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第116話 無敵艦隊、集結

 俺たちは、ポーラの言う「妙な音」の正体を確かめるため、彼女の指差すトンネルの奥を進んでいった。


 ――しかし、しばらく進んでいくと、やがて行き止まりに突き当たった。トンネルには鉄格子がはめられており、その先へは行かれないようになっている。


 そして、その鉄格子の隙間から垣間見えた光景を目撃した俺たちは、驚愕きょうがくのあまり息を呑む。


「こ、ここって……」


 鉄格子の隙間から見えたのは、巨大な地下施設――おそらく地下ドックだろう。広々とした空間の中に、王立飛空軍の軍旗を掲げた戦列艦が縦横無尽じゅうおうむじんに整列しており、船と船の間に渡された桟橋の上を、多くの飛空軍兵士たちが行き来していた。


 カーン、カーン、カーン―――


 さっきから聞こえてくる木槌を叩くような音は、どうやら軍艦の修復やメンテナンスをしている音が漏れたものだったようだ。


『こりゃヤバいな……軽く百隻は超えてるんじゃないか?』

「二百隻はありそうです……」

「いやいや、三百はあるっしょ!?」


 皆が停泊する軍艦の数を口にしていく中、ポーラが落ち着いた口調で答えた。


「――どちらにせよ、状況が悪化していることに変わりはありません。……まさか、王国がこれだけの戦力を隠し持っていたなんて……」


 二層、三層の砲列甲板ガンデッキを持つ砲百門以上を搭載する戦列艦が、縦横を埋め尽くすように整列している光景は、まさに圧巻の一言。中には、ドラゴン発着用の飛行甲板を両舷に備えた巨大な装竜母艦そうりゅうぼかんも配置されていて、甲板の上では何百匹ものコモン級、エイペックス級のドラゴンが丸くなって眠りについていた。


 これが王国の無敵艦隊アルマーダ……数や規模が俺の想像していた以上にデカ過ぎて、もはやため息しか出てこなかった。


「……あっ、あそこを見てください!」


 ラビが何かに気付き、鉄格子の隙間からある一点を指差す。


 隊列を組んで並ぶ艦隊の先頭に、他の軍艦と違い異様な外見をした一隻の巨艦。船体を漆黒の鎧に包まれたその軍艦は、艦隊の中でも一際異彩を放っており、強者の風貌を色濃く漂わせていた。


『デスライクード……ヴィクターの搭乗艦だ』

「やっぱり、もう王都に到着していたのね……」


 俺たちが王都へ来たとき、すでに指名手配されていたのも、いずれは俺たちがここへ来ることを見越した上で、ヴィクターが先手を打って国王に告げ口したのだろう。ヤツがタイレル侯爵を裏切ったのも、侯爵を殺した罪を全て俺たちになすり付け、大罪人に仕立て上げるため。海賊の悪評を国中に広めさせることで、俺たちを社会的に抹殺まっさつさせる――大方おおかやこんなシナリオだろう。さすがは元伝説の海賊の一人と言うだけあって、よく悪知恵わるぢえの働く男だ。


「これだけの艦隊があれば、この世界に再び戦争を起こすことも容易いわ……それだけは何としても阻止しないと……」


 ラビは一人そうつぶやきながら、グッと拳を強く握りしめた。



 無敵艦隊アルマーダを目撃した俺たちは、対策を練るべく、急いでクルーエル・ラビ号へと帰還した。


 王都のあるライナス大大陸の西側。山続きになった大陸の端は切り立ったがけとなっており、急斜面からは無数の太い配管が突き出ていて、そこから大量の汚水が垂れ流されていた。王都中の下水が、最後はここに辿り着き、全て空の底へと排水されてゆくのである。


 その排水管の一つからラビたちが姿を現すと、近くで待機していたクルーエル・ラビ号が接舷し、俺たちを拾ってくれた。


「――あ、お帰り。遅かったね」


 留守番役を任されて暇そうにしていたクロムが、大きなあくびをしながら俺たちを迎える。甲板上では、多くの乗組員たちが船長であるラビのから次の指示が出るのを待っていた。


『……さて、指名手配されてしまった今、今や俺たちは王国全土から追われる身だ。これで当分、王都にも近付けなそうにないな』

「ええ。仮に他の大陸へ逃げられたとしても、王国の空域にある限り、私たちがお尋ね者扱いされていることに変わりはない。王国の管轄空域から出るか、一旦ルルの港町へ引き返すしかなさそうだけど、道中で王国の船に見つかる可能性もあるから、長期間の航海も避けたいし………どこか、王国の目の届かないような近場に身を隠すことはできないかしら?」


 ラビがそう提案するが、王国の領内に、王国の目が届かない場所なんて、ルルの港町以外に存在するのだろうか?


『ポーラやニーナは、どこかこの近くに隠れられるような場所を知らないか?』

「……残念ですが、私は存じ上げません」


 ポーラも首を横に振る。だよなぁ……この分だと、きっとニーナも知らないだろう――


「………まぁ、知ってるっちゃ、知ってるけど……」

『そうだよなぁ―――って、知ってるのか!?』


 あっさり言うものだから、危うくスルーするところだった。


『どこなんだそこは?』

「………私たちの故郷だよ」

『故郷って……ひょっとしてエルフの隠れ里「ウッドロット」のことか?』

「うん……一応、あそこは王都から近いところにあるし、かと言って王国の船も迂闊うかつには近寄れない場所にあるからね。なにせ『エルフの()()()』って言われてるくらいだから、隠れるにはうってつけの場所かもしれないよ」

『なるほど……それなら、そこへ向かうのもアリだな』


 俺がそう言うと、ラビも肯定するように頷く。


「分かりました! では、エルフの隠れ里『ウッドロット』へ向かいましょう! ニーナさん、道案内よろしくお願いしますね!」


 ――こうして、俺たちはニーナの言うエルフの隠れ里へと進路を向けることになった。


 しかし、言い出した張本人であるというのに、ニーナの表情はどこか冴えない。


『どうしたんだニーナ? あまり乗り気じゃなさそうだが……』


 俺がそう尋ねると、ニーナは少し不満そうな顔をしてこう答えた。


「いや、だってさぁ……私、正直言って、あそこに戻りたくなかったんだよ……」

『戻りたくないって……故郷に帰りたくない理由でもあるのか?』

「いや、別にそんな理由とか、無いんだけど……」


 もごもごと口籠くちごもってしまうニーナ。俺は彼女が故郷へ帰りたくない理由を知りたかったのだが、答えたくない顔をしている彼女にそれ以上尋ねることもできず、仕方なく詮索せんさくすることを諦めたのだった。


「……はぁ、もう当分帰ることはないって思ってたけど、まさかこんな形で帰ることになるなんて……マジえるわ~」


 ニーナはそう独り言を漏らしながら、上着の内ポケットから懐中時計を取り出すと、蓋の裏に張られたサラの写真を眺めた。それからしばしの間、彼女は時計を握り締め、かつての過去を思い返すように、そっと目を閉じたのだった。

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