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第148話 逃走劇の始まり

「船長たちが獲物を連れて戻られましたっ!」


 クルーエル・ラビ号の船上にメリヘナの声が響くと、乗組員たちが歓声と共にラビたちを迎えてくれた。


 しかし、おちおち喜んではいられない。船に戻った俺たちは、すぐに出港準備に取り掛かる。なにせここは、敵本拠地のど真ん中なのだ。


「総員展帆! 魔導エンジン始動!」


 途端に甲板が騒がしくなる。乗組員たちは我先にとマストに上り、帆を固定していた縄を解いて一気に風を入れた。


 魔素マナを含んだ風を帆一杯に受けて、俺は前進する。


「これより、『神隠しランプ』を使った隠密航行に入ります! 師匠、この船にある使える魔力全てを神隠しランプに注ぎ込んで、少しでも長く船を周囲から見えないようにしてください。船の操縦は私たちが行います!」

『よし、分かった!』


 俺はすぐに意志転移スキルを使って船本体に意識を戻すと、神隠しランプを起動させた。


 途端に、船の周囲に透明結界が張り巡らされ、俺の船体は周りから完全に見えなくなってしまう。


 王都に侵入する際も、エルフの開発したマジックアイテムであるこのランプが大いに役立ってくれた。おかげで俺たちは、何の不自由も無く王都上空へ侵入し、警戒厳重なマイセンラート城の警備網をも突破して、花嫁救出作戦を決行することができたのである。


 俺の飛んでいるすぐ真下では、海賊に侵入された通報を受けた王国兵士たちが、逃げた侵入者を探して城内を駆け回っていた。すぐ頭上を犯人が通り過ぎているというのに、奴らは透明になった俺たちに気付きもしない。まさに「灯台下暗し」とはこのことだ。


(知らないうちにまんまと逃げられて、あいつらもさぞかし驚くだろうなぁ…… まぁ、せいぜいそうやって見つかることのない侵入者を延々と探し続けていればいいさ)


 俺は心の中でそう毒づきながら、混乱するマイセンラート城を後にして王都を脱出し、風に乗って大空の中へ姿を消したのだった。



「……ここまで来れば大丈夫そうですね。王国軍は追って来ていますか?」


 王都を離れ、透明結界を張った隠密航行を続けること、約一時間――


 後甲板アフターデッキで舵を取っていたラビが、船尾楼甲板プープデッキで後方の様子を望遠鏡で確認していたポーラに、追手が来ていないかどうか尋ねた。


「いいえ、目視できませんお嬢様。王都のある大陸も、もうほとんど雲に隠れて見えなくなりました」

「もうそろそろ、透明魔術結界も解いて良いんじゃない? オジサンもかなりキツそうだし?」


 そう言ってくるニーナに対し、『別に無理してなんかないさ』と俺は強がってみせたのだが、実際にはかなり参っていた。


 なにしろ神隠しランプの放つ透明結界魔法は繊細で、少しでも魔力が不安定になれば、途端に効力が薄れてしまう。

 だから、俺は透明結界が途切れないよう、魔力量を調節するのにもうかれこれ一時間も神経を使い続けていた。もうそろそろ限界かもしれない……


「師匠、無理はしないでください。一度透明結界を解きましょう。追跡してくる王国軍を迎え撃つためにも、消費した魔力の回復に努めてください」

『……分かった、すまない』


 ラビの指示で神隠しランプの火が消され、俺の船体を覆っていた透明結界が消える。これでようやく俺の肩の荷が降りて、俺はホッと胸を撫で下ろした。


 ――すると、船尾楼甲板プープデッキで見張りに就いていたポーラがラビのところまでやって来て、監視状況を報告する。


「……お嬢様、今のところ船の周囲に追手の気配は見受けられません。ここまで透明結界を張って逃げて来たので、敵側に見つかってはいないと思うのですが……」


 しかし、そうは言うものの、ポーラの表情はどこか冴えない。


「……何か気になることでもあるの?」

「どうも腑に落ちないところがあります。ライルランドが警告していた言葉にも合った通り、あれほど我々海賊を捕らえることに執着していた王国の連中が、こんな簡単に追跡を諦めるとは思えないのです。王都へ侵入する際も思ったのですが、あれほど城の警備が厳重であるにもかかわらず、空の警備は手薄のように感じました」


 ポーラの意見に、ラビも「言われてみれば、確かにそうね……」と、侵入した際の当時を振り返るように考え込む。


「お嬢様もご覧になって分かったと思いますが、普段から王都上空には常に何隻ものパトロール船が徘徊していました。ですが、今日に限ってパトロール船どころか小型の警備艇までゼロ。王子の結婚式という一大イベントであるというのに、警備の船が一隻も出ていないなんて、普通は有り得ません」

「……では、どうして彼らは船を出さなかったのでしょうか?」

「おそらくは、全ての艦船を一箇所に集めて、戦力を温存するのが目的だったのかもしれませんが……」


 そこまで推測を述べたところで、ポーラはハッと息を吞む。


「……もしかすると、奴らは私たちがこの日に襲撃することを予め把握していたのかも」


 「えっ?」と驚くラビに、「私の杞憂だと良いのですが……」と、ポーラは遠くの方を眺めながら独り言のように呟いていた。


「ねぇラビっち!」


 するとその時、ラビたちの居る後甲板アフターデッキの背後にある船長室の扉が勢い良く開き、ニーナの声が響いた。


「ちょっとこっち来て! サラの様子が、おかしいんだ!―――」

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