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第134話 エルフとの共同戦線協定

 かつて、サラと約束を交わした時のことを思い返していたニーナは、友人を救いたい強い思いを胸に、顔を上げて登壇している里長ロムルスと向かい合った。


「さ、どうする里長様? このまま機雷原マインフィールドの檻に閉じ込められたまま、国王の言うがままにされるか。それとも、私たちと手を組んで民を自由にし、アンタの娘を救い出すか。二つに一つだよ」


 ニーナに迫られ、ロムルスは眉間にしわを寄せて考え込むように項垂れていたが――


「……駄目だ、あまりにも無謀過ぎる。王国は先の三大陸間戦争トライアングル・ウォー以来、軍事力を増強し続けて、今では三百を超える軍艦を備えているという噂だ。それだけの大艦隊に対して、お前たち海賊がたった一隻だけで立ち向かうというのか? 無茶苦茶な話だ。それでは戦う前から結末は見えているではないか!」


 ロムルスは、あくまで俺たち海賊との共闘に反対する立場を崩さないつもりのようだ。


 ……しかし、実際にロムルスの言うことも正しかった。相手は三百の艦隊であるのに対して、こちらの戦力は俺一隻だけ。確かにこれではあまりに多勢に無勢過ぎる。こんな時、異世界転生者の特権であるチート能力があれば、何百何千の敵を相手にしても一発逆転を狙えるのかもしれないが……あいにく、俺にそんな便利な力は備わっていない。


「ねぇロムルス、ここは一つ、この子たちの提案に乗ってあげたらどうなの?」


 するとその時、エレノアが前へ歩み出てロムルスにそう進言した。


「どうせ今の状況が続いたって、アタシたちはいずれ王国に滅ぼされるわ。いつ落ちてくるかも分からない機雷を頭の上に吊り下げられて、子どもたちはみんな怯えて夜寝られもしないんだよ。この状況を少しでも変えられるのなら、アタシは娘に賭ける方を選ぶわ」

「しかし、もしそれで国王の怒りを買い、エルフの民が虐殺されるようなことでもあれば――」


 ロムルスが反論したが、エレノアは被せるようにして言葉を続けた。


「大体ね、考えてもみなさいよ。アタシたちエルフの歴史は王国よりもはるかに長いのよ。アタシたちはユグドラシルから得られる豊富な魔力を使って、これまで様々なマジックアイテムを作り続けてきた。単純に魔法技術だけで見れば、王国なんて足元にも及ばないわ。だからこそ、これまで私たちが千年以上に渡って培い続けてきた魔法技術の叡智の結晶を、この子たちに預けてみたらどうかしら?」

「……まさか、我々の作り出したマジックアイテムを奴らに託そうというのか? 奴らは海賊だぞ。強力なマジックアイテムを渡したところで、何をされるか分からん」


「はぁ……どうやら、とことん信用されてないみたいですね、私たち」と、傍で話の成り行きを見守っていたポーラが、呆れたように溜め息を吐く。


 しかし、どれだけ反論されようとも、エレノアは一歩も引かなかった。


「まぁ、さすがに千年も他種族と交流していなければ、自分たちエルフ以外は全員信用しないなんて考え方にすがってしまうのも分かるわよ。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 私たちエルフ族の存亡がかかっているのよ! こうなればもう海賊でも悪魔でもなんでもいいわ。仲間になれる相手とは積極的に手を組んで、皆で一緒にこの危機を乗り越える方法を考えるべきよ⁉ 違うかしら?」


 評議会の傍観席にいるエルフたちに向かってエレノアが声を上げると、会場は沈黙に包まれた。これまで、何か意見する度に周りから批判の雨を浴びていた俺たちだったが、今回ばかりはド正論を突き付けられ、誰も何も言い返せないようだった。


 そこへさらに、娘のニーナが追撃を仕掛ける。


「里長様もさぁ、いつも私たちに『エルフが世界で最も優位な種族なのだ!』とか『自分たちがエルフであることに誇りを持て!』とか口癖のように言っておきながら、どうしてそこまで王国にびちゃうのかな? 多くの仲間を殺されて、大事な娘まで取られたんだよ? そこまでされて悔しくないの?」

「それはもちろん! そうだが……」

「なら、これが奴らに反撃できる最後のチャンスかもしれない、娘を取り返す最後のチャンスかもしれないよ……アンタ、愛娘であるサラにもう一度会いたくないの?」

「会いたい……会いたいとも! 過去に何度そう願ったことか! 愛しいサラに会えるなら何だってやる!」

「なら、私たちに協力することもできる――はずだよね?」

「ぐっ………ええい、分かっておる……分かっておるわっ!」


 上手く言い包められてしまったロムルスは、とうとう感情的に演壇を手で打って立ち上がった。しかし彼は何を思ったのか、ニーナとエレノアの方を見やると、落胆するように大きな溜め息を吐いて肩を落とし、顔に悲しい表情をにじませて弱々しくこう言ったのである。


「……分かった、私の負けだ。認めよう。王国による介入を受けたせいで、もはや我々評議会の力だけではどうにもならんのだ。エレノアの言う通り、このままではいずれ我々エルフは何もできないまま、自滅の道を歩んでしまうだろう。……どちらにせよ最悪の結末が待っているのなら、少しでも今の現状を打開できる可能性のある方を選択した方が賢明なのかもしれん」


 がくりと項垂れるロムルス。長い討論の中、自分たちがどれだけ追い詰められているのか現実を突きつけられた彼は、ようやく俺たちと手を組まなければこの状況を打開できないと悟ったようだ。


「はぁ、里長様もようやく素直になれたみたいだね、ママ」とニーナが母親に向かって言うと、「まったく、頑固なジジイを改心させるのも一苦労だよ」とエレノアは溜め息を吐きながらそう返した。


 ――こうして、俺たちラビリスタ海賊団は、ウッドロットにいるエルフたちとの共同戦線協定を結ぶことに成功したのだった。

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