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第137話 無敵艦隊を倒すために

 ウッドロットのエルフたちと共同戦線協定を結んだ日の夜。俺たちはエレノア家のリビングに全員集合して、ニーナの幼なじみであるサラの救出方法を含め、ウッドロットを王国の支配から救うべく作戦会議を開いていた。


 ……とは言っても、リビングの周りではエレノアの子どもたちがワイワイキャッキャ楽しく遊んでいて、とても作戦会議と言えるほどの厳かな雰囲気は皆無だったのだが……


「里長を上手く説得して海賊とエルフが手を組めたのは良いものの、敵対する王国の無敵艦隊アルマーダは三百を超える大艦隊です。例え私たちが全員束になってかかっても、勝算は限りなく低いでしょう。そこで、いかに少ない戦力で敵を圧倒するかが鍵になってくるのですが、……」

「ところがどっこい、実を言うと最初から作戦なんてな〜んにも考えてなかったんだよねー」


 皆が座るテーブルの前でそう話すラビの言葉に続けて、ニーナが頭の後ろに腕を組み、椅子を前後に揺らしながら呆れたようにそう言った。


「ま、ロクに作戦立てずに突っ走っていくのは私たちにとって毎度のことなんだけどさ〜」

「でも今回ばかりは、ただ闇雲に突き進むだけでどうにかなる問題ではありません。しっかり作戦を練って、準備もしっかり整えてから望まないと……」


 そう意気込むラビだったが、現時点で戦力になるのは俺の本体である海賊船クルーエル・ラビ号と、エレノア率いるウッドロット防空隊の竜騎士ドラゴンライダーのみ。ルルの港町に停泊中のニーナの持ち船であるカムチャッカ・インフェルノ号も呼べば、多少戦力は増えるかもしれないが、ここへ呼び寄せるための手段が無い。一度ルルの港町に引き返して仲間を集うこともできるが、それだと時間が無い。


 里長ロムルスによれば、今からあと一週間後に、サラと第一王子ラングレート・バルデ・マイセンとの結婚式が王都アステベルのマイセンラート城で開かれるという。たった一週間だけでは、ルルの港町へ戻ることも叶わない。


「つまり、今ある戦力だけでどうにかしろ。ということですか。エルフたちの協力を得られたとはいえ、状況は最悪ですね」

「私たちだけで無敵艦隊を相手するとか里長を前に大口叩いといて悪いんだけどさ、これマジ無理ゲーじゃん?」


 ポーラやニーナが口々に意見する中、ラビは首を横に張って立ち上がる。


「まだ無理と決まった訳じゃないです。まずは師匠――クルーエル・ラビ号の武装を強化するところから始めましょう。ラディクさん、あなたはウッドロットのマジックアイテム開発責任者であると聞きました。ラディクさんが過去に開発したマジックアイテムを、見せていただけませんか?」


 ラビはニーナの父親であるラディクを呼んで尋ねる。すると彼は、眼鏡越しのまなこをキラリと鋭く光らせ、ラビの方を見た。


「それはひょっとして、この戦いに私の力が必要だと伝える前振りなのかな?」

「はい。王国軍に立ち向かうためにも、ラディクさんたちエルフの技術で開発したマジックアイテムが必要です」


 そう言われたラディクは、「待っていました!」とばかりにかけている眼鏡のブリッジを指でクイッ押さえながら立ち上がった。


「よろしい! では私の発明した素晴らしいマジックアイテムの数々をご覧に入れよう! 来たまえ、諸君!」


 着ている白衣を翻し、堂々と胸を張って歩いてゆくラディク。そんな彼の後ろ姿を見て、妻であるエレノアが呆れたようにぶつくさ呟いていた。


「まったくあの人ったら、マジックアイテムの話になった途端にあの調子。まるで子どもね。結婚してからもう随分になるけど、ああいうオタクの考えることは未だによく分からないわ」

