第138話 攻撃こそ最大の防御
「では、まずはこれから紹介するとしようか」
最初に、ラディクは物置と化した部屋の隅にかけられていた、埃をかぶった帆布を取り払う。
そこには、人間の身長ほどある巨大な円筒形の金属が大小含め四十本、綺麗に並べて置かれていた。銀色に輝くその金属の表面には細かな彫刻が施されており、かなりの高級感が漂っている。
「これは……大砲の砲身?」
「そう。普通の大砲は鉄か鉛が使われることがほとんどだが、これはランダルとストロニウムの合金製で、頑丈さでは他の大砲より群を抜く。ゆえにどんな強力な砲弾でも装填、発射することが可能だ。しかも砲身表面には加速強化の術式が刻まれていて、弾の発射速度を極限まで高めてくれる。射程距離も通常のガロン砲の二倍。小さい方が十八、大きい方は二十四ライルの口径を備えているから、通常の砲弾でも十分な火力を発揮できるだろう」
そう豪語するラディクだが、彼の話はまだ終わらない。
「――しかし、それだとこの大砲の本領は発揮できない。強力な大砲には強力な砲弾が必要だ。そこで、隣に積まれている砲弾を見たまえ」
ラディクに言われて、ラビたちは砲身の隣に積まれているグレープフルーツほどの大きさがある丸い球体に目を移す。パッと見た感じ、何の変哲もない普通の砲弾に見えるのだが……
しかしよく見ると、その砲弾はボーリング玉のようにツルツルしていて、球体の中心で微かにゆらゆらと青色の光が揺らめいていた。
「それは我々エルフ特製の爆裂弾だよ。砲弾内部に爆破魔術を付与された魔法石が組み込まれていてね。標的に命中した瞬間にドカン! たった一発で砲三十〜四十門搭載のフリゲート艦でもイチコロさ」
その言葉を聞いたニーナが、砲弾に触れようとした手を慌てて引っ込めた。
……いや、一撃必殺できるほど強力な榴弾とか、装備したら艦隊戦でもほぼ無双できるんじゃないか? 威力チート級な兵器を前にして、開いた口が塞がらない俺たち。
すると、部屋の周囲を見て回っていたラビが、あるものを見つける。
「あれ? こっちに置かれた砲弾は、さっきのとはまた少し見た目が違うような……」
好奇心に釣られて砲弾に触れようとした、次の瞬間――
突然、積まれた数十発ある砲弾の表面が全てパックリと縦に開いて、そこから真っ赤に光る巨大な目玉がギョロリと覗き、一斉にラビの方を凝視したのである。
「きゃああっ! この砲弾、生きてる⁉︎」
ラビが驚きの声を上げるが、ラディクは「まぁ落ち着きたまえ」と彼女を制する。
「これは追跡魔法を付与した追尾弾だよ。その大きな目玉が逃げる敵を見つけて追跡し、必ず標的に命中させることができる。百発百中の優れものさ」
「大砲で撃たない限りは追いかけて来ないから、安心してくれたまえ」とラディクは言うものの、ラビはすっかり顔を青くして言葉を失ってしまっていた。さすがの俺も、あんな大量の目玉から睨まれると怖くて鳥肌が立つ。まったく気持ち悪いマジックアイテムもあったものである。
「ですが、これだけ高性能な兵器を開発しておいて、なぜ実用化されなかったのですか?」
ポーラがそう疑問を口にすると、ラディクは肩をすくめながら答えた。
「元々これらは、ウッドロット上空に浮かぶ機雷を爆破除去するために開発されたものなんだよ。けれど、機雷を破壊する行為は王国と結んだ条約違反に当たると里長から猛反発されてね。それで即お蔵入り。今では埃を被るただのガラクタになってしまった」
悲しい表情をするラディクだが、「けれど、実際は使われない方が正解だったのかもしれない」と言葉を続ける。
「こんな物騒な兵器が世界中で出回った暁には、再び世界が戦争時代に突き進んでいくのは目に見えているからね」
世界を再び戦禍に巻き込むほどの力を持つ高性能な魔術兵器たち。……なるほど、エルフたちがこれらを厳重に保管して開けることを禁じるパンドラの箱扱いするのも納得だ。
「でも、王国軍がウッドロットへ侵攻した時に、このマジックアイテムたちは見つからなかったんですか? あらゆるものを略奪されたと聞いていたのですが……」
ラビがラディクに尋ねる。確かに、これほどの高性能な兵器を王国の奴らが欲しがらないはずがない。
「それが幸いにも、この場所だけは王国兵士たちも気付けなかったみたいでね。私たちの家の納屋は捜索していたみたいだけれど、床下にある秘密の扉には誰も目を留めなかったようだ。だから今君たちに見せているものは全て、エルフ以外誰も手を付けたことのないレアものばかりだよ」
ごくり……とラビが固唾を飲む音が聞こえる。
「ほ、他には何があるんですか?」
ラビの問いかけに、ラディクはニヤリと微笑みながら答えた。
「攻撃とくれば、次は防御だ。完全とまでは言えないが、使えそうなものがある。付いて来たまえ」
数々のマジックアイテムを生み出してきた天才発明家が、次の発明品を俺たちに見せようと、着ている白衣をひるがえして歩き始める。彼の目には狂気とも取れる情熱の光が宿っていて、俺は正直、この男がなぜこれほどマジックアイテムの開発に魅せられているのか、よく理解できなかった。ニーナの父親は、優しくて温厚な性格をしておきながら、中身はかなりのマッドサイエンティストらしい。
しかし、様々なマジックアイテムを紹介してもらう様子を側から見ていて、まるでアクション映画でよく見る武器調達のシーンを再現しているように思えて、俺は内心とてもワクワクしていた。次はどんなチート級アイテムと出会えるのだろうか? 俺は数々のマジックアイテムが自分の船体に装備されるところを想像しながら、胸を高鳴らせていた。