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第153話 防壁が破られた!

 ラビの号令が砲列甲板ガンデッキに届くと、乗組員たちは大砲に装薬し、巨大な目玉――エルフの開発した特性の追尾弾を砲口へ押し込んだ。


「追尾弾、装填完了! 全砲射撃準備よ――し!」

「撃てっ!!」


 ラビの合図と共に砲声がとどろく。狭い砲身から解き放たれ自由になった目玉は、その巨大な瞳に敵船影を捕らえると、一目散に敵影を追って大きな曲線を描き、寸分の違いもなく船体を撃ち抜いた。


 ズドドドドドドドドドドドドッ!!


 俺の左右に居た敵艦だけでなく、上方や下方の死角に居た艦までもが追尾弾の餌食となり、船体を貫通した追尾弾は、そのまま船内をかき乱すように暴れ回って、中に居た乗組員たちを余すことなく蹂躙じゅうりんしていった。


 追尾弾が敵艦隊をかく乱してくれたおかげで、それまで連携の取れていた隊列が崩れた。その隙を見計らい、俺は船のスピードを上げて敵艦隊の築いていた螺旋らせんの檻から抜け出すことに成功する。かなりの荒業だったが、ラビたちは平気だっただろうか?


『みんな、無事か?』

「わ、私は大丈夫です……」

「うわ~、今のは流石にヤバかったぁ……」

「私なら心配いりません、ご主人様」


 皆から元気な返事が返ってきて、俺はホッと胸を撫で下ろす。


『ラビ、防壁シールドがもう限界だ。魔力もこれ以上消費すると、逃げる分の力が尽きてしまう。ここから先は逃げることに専念した方が良さそうだ』


 俺はそうラビに提案する。どのみち、これ以上魔力を消費して敵と交戦したところで、相手は五百を超える大艦隊だ。消耗戦では勝ち目がない。


「……分かりました。総員攻撃中止! 手の空いた者はマストに上って破れた帆の修繕を――」


 先ほどの戦闘で破損した個所を修復しようと、ラビが指示を出しかけていた時――


 ガチャッ……


 突然、後甲板アフターデッキの後ろにある船長室の扉が開き、中から眠そうな目をしたサラ・アルハが顔を出した。


「むにゃ……さっきの音は何ぃ? 私、どうしたのかしら……」


 寝ぼけたように眼を擦りながら言葉を漏らすサラを見て、ニーナが慌てて彼女に駆け寄った。


「サラ! 意識戻ったの!? マジで心配してたんだよ!」

「うぅん……ニーナぁ? どうしてここに…… それに、この騒ぎは何なの?」


 そう言って、忙しい甲板上を見渡すサラ。純白のウエディングドレスを着たままの彼女は、どうして自分が船に乗せられているのか状況をよく理解できていない様子。催眠を駆けられている間の記憶は無いようだが、外から響いて来る激しい砲声や乗組員たちの怒号が影響して、彼女にかかっていた催眠が解けたのかもしれない。その証拠に、それまで虚ろで曇っていた彼女の瞳にも、光が戻っていた。


「サラさん、目が覚めたんですね! 良かったです。事情は後でお話しますので、今は部屋に戻って――」


 そこまで言いかけたラビは、ふと開いた扉の奥から垣間見えた船長室の窓を見て、ハッと息を呑む。


 窓の外に映っていたのは、怪物とも見紛うほどの、巨大な()()()……


 ……いや、それは影と見紛うほどの漆黒を身にまとった、一隻の巨艦だった。


「――っ!!」


 漆黒の船影から、パパパッと閃光が瞬いた。ラビはとっさにサラの腕をつかむと、扉から離れるように飛び退く。


「危ないっ‼︎」


 刹那、ガシャ―――ン! と音を立てて船長室の窓ガラスが粉々に砕け散り、黒い球体のようなものが部屋の床にゴロンと転がり込んできた。


 ……これは、砲弾か? ――いや、違う!


 床に落ちた黒い球体に、火花を散らす導火線が見えた途端、ラビは反射的にサラの上に覆いかぶさるように床へ押し倒した。


「みんな伏せてっ!!」


 その場に居た全員が伏せた次の瞬間、ズドン! と黒い球が爆発を起こし、扉を含めた船長室の部屋の仕切りや船尾楼甲板プープデッキに続く両サイドの階段が木っ端微塵に吹き飛んだ。甲板の上には破片が散らばり、爆風に煽られて後甲板アフターデッキに居た乗組員数名が下の砲列甲板ガンデッキに転落した。


【≪警告!≫≪警告!≫ 船尾防壁:消失 ≪警告!≫≪警告!≫】


『くそっ、船尾の防壁シールドが破られた! おいみんな、大丈夫かっ⁉︎』


 俺は、白煙に包まれて見えなくなった仲間たちに呼びかけた。


「げっほ、げほ……と、とりま私は大丈夫そう……」

「っ………私も平気です。ですが、お嬢様は?」


 二人とも爆風にやられたらしく、煤に塗れた体でフラフラと立ち上がると、辺りにラビの姿を探した。


 その時――


「いやぁああああああああっ‼︎」


 突然白煙の中からサラの悲鳴が上がった。


 振り返ると、そこには床に倒れ込む二人の影が。


「そんな……わ、私をかばってくれたの……」


 力尽きたように床に座り込んだサラが、震えた声を上げる。


 彼女の膝の上には、爆発の際に飛んできた破片を背中に受け止め、血塗れになったラビが横たわっていた。

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