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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
六章

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25.

 そうして迎えた五ゲーム目。


 最終ゲームということもあり、賭け金はこれまでの倍でスタートすることになっている。


 ずっと無邪気な初心者でい続けるつもりのエイヴリルだったが、配られたカードを見て、それが少し特別なものであることに気がついた。


(これはハートのAとK。初心者の私でもわかるぐらいに強い数字の組み合わせで、しかも同じ絵柄です……)


 これで降りるのはもったいないだろう。一番強い数字で争うハイ・カードになった場合に、最も有利な組み合わせだからだ。


 思わず顔を上げてディランの方を見ると、彼は視線だけでエイヴリルに応じた。小さく頷いてもらった気がして、ここは勝負に出るべきだ、と直感する。


 けれど、ここでエイヴリルにとっては意外なことが起きた。クリスが降りたのに続いて、ディランまで勝負から降りてしまったのだ。動揺しつつ、エイヴリルは理由を推測する。


(私が一番強いカードを持っていると察したから、ですよね)


 たった四ゲームしかしていないが、この遊びには状況を見極め、時にはあっさり引く潔さが必要なのはわかってきた。初めに配られる二枚のカードが弱ければ、どうしようもない。


 確かに、上級者となれば駆け引きでそれを強く見せることはできるかもしれない。現に、一ゲーム目ではディランがそれに近いことをやってのけていた。けれど、自分にはそんな芸当はできないのだ。


(ですが、本当にそうでしょうか……)


 相手チームでは、ブロンドに髭の男が勝負に乗ってきていた。三ゲーム目でクリスから多額のチップを巻き上げられた男だ。


 ニヤニヤと笑い、エイヴリルがカードの強さもポーカーのルールもわからない初心者だと思い込んでいるのが伝わってくる。


(確かに、私は一ゲーム目でカードを碌に見ることもなくベットしましたから。その振る舞いが効いているのかもしれません)


 男はチップをレイズして吊り上げる。クリスにされたことを自分もやり返したいのだろう。そうしているうちに、共有カードが三枚開いた。


(ダイヤとスペードと……あ、ハートがあります)


 今手持ちの二枚と合わせて役はできていないが、ある可能性に気づく。


 ここに、あと二枚ハートの絵柄が揃えばフラッシュ――同じ絵柄が五枚揃った非常に強い役ができるのだ。まさかそんなとは思いつつ、エイヴリルの脳裏にはベル・アムールで最初の常連になってくれたギャンブラーの言葉が浮かぶ。


――『君は戦わないのに、最後の最後で勝つタイプだもんな。俺の分野でいうと、天才的な閃きから勝利を手にするタイプか。度胸も十分だ。圧倒的不利な状況でも、すべてを惹き寄せる力がありそうだ。いいか。度胸っていうのはな、本当に大事なんだよ』


 あの時は全く意味がわからなかった。今もあまり意味がわからないことに変わりはないが、ギャンブルに大切なことは度胸なのだろう。


(それでは、私も)


 決意を固めたエイヴリルは、賭け金を吊り上げることを選択した。幸い、これまで勝負に参加せず降りてばかりいたおかげで賭け金は潤沢に残っている。まだ十分に勝負できるはずだ。


 エイヴリルを見て、相手もレイズを選択してくる。賭け金がさらに上がった。四枚目のカードが開く。


 ハートの3。


 エイヴリルは息を呑んだ。


(次でまたハートが来れば、フラッシュが完成します。ですが、必ずハートが来るという保証はどこにもありません)


 けれど、ブロンドの髭の男を微笑んで見つめ、勝負続行の意思を表示する。額にわかりやすく汗をかいている彼はここで降りるかと思ったが、ゲームを続行した。


 運命の五枚目のカードが開いた。スペードのQだった。


(そううまくはいきませんよね)


 エイヴリルは手元のカードに視線を落とす。ここでハートが来ていれば、フラッシュが完成しているはずだった。けれど、エイヴリルのカードはハートが四枚。これでは何の役にもならない。


 ブロンドの髭の男は、エイヴリルが先ほどのようにわかりやすい態度を取らないのを確認し、少し落ち着きを取り戻したようだった。勝利を確信し、最後の賭けに乗ってくる。


 彼はチップ数枚を重ねると指で軽く弾いた。


「ベット」


 もしかして、彼の手元には強い役が成立しているのかもしれない。エイヴリルがフラッシュのチャンスだったのだから、彼にも同じチャンスが来ていた可能性もある。


 けれど、彼は三ゲーム目でクリスにこてんぱんにされていた。この最終ゲームでは、その負けを取り戻そうと自分を見失っていても不思議ではないし、実際にそんな素振りも見せていたのだ。


 つまり、エイヴリルが取る行動は。


(度胸が大事です……!)


 エイヴリルは顔を上げると、目の前のチップ全額を前へと押し出した。


「全額をお願いします」

「「「はぁっ⁉︎」」」


 対戦相手三人全員がわかりやすく驚いた表情をしている一方で、ディランとクリスは動じることなく穏やかにこの場を見守っている。


(これでいいはずです)


 この場で大事なのは、実際にフラッシュが揃っているかどうかではない。揃っているかもしれない、と相手にプレッシャーをかけることだ。


(私は初心者だと侮られていましたし、実際にその通りです。ですが、ディラン様とクリスさんが初心者アピールに協力してくださっていました。ということは、チャンスの場面では逆にそれを利用しろということです。早くに気がつけてよかった)


 加えて、エイヴリルの手元に残っているチップはかなり多額だ。これがなければ、コリンナの罰金は払えない。


 そもそも、ディランが一瞬でエイヴリルの状況を理解してくれたおかげで、コリンナの金を増やしてやる必要はなくなってしまった。


 それなのになぜポーカーをしているのかということは置いておいて、『コリンナの罰金を払うために金を増やす』という目的がある以上、ここでエイヴリルが手持ちを全額賭けるのは、対戦相手にとって間違いなく大きな意味があるだろう。


 ブロンドの髭の男は、頭を抱えしばらく悩んだ後で、小声で呟く。


「フォールド」


 それは、この勝負から降りるという宣言。静かに見守っていた会場から、わぁっという歓声が起こる。


 初心者だろうと侮っていたエイヴリルに完全にしてやられた形になった対戦相手は、悔しそうな笑みで聞いてくる。


「ハンドは?」

「こちらです」


 エイヴリルは手札を表にしてボード上に置く。何の役も成立していない、一番強いカードとしてAがあるだけの手札だ。対して相手は、絵柄違いの同じ数字が三枚揃ったスリーカード。


 本来なら、エイヴリルの方が負けている組み合わせだ。オープンになった手札を見つめつつ、ブロンドに髭の男は唖然としている。


「こんな勝ち方……。君、初心者だったんじゃないのか?」


 すると、見守っていたディランが笑って応じるのだった。


「貴殿は何をおっしゃるのか? もともとポーカーとはこういう遊びではないですか」


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