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第109話 解放された奴隷たち

 こうして、俺たちはロシュール王国の王都であるアステベルへ向かうことになったのだが、サラザリア城の陥落かんらく後、すぐに王都へ向かうことはせず、約一ヶ月ほどの間、ウルツィアの港町に留まっていた。


 で、そんな長期の間、俺たちが町で何をしていたのかというと……


 ガシャーン!


「皆さん、聞こえていますか? もう大丈夫です! 私たち『ラビリスタ海賊団』が、奴隷であるあなたたちに、再び自由をお返しします!」


 薄暗い地下牢の鉄扉が開かれ、ラビの通った声が響き渡った。それまで粗悪な牢の中に監禁されていた多くの奴隷たちは、やつれた顔を上げて光の差す方を見る。開けられた扉の外から漏れ出る光に照らされ、煌びやかに光る蒼い髪をなびかせたラビは、彼らにとってまるで救いの女神のように見えていたことだろう。


「お嬢様、ここがこの地区で三件目の奴隷商店になります」

「彼らを繋いでいる鎖を切って、全員を外へ出してあげて。四件目の商店は?」

「メリヘナ率いる別動隊が、囚われている奴隷たちを解放したとの連絡がありました。タイレル商会の残存勢力による抵抗を受けたようですが、人的被害は軽微けいびとのことです」

「分かったわ。ここが終わったら、私たちも加勢に行きましょう!」


 俺たちは武装した乗組員たちを引き連れて、町の各所に点在する市場や商店を訪れては、そこに囚われていた奴隷たちを解放して回っていた。タイレル商会が闇取引で扱っていた奴隷の中には、身寄りのない戦争孤児や、村を焼かれたエルフ族の女性、それに獣人の娘たちまで含まれていた。


『ほとんど女子どもばっかりじゃないか! 皆、金持ち貴族たちに買われて、なぐさみ者にされたり迫害されたりしてきたって訳か……』


 俺は、次々と解放されてゆく奴隷たちの姿を、ラビの首元に下がる結晶から眺めていた。


「ええ。王国側は奴隷取引を禁止していますが、裏ではこうして、日々非人道的な奴隷売買が行われていたんです。……でも侯爵が居なくなった今、闇取引の中心であったタイレル商会は求心力を失いました。こうした不当な奴隷取引も、徐々になくなっていくはずです」


 かつてラビ自身も、タイレル商会によって奴隷にさせられた過去があるからだろう。王都へ向かう前に、この町に居る全ての奴隷を解放しようと最初に言い出したのはラビだった。タイレル商会が潰れたからといって、この世界から奴隷制度を全て無くすことは不可能だろうが、ラビのように不当な扱いを受ける奴隷を一人でも多く減らしたいという意味では、この奴隷解放作戦はその大きな一歩と言えるだろう。


 そう思っていた時、唐突に近くの建物からドーンと音がして、空に白煙が上がった。


「何かあったのでしょうか?」

「あそこはニーナさんの隊が向かった場所です! 行きましょう!」


 ラビとポーラは、急いで白煙の上がる建物へと向かった。


 建物の前の通りには、既に多くの人だかりができており、ちょっとしたボヤ騒ぎになっていた。ラビとポーラが到着すると、建物の壁の一角がドカン! と音を立てて崩れ落ち、できた大穴から、数人の男たちが投げ出された。そいつらはタイレル商会の残党らしく、全員すっかり目を回してしまっている。


「……あ、おチビちゃんたちも、手伝い来たの?」


 壁の穴から声がして、埃まみれになったクロムが穴から出てきた。


「一体何があったんですか?」


 ラビがそう尋ねると、建物に空いた穴から、クロムに続いて続いて埃まみれのニーナが咳き込みながら登場する。


「えっほ、えほ………何があったも何もさぁ~、この白黒頭しろくろあたまが残党相手に暴れまくるせいで、もうメチャクチャ! 危うくこっちまで死ぬところだったわ!」

「でもニーナ、あの時好きに暴れていいって、言った」

「暴れていいとは言ったけど、限度ってもんがあるでしょうが!」

「クロム、"ゲンド"って、よく分からない。倒れてるコイツ、食べていい?」

「だから駄目って言ってるでしょ!」


 ……どうやら、この二人を一緒のチームにしてしまったのが悪かったらしい。クロムによってこしらえられた穴の中を見ても、確かに滅茶苦茶に荒らされていた。魚人の力、恐るべし……


「奴隷の人たちは全員無事だったんですか?」

「あぁ、それなら大丈夫。地下の物置に集められてたけど、白黒頭が扉を開けた途端、みんな怖がって奥の方に引っ込んじゃってさ~」

「それはマズいですね……後で私が行って、敵意がないことを伝えて来ます」


 空いた扉の前に立っていたのがニーナならまだしも、牙剝き出しの魚人が来たとなれば、そりゃ誰だって怖がるだろう。やはりクロムは船で待たせておいた方が良かったかもしれない。


「ニーナ、ここまでで何件の奴隷商店を回ったのですか?」

「うん? まだここだけ。だってこの白黒頭を止めるのに必死でさ~」

「私とラビリスタお嬢様の隊はもう三件目だというのに、まだ一件もさばけていないなんて、仕事が遅いのですね。もっとテキパキ動いてもらわなければ、お嬢様の作戦に支障をきたす可能性もあるのですよ」


 そう注意するポーラに、ニーナの眉間みけんがピクリと痙攣けいれんした。


「はぁ? 何よアンタ、私のやることにケチ付けようっての?」

「お嬢様の従者たるもの、与えられた任務は早急かつ確実にこなしてもらわなければ困ると言っているんです」

「あのさぁ、アンタと違ってこっちは転移魔術も持ってないし、こんなお荷物(クロム)まで抱えちゃってるんだよ。こんな状態でそうホイホイと何件も回れないっつーの」

「伝説の海賊ともあろう方が言い訳とは、見苦しいですね。『八選羅針会はっせんらしんかい』の一人と聞いて、どのような方なのか気になってはいたのですが、所詮はこの程度なのですね」

「なっ………そ、そういうアンタこそさぁ、主人であるラビっちを守るメイドでありながら、逆にラビっちに助けられちゃって、恥ずかしくないワケ? そんな奴がメイド長を名乗ってるなんて、マジ草しか生えないんですけど~?」


 ピクッ、とポーラの白い眉が動く。


 ……おっとこれはマズい。ここにも「混ぜるな危険」のコンビが居たことをすっかり忘れてしまっていた。

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