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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
六章

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24.

 こくりと頷き、息を整えるエイヴリルの横で、コリンナが「ねえ」と一人の男を呼び寄せた。さっき、彼女が煙草をもらっていた男である。


 何をするのか、と見ていると、彼女は微笑み一つで男に財布を出させた。コリンナに見惚れている男は、そのまま流れるように財布から紙幣の束を出した。


(こんな芸当ができるのなら、初めからポーカーでの勝負など必要なかったのでは⁉︎)


 驚くエイヴリルだったが、誰もこのゲームを止めようとしない。野次馬たちはいい娯楽として勝敗に関する賭けを始めているし、何よりもディランが席を立つ様子がなかった。


 そうして、コリンナ――ではなくコリンナの恋人候補の財布の中身全部がディラン側のチップとなってしまった。先方の三人は、彼らを頼った女性への見栄から、その数倍の金額を持ちチップとしたようだった。


(ルールは詳細には存じないのですが、普通に考えれば、もし総取りできた場合、コリンナの罰金は余裕で支払えるほどの額になるのではないでしょうか……)


 遠い目をしつつ、目の前のことに話を戻したい。


 このポーカーは三対三のチーム戦で、五回のゲームで競うらしい。最終的に多くのチップを手にしていたチームの勝ちというルールである。


 そうしているうちに、二枚のカードが配られた。カードを見たエイヴリルは不安げにディランとクリスの方を見る。騙し合いが大きな意味を持つというポーカーの性質を考えると、手札の強さについて、言葉で言及するのはルール違反になるのだろう。けれど。


(私は初心者です。ですので、ここはそれを逆手にとって行動するのが一番皆様に迷惑がかからないような気がします)


 本で読んだことがあるため、一応、カードを使って作る役の種類やそれぞれの強さは頭に入ってはいる。ここで、虚勢を張ってさも強者かのように振る舞えたらいいのだが、エイヴリルにはそこまでの知識はなかった。


 何よりも、チップの元手はコリンナのポケットマネーではなく、あの煙草の男の財布である。勝ってきちんと返さないといけないため、冒険はできないという事情もある。


(コリンナは私たちが手を抜かないよう、あの殿方にチップを負担させることにしたのだったらすごいですが……きっとそんなことは全く考えていないでしょうね。さすが、傾国の悪女です……!)


 義妹の勘の良さにうっかり感動しそうになったエイヴリルだったが、すぐにゲームが始まった。


 一ゲーム目、エイヴリルの手元には絵柄違い、数字も弱いカードが二枚配られた。


(これでは、役を作るのは難しそうです。一番強い数字――ハイカードでの勝負になっても勝てません)


 どうしようかと迷っていると、敵チームのベットが終わり、もう順番が回ってきてしまった。エイヴリルの前に順番が回ってきたディランは賭け金を上乗せし、クリスはカードが弱かったのか既に勝負から降りている。


 エイヴリルは手札二枚を見ると敢えてにこりと笑い、皆の真似をして勝負に参加することにした。その瞬間、相手の紳士たちが視線を合わせてにやにやと笑う。


 エイヴリルの行動が『何もわからず、とりあえず勝負に乗ってみた』にしか見えなかったのだろう。格好のカモにされている感はある。


 すると、隣にいるディランの左手の小指が、エイヴリルの右手の小指に軽く触れる。大丈夫です、と伝えるために、エイヴリルはそのまま手を動かさなかった。


(恐らく、ディラン様の手札は強いのでしょう。このゲームはディラン様にお任せするとして、私は無邪気な初心者だと思わせておくのがいいはずです)


 言葉を交わすことも、視線を合わせることもできないが、ディランには伝わる気がする。


 狙い通り、先方も二人が勝負に乗ってきたが、結局は次のターンでディランの持っているカードが強いと読んで降り、エイヴリルたちのチームが勝利した。


 二ゲーム目は、今度は逆の展開になった。


 エイヴリルだけでなく、ディランもクリスも手札が弱かったらしい。二人はすぐに降りた。初心者らしいプレーを心がけているエイヴリルはぜひ乗りたいところだったが、カードがあまりにも弱すぎた。


 首を傾げてディランとクリスを一瞥し、残念そうにフォールドを宣言すれば、二人は示し合わせたように安堵の息を吐いてくれた。


 まるで、『初心者が何もわからずに突っ走るのをやめたことに安堵するチームメイト』の演技に、エイヴリルは心の中で賞賛する。きっと、これで自分の役回りは果たせたはずだ。


 ともあれ、相手チームの勝利となった。


 三ゲーム目は、意外なことが起きた。


 これまでずっと静かだったクリスが、いきなり強気の攻勢に出たのだ。手札が相当強かったのか、彼は笑顔のまま賭け金を一気に釣り上げていく。


 それを見ていたディランが思わず吹き出した。見たことがない光景に、エイヴリルも思わず目を丸くしてクリスを凝視してしまう。


(ク、クリスさんって……こういうタイプだったのですね……⁉︎)


 しかし、それではまだ終わらなかった。


 ボード上の共有カードの四枚目が開くと、クリスは一瞬も考えることなくまだ賭け金を釣り上げ、さらに五枚目が開くと流れるように手持ちの賭け金をほぼ全額ベットした。


 そうして、涼しい顔で勝負に残っている紳士を見つめている。相手の紳士も手持ちのカードがそれなりに強いからこの勝負に乗っているのだろう。


 けれど、いくら何でもクリスの圧は強すぎではないだろうか。


 エイヴリルにはポーカーのルールがよくわからない。けれど、想像するポーカーのお手本のようにしっかり翻弄されている相手を見て、エイヴリルは学びつつ、少し同情してしまった。


 ディランはそれを楽しそうに見ているし、エイヴリルはエイヴリルで、クリスがいつも感情の読めない笑みを浮かべている理由がわかった気がした。


(実は、ものすごくアグレッシブな性質なのを、笑顔で隠していらっしゃった……?)


 彼には一生逆らわないでおこう。いや、逆らう機会などもともと皆無なはずなのだが、少なくとも怒らせることがないように頑張りましょう、と心に誓う。


 もちろん、この三ゲーム目はクリスが相手から多額のチップを引き出した上で勝利したのだった。


 四ゲーム目は、ディランが勝負に乗ろうとしたが、相手が賭け金を釣り上げたのを見てすぐに降りた。その真似をしてエイヴリルも降り、相手チームの勝利となった。


 ここまでで、それぞれのチームが二勝二敗。


 三ゲーム目でクリスが大きく稼いでくれたものの、コリンナの罰金にはまだ足りなかった。


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