く握り締めて答えるサラに、ラビはこくりと相槌を返す。それから踵を返すと、ニーナとポーラに目配せしながら言った。


「二人とも、後は()()()()()()()()()()に、よろしくお願いします」

「うい! ガッテン承知!」

「承知いたしました、お嬢様」


 二人ともラビの言葉を瞬時に理解し、敬礼を返して各々の仕事に取り掛かり始める。


 次にラビは、自分の指にはめた召喚指輪サモンリングを宙に掲げて、黒炎竜のグレンを呼び出した。


「おはよう、グレンちゃん。よく眠れた?」

「う~ん、少しは………何か用?」

「例の反撃作戦を始めるよ。私とサラさんを乗せて飛んでほしいのだけど、いけそう?」

「う、うん……本当は嫌だけど、ラビちゃんがどうしてもと言うのなら……覚悟はできてるよ」


 召喚された体長三十メートルもある巨大な黒炎竜は、主人であるラビに向かって律儀にお辞儀を返すと、翼を広げて飛び立ち、俺の船体の横に付けた。ラビはサラの手を取ると、グレンの背中へと誘導する。


「大丈夫、怖がらないで! この子、私の友達なんです。とてもお利口さんなんですよ!」


 怖がるサラに向かってそう声をかけるラビ。「厄災の炎竜フレイム・オブ・トラジディ」の異名を持つ世界最強のドラゴンを気安く「友達」と呼べる奴なんて、多分世界中を探してもラビの他に居ないだろう。実際にラビからそう言われたサラも、信じられないと言いたげな顔でポカンと呆けてしまっていた。


 一方でグレンの方は、ラビに「お利口さん」と言われて少し照れたのか、恥ずかしそうに頬を赤らめて俯いていた。……おそらく、ここまで気弱で神経質なドラゴンも、世界中でコイツしか居ないだろう。


「――では、これより反撃作戦を開始します! 師匠っ!」

『心配すんな。ちゃんとここにいるよ』


 俺はラビの首にかかるフラジウム結晶のペンダントに意志転移して、声を上げる。


 もうすぐ、俺たちの位置を特定した無敵艦隊アルマーダがここへ転移して来るはずだ。


 奴らは言わば、俺たち手負いのウサギを殺すために血の跡を辿り追いかけてくる狐の群れのようなもの。奴らは血に飢えていて、とにかくウサギを狩ることに執念を燃やす連中だ。


 ――だが、狩りに没頭してしまうあまり、奴らは気付いていない。ウサギを追ってやってきた先に、巨大な狐取りの罠が仕掛けられていることに……


「それでは師匠、気を取り直して二回戦目といきましょうか!」

『了解だ。一回戦目は押すに押されて、一時はどうなるかとも思ったが、奴ら案外あっさり()()()()()()()()()よな』

「はい……正直、こんな簡単に事が運んじゃって良いのかなって、逆に不安になってしまったくらいで……」

無敵艦隊アルマーダか何だか知らねぇが、王国諸侯のライルランドって奴も、指揮官のヴィクターって野郎も、定見のないアホみたいだな』


 俺はライルランドとヴィクターのことを散々罵ってやった。ここまで奴らをおびき寄せるのは大分骨が折れたが、結果良ければすべて良し。さっき俺に嫌ほど砲弾をぶち込んでボコボコにし、ラビに怪我を負わせた罪は重い。この仕返しはきっちり付けさせてもらうとしよう。


 すると早速、前方の空に無数の転移魔方陣が浮かび上がり、五百隻を超える巨大戦艦が、魔方陣の中から次々と姿を現し始めた。


「来ました師匠!」

『ああ見えてるよ。こっちも準備OKだ。俺たちを散々弄んだクソ野郎どもに、一泡吹かせてやろうぜ。なぁラビ!』

「はい! 奴らを叩きのめしてやりましょう、師匠っ!」

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