「ホントそれな。パパのマジックアイテム愛マジ半端ないよね〜。正直ちょっと引くわぁ……」


 研究者として仕事熱心な父親を、少し離れたところから冷めた目で見つめる妻と娘。なかなか家族から認めてもらえない哀れな父親に対して少し理不尽な感情を抱きつつも、俺たちはラディクと共にマジックアイテムの研究室へと向かったのだった。



「――さて、ここが私の研究室だ。少々散らかっているが、まぁ気にしないでくれたまえ」


 ラディクのマジックアイテム研究室は、ニーナ一家の住む家の裏にぽつりと建てられた物置小屋の地下深くにあった。床下に隠された地下へと続く秘密の階段を降りた先、頑丈な鉄製の扉を開けて中に入ると、周囲は暗闇に包まれる。


「さぁ、とくとご覧あれ!」


 ラディクの声と共に部屋の中に魔法の灯りが灯され、辺りがパッと明るくなった。


 オフィスビル数フロア分ほどはあるだだっ広い研究室の中には、まるで図書館のように何列にも渡って長い棚が並んでおり、棚の中には数多くの名も知れぬガラクタたちが隙間なくズラリと陳列されていた。


「すごい……これが全部、マジックアイテムなんですか⁉︎」


 驚いて目を丸くしているラビの隣で、ラディクは目を輝かせながら、「そう、私がこれまで生涯をかけて作ってきた可愛い子どもたちだよ!」と興奮気味に声を上げる。


「……なんだか、部屋の中が凄く埃っぽいですね。棚に置かれたマジックアイテムも全て埃をかぶっていて、最近使われた形跡がありませんが?」


 ラビの後ろから付いて来ていたポーラが、口に手を当て咳き込みながらラディクに尋ねる。


「私たちエルフのマジックアイテム開発に関する技術は、どの種族よりも圧倒的に優れていて、その技術力は何世代も凌駕するほど時代を先取りしているんだ。しかし、そんな先進技術の塊であるマジックアイテムがこの世に出回ってしまうとどうなるか? 分かるかな?」


 ラディクの問いかけに対し、ポーラは少し考え込んだ後に答える。


「それは……それほど時代の進んだ最先端技術が世界に広がれば、それまで近郊の保たれていた世界のパワーバランスが崩壊して、マジックアイテムを巡る新たな国家間の戦争を引き起こしかねない」


 ポーラの答えに「その通り! 君はとても冴えているね」とラディクは彼女を褒めた。


「だから、どれだけ新しいマジックアイテムを開発したところで、それを外の世界へ持ち出すことは愚か、このエルフの里ウッドロットの中でも使用が厳しく禁じられているんだ。だからこうして、倉庫の中で厳重に保管しておくしか手が無かったのだよ。悲しい話だけれどね」


 そう言って肩を落とすラディク。大樹ユグドラシルからの恩恵である豊富な魔力のおかげでマジックアイテムの研究が進みすぎた結果、そのアイテムの持つ計り知れない力を恐れられ、誰にも使われることなく封印されてしまった訳ありの魔法器具たち。……ということはすなわち、ここにあるアイテムはどれも世界一強力なチートアイテムになるのではないか?


 これで俺もラノベみたいに世界最強な主人公を演じられるんじゃないか? などと思っていた矢先――


「……とはいえ、ここにある八割が全て失敗作で、ほぼ使い物にはならないのだがね」


 そう言ってアハハ……と力無く笑うラディク。いや使えないのかよ! 少し前まで膨らませていた俺の期待を返せ! このエセ発明家!


「いや、使えなっ! ただのゴミ置き場じゃん!」


 ニーナからもキレのあるツッコミを返されてしまい、「ご、ゴミは言い過ぎじゃないかな……」と肩を落とすラディク。


 しかし、これだけ大量にあれば、どれか一つくらいまだ使えそうなものもあるのではないかと思うのだが……


「何か、船の強化に使えそうなアイテムはないですか? 単に船の攻撃力を強化するだけじゃなくて、防御を強化したり、性能を向上させるようなマジックアイテムとか」


 ラビの要望を聞いたラディクは、「ふむ……ああ、それならとっておきのものがあるよ」と言って、「とっておき」の置いてある場所へと俺たちを案内してゆく。

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