第123話 アンタたちまでここに来たの⁉
それから、エルフ防空騎士団一行は機雷原を潜り抜けてクルーエル・ラビ号へと飛び、乗組員のエルフたちを乗せて再びウッドロットへと戻ってきた。
しかも連れて来たヤツらの中には、なぜかしれっと近衛メイド隊長のポーラや、白黒頭のクロムまで混じっていた。
「ちょ、ポーラ! クロム! アンタたちまでここに来たの⁉」
驚くニーナを前に、ポーラは連れて来てくれた騎士団員のドラゴンから降りると、シワになったメイド服のエプロンを叩いて直しながら答えた。
「はい、やはりラビリスタお嬢様を一人にしておくのは危険だと判断しましたので。船の指揮は副メイド長であるメリヘナと他のメイド隊員たちに任せて、私だけここへ来ました。この様子だと、ウッドロットでの滞在許可は無事に下りたようですね。良かったです。ニーナだけに任せてどうなることかと心配していましたが……」
ポーラはそう言って、訝しげな目でニーナを見やる。彼女の話によれば、クルーエル・ラビ号へやって来た騎士団エルフたちは、ポーラたちエルフでない乗組員も快く乗せてくれたという。
――これは後で分かったことなのだが、エルフ以外でもここへ来たい者がいれば断らずに連れて来るよう、エレノアが予め竜騎士たちに言い付けていたらしい。騎士団長である幼女ママが、人種を問わず誰でも歓迎してくれる器の広い人で本当に良かったと、俺はつくづく思った。
一方で、来た理由を問いただすと、「面白そうだから付いて来ただけ」と中身のない言い訳をしたクロムの方はというと……
「見て見て! お魚さんに脚が生えて歩いてるー‼︎」
「すげ〜〜! どうして白と黒で色が違うの?」
「体ツルツルしてるー! ほら、尻尾まであるよ!」
これがまた、ウッドロットの子どもたちは皆魚人族を見るのは初めてのようで、ニーナに負けず劣らずな大人気ぶりだった。エレノアの養子だけでなく、近所のガキどもまで加わって、瞬く間にクロムの周りに子どもたちの大きな輪が出来上がる。
「あはははっ! やめて、くすぐったい! お前らみんな、クロムに食われたいの? 誰から食ってやろうかな〜?」
「がお〜〜!」と声を上げて鋭い歯の並ぶ口をガバッと開いて見せると、子どもたちは面白がってキャアキャア叫びながら逃げ回り、その後をクロムが追いかけた。側から見ている分には、子どもたちと楽しく追いかけっこしているようにしか見えないのだが、あいつが本気で子どもたちにかじり付いてしまわないか心配で、片時も目が離せない。子ども相手にそんなことはしないとは思うのだが、アイツならやりかねない。
『おいポーラ、悪いがクロムのことを見てやってくれないか? もしアイツが子どもたちを食いそうになったりしたら、お前の持ってる銃で数発かましてやれ。アイツの皮膚は頑丈だから、銃弾受けたくらいで死にやしない』
「……私はラビリスタお嬢様のためにわざわざここへ来たのですよ。なのに、あんな能ナシな魚野郎の面倒を見ろというのですか?」
いや、能ナシ魚野郎って……彼女の辛辣な物言いにあきれていると……
「ニーナさん、クロムさんだってウルツィアの港町で、私たちのために頑張ってくれた仲間なんです。そんな彼女を悪く言うなんて、めっ! ですからね」
そうラビから注意されたポーラは、少し驚いた顔をして、それから少し気恥ずかしそうに頰を赤くしながら頭を下げた。
「申し訳ありません。お嬢様の前での失言をお許しください」
「分かれば良いのです」
そう言ってニコッと笑うラビ。そのやり取りが、なんだかいかにもお嬢様とお付きのメイドという感じがして、俺は微笑ましく思った。「お嬢様に怒られてやんの~。ウケるんだけどwww」と隣でクスクス笑っていたニーナの脛を、ポーラが思いきり蹴飛ばしていた。