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第119話 されど海賊は竜と踊る

「……ボクは嫌だよ」


 ラビの指にはめている召喚指輪サモンリングから返ってきたのは、そんな情けない一言だった。


「グレンちゃんお願い。機雷原マインフィールドを突破するのに、師匠の体だと大き過ぎるの。でもグレンちゃんなら、きっとあの中を通り抜けられるはず」

「でも……いつ爆発するかも分からない爆弾の中を進んでいくなんて、ボクにはとてもできないよ。もし爆発して驚いた拍子ひょうしに背中に乗せたラビちゃんを落としちゃったら、どうするのさ?」

「そ、それは………」


 どうやらグレンは、自分のことよりラビのことを心配するあまり、機雷原の中に突っ込んでゆく勇気が出ないようだ。グレン自身は物理攻撃を無効化できる鎧に身を包んでいるから大丈夫なものの、背中に乗るラビを巻き込んでしまう可能性の方が大きい。そう考えると、グレンの言うことも一理あった。


「じゃ、私のクリーパーちゃんに乗ってく?」


 そう言って自分のドラゴンを指差すニーナ。


「相乗りでも大丈夫なんですか?」

「二、三人くらいなら余裕で乗せられるからヘーキヘーキ。むしろ大歓迎! おいでラビっち~」


 ドラゴンの背中の上でニヤニヤしながら手招きするニーナに如何いかがわしさを感じながらも、俺はラビの首から下げたフラジウム小結晶に転移して同行することにした。


「私もお供いたします、お嬢様」


 するとそこへ、メイド長のポーラも同行を申し出たのだが――


「アンタは無理。クリーパーちゃんの背中にもう空き無いから」

「なっ……! さっきは『二、三人なら乗れる』と言っていたではないですか!」

「ざーんねん。ラビちゃんが乗った時点でクリーパーちゃんの背中は満席になっちゃいました~。またのお越しをお待ちしてま~す」


 ベーッと舌を出してみせるニーナに、憤りを隠せないポーラ。この二人はいつもこんな感じでいがみ合ってばかり。少しは協力することを覚えてほしいのだが……


「ポーラさん、私なら大丈夫です。あの機雷原マインフィールドを抜けるのに、あまり多く人を乗せてしまうとかえって危険かもしれません。最初に私たちが島に上陸して、エルフ達に私たちが怪しい者でないことを伝え、滞在する許可をもらって来ます。それまで待っててください」


 けれどもラビが説得して「お嬢様がそう仰るのなら……」と、ポーラは渋々(しぶしぶ)食い下がった。ニーナは「してやったり!」とでも言うようにニヤリ笑みを浮かべ、それからドラゴンに付けた手綱を引いて声を上げた。


「じゃ、行くよ! ラビっち!」

「はい! お願いします!」


 ニーナとラビ、そして俺を乗せたクリーパードラゴンは、乗り手の命令に応えるように咆哮ほうこうを一つ上げて船から離れると、大きく旋回してから機雷原マインフィールドの方へ向かって飛んだ。



「さてさて、ここからは竜騎士ドラゴンライダーの腕の見せどころ! 機雷に当たらないことを祈ってて、ラビっち!」


 前方に迫る機雷原マインフィールドを前に意気込むニーナ。そんな彼女に向かって、ラビがおずおずと問いかける。


「あ、あの、ニーナさんは前にもここを突破したことはあるんですか?」

「最後にここを抜けたのは二年前くらいかな~? もうかなり前だから、潜り抜けるコツを忘れたかも。しっかりつかまってて!」

「は、はい! ―――ってきゃあああああああぁっ!!」


 警告と同時にドラゴンが急降下し、重力を失って悲鳴を上げるラビ。ニーナの操るクリーパードラゴンは、すぐ目の前に迫った機雷をアクロバットな飛行技で素早くかわしてゆく。急降下の次は急旋回、くるくるっと体を回転させて急上昇したかと思えば、そのまま失速しストールターン。再び急降下して木の葉のようにヒラヒラ落ちたかと思えば、そのまま九十度直角に曲がって勢いを殺さず直進!


 次々繰り出してくる曲芸飛行に、俺とラビは背筋を凍らせた。まるで生きた心地がしなかった。


「おっと危な!」

「ひゃあああぁっ! ちょ、ニーナさん! もっとゆっくり行ってくださいっ!」

「無理! クリーパーちゃんはスピードと曲芸飛行が売りだから!」

「だからってこんな危ない曲芸を今ここで披露しなくても避けられるじゃないですか!」

「ただ通り抜けるだけじゃつまらないって! ほら、しっかりつかまってて! しゃべってると舌噛むよ~!」

「いやぁああああああああああっ!!」


 再び無重力が襲い、ラビの体が一瞬宙に浮く。爆弾をった気球の上スレスレを飛び越え、波状飛行を繰り出すドラゴン。ラビと俺はボールのように背中の上で上下に跳ねて、危うく放り出されてしまう寸前だった。


「あはははっ! 久々の曲芸、メッチャ楽しいんだけど~~~!」

「ニーナさんっ! お願いですからもっとゆっくり飛んで――ひゃあああああああっ!!」


 ラビの懇願こんがん虚しく、ニーナはその後も地雷原の上でダンスを踊るように機雷原マインフィールドの中で曲芸飛行を続け、散々俺たちを振り回した挙句、ようやくウッドロットのある島へ降りてくれたのだった。


『………おいニーナ、今度またふざけてあんな曲芸したら、俺の船倉ホールドに放り込んでウィークスラッグの餌にしてやるからな』

「あははっ、おじさんも楽しんでくれたみたいで何よりだよ~」

『楽しんだ? 馬鹿言え、肝が冷えたわ! いくら自分がドラゴンの操縦に手慣れてるからって、今のはやり過ぎだろ! 危うく俺まで死ぬとこだったんだぞ!』


 あまりにGがすごくて、飛行中俺の転移したフラジウム小結晶がラビの首から外れそうになったときは、もう自分の死を覚悟したくらいだ。あんな生死の境を彷徨さまようのは二度と御免(こうむ)りたい。


 ニーナの後ろに乗っていたラビも相当身に応えたらしく、バランス感覚が完全に狂ってしまい、ウッドロットへ降りる頃には、まるでやじろべえみたいにゆらゆら体を左右に揺らして目を回していた。


「あぅ……あぅ……あぅ……」

『おいラビ、気をしっかり持て。もうすぐウッドロットに着くぞ』

「し、ししょー、目の前に小さな小鳥さんがいっぱい飛んでて、面白いです……ピヨピヨ」

『おいラビ? ラビ~~~~っ!!』


 完全におかしくなってしまったラビを見て、ニーナは悪戯に笑う。


「あらら、ちょっとやり過ぎちゃった? まぁでも、しばらくしたら良くなるっしょ。悲鳴上げて泣き付いてくるラビっち、マジ超カワイくてヤバかったぁ~~~♥」


 そう言って頬を赤らめるニーナ。……さてはこのギャルエルフ、ラビが怖がる姿を見たくて、わざとあんな曲芸飛行をやりやがったな。この野郎、後でどうしてやろうか……


 などと考えている間に、ニーナたちの乗ったクリーパードラゴンはウッドロットにある巨大な大樹、ユグドラシルの根元付近にまで降りてきた。

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