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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
六章

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46.

 彼は、目の前にいるのが『コリンナ』ではなく『ランチェスター公爵夫人』だと確信しているのだろう。


(私がランチェスター公爵夫人だと気付いたから、シュクレール商会はベル・アムールとの契約解除に踏み切ったということですね。これらの因果関係はわかりませんが……)


 エイヴリルは、立ち尽くすばかりのロラを見る。ロラは、目を見開き、額に汗をかいて呆然としていた。だが、コンスタンは冷酷に言い放つ。


「契約は今日付で解除だ。急いでほかの商会を当たるといい。うちは手を引く」

「で、ですが、旦那……そんなことを言われては、この店はどこから仕入れをしたらいいのか……この一帯に深く関わっているシュクレール商会に手を引かれたとなれば、どこの商会も相手にしてくれるはずがない。どうか、どうかお考え直しを」


 必死で縋るロラだったが、コンスタンは容赦がない。


「無理だ。今まで十分に甘い汁を吸ってきただろう? この店の中抜きは、他の店よりもかなり高い水準で行われている。書類には豪華な店を維持するのに必要という理由が書いてあるが……本当かな?」

「くっ……」


 従うしかないと判断したらしいロラは、蒼い顔で唇を噛み、ペンを持つ。この状況ではどうしようもない。抵抗しても無駄と判断したのだろう。


 それを見ながら、コンスタンはロラではなくエイヴリルへ話を振った。


「実は、うちの商会に国家会計局の監査が入った。どういうことなのか、架空の会社を使い完璧に隠してあったあれこれが見つかってしまいそうでね。この店との関わりをつっこまれた。十一区の娼館との取引なぞ、微々たる金額で本来は見逃されるところだ。……君に心当たりはないのかな?」

「……存じません」


 そう言いつつも、エイヴリルはディランがコンスタン・シュクレールの名前にひどく反応していたことを思い出す。


(もしかして、ディラン様が手を回してくださった……? でも、どうして)


 しかしこの状況下でディランが優先して動くとすれば、シュクレール商会に監査を入れることがエイヴリルの解放に繋がる場合だけだ。自分がどう動けばディランの邪魔にならないか把握しきれないエイヴリルは、矛先を逸らすようにおっとりと微笑む。


「買いかぶりですわ。いくら私がランチェスター公爵夫人で、仮に公爵家や社交界を動かす人脈を持っていたとしても、ここにいては何もできないですから」

「そうか」


 それに、仮に気づいて手を回してくれたとしても、こんなにことが早く動くはずない。


 ディランがこの店に来てからまだ四日目なのだ。だが例えば、極めて有能な人物がシュクレール商会の調査に入ってくれていればまた話は変わってくるものの、そういう人間は往々にして多忙だ。


 今回はそういったケースには該当しないだろう。そんなことを考えていると、書類への署名を済ませたロラが茫然自失としているのが見えた。頭を抱え、ひたすら「なぜこんなことに」と繰り返している様子は、いつもの守銭奴の彼女の見る影もない。


(ロラさん……大商会に取引を打ち切られた店が、自分にとって都合のいい仕入れ先を探すのは難しいことでしょう。これまでのように最高級の食材を仕入れることは難しくなりますし、あらゆることが回り回った結果、高級娼館としての地位が危うくなる可能性もあります)


 それにもし今後、無事に仕入れ先が決まったとしても、ベル・アムールの女性たちはもう店経由で買い物はしなくなるだろう。修道院経由という新たなルートが開拓されているためだ。


 エイヴリルは守銭奴のロラが嫌いなわけではなかった。がっくりと項垂れる彼女を見ていると同情してしまいそうになるものの、この店を成り立たせている仕組みには滅びてもらいたい。手を差し伸べるわけにはいかないのだ。


 一方、書類を確認し終えたコンスタンは、それらを付き人に渡すとニヤリと笑う。


「もうすぐ、ここは渦中の店になるだろう。私はその前にここへ来られて幸運だった。間一髪だ」

「え?」


 意味がわからず首を傾げると、彼は吸っていた煙草を陶器製の灰皿の上に立てて消した。


「まもなく、国家会計局の捜査が入る。罪状は『うちの架空子会社との不正取引、不正会計への関与の疑い』だ」

「は……はぁっ⁉︎」


 放心状態になっていたはずのロラが悲鳴をあげる。けれど、コンスタンはすっと立ち上がり吐き捨てた。


「うちは、王妃陛下のご実家、リンドバーグ商会にも攻勢をかけられている。もともと、あの生意気な王太子と婚約をしたときから警戒はしていたが、君に関わったことで面倒なことになったよ。私には、この店を守ってやる義理はないんだ」

「アレクサンドラ様のご実家……」


「君が本当にランチェスター公爵夫人だとするのなら、悪女と見せかけて実際にはとんでもない才女だという噂だ。君に財布を空にされた私には、正直心当たりがある」

「!」


 確かに、あの時はコンスタンに所持金全額を出させることになった。けれどあれは完全に事故だ、と弁解しようとするエイヴリルに、彼はその隙を与えない。


「君なら、十一区の女性たちの権利も、この街と外の世界を隔てる橋も、全て自分で手に入れられるはずだ」


 コンスタンはそういうと、鮮やかに部屋を後にする。


 それを見送りながら、エイヴリルは思案した。


(国家会計局の捜査が入るということは、ここは法律が通じない場所ではないと――?)


 あらゆる形での人身売買がここでは犯罪にならない。つまり、抜け道を辿っての捜査のはずだ。このタイミングで、そんな事態になる要因はただひとつ。


(ディラン様……!)


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なにとぞよろしくお願いいたします……!

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