19.
ディラン視点の回です。
◇
貴族サロンへ向かう馬車の中。ディランに同行するクリスは、馬車に乗る直前に届いていた手紙を出してみせる。
「ディラン様。リンドバーグ伯爵家から急ぎの要件だそうで」
「? ……これは」
封切られていたそれを開き、目を通す。そこに書いてあったのは予想外の報告だった。
「リンドバーグ伯爵家にある、アレクサンドラ様のクローゼットからドレスが消えた、と?」
覗き込んできたクリスも不思議そうな顔をしている。
「脱走したコリンナ・アリンガム――エイヴリル様の義妹が持って行った可能性が高いと書いてありますね。盗みをして脱走ですか……イメージ通りの方ですねえ」
「エイヴリル捜索の手がかりになるかもしれないと教えてくれたのか。……コリンナ・アリンガム、これから行く貴族サロンにいたりしてな。フェルナンが言っていた新人娼婦が彼女だとしたら、全てが一致するな」
「笑えませんね。無駄足になります」
二人、遠い目をしてため息をつく。こんなところでも妻の義妹に邪魔されるのか、と怒りすら感じた。
エイヴリルがいなくなってもう五日目である。決して諦めてはいないが、初日や二日目とは捜索先が変わってきていた。
それは、エイヴリルが事故に遭ったわけではなく、事件に巻き込まれてしまった可能性が高いという意味でもある。尚更、心配は募っていく。
「ディラン様。それでもとにかく行ってみましょう。何か手がかりがあると信じて」
「ああ」
馬車は三区にある屋敷の前で停まった。よくあるタウンハウスだと思えば、一歩門の中に踏み込んでみると想像とは違う光景が広がっている。
目隠しをするように二重に巡らされた生垣と、狭い中整然としすぎていて無機質さすら感じられる庭。そこでは、黒いスーツを身につけ、招待状を手にしたフェルナンが待っていた。
「……案内しましょう」
「頼む」
この貴族サロンは会員制で、秘密が守られる仕組みが受けているらしい。そのため、招待状を受け取るか、会員に紹介してもらうかしないと、パーティーに参加することはできない。
裏社会と繋がっていると噂されることもあり、この極めて短期間ではローレンス経由でも招待状の入手は難しかった。フェルナンの同行者としてここに来られたのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。
「先ほど、王妃陛下の実家から手紙が届いた。エイヴリルとよく似た外見の妹がドレスを盗んで逃走中らしい」
「はぁ?」
心底意味がわからない様子のフェルナンに、ディランは補足する。
「エイヴリルの義妹は本物の悪女――というかただの酷い女だ。自分の不始末をエイヴリルに押し付けたり、結婚式でエイヴリルと入れ替わった前科がある」
「姉妹とは思えないですね、それは」
「だが顔はよく似ている」
「……!」
そこまで言ったところで、フェルナンは大体を察したらしかった。
「つまり、十一区の娼館を騒がせているのは、エイヴリル様の妹だと?」
「ああ、その可能性がある。今日ここへ来たものの、無駄足かもしれないな」
「……」
二人は明らかにがっかりしながら受付を済ませ、廊下を進んでいく。
あえて照明を抑えてある廊下では、既に大勢の人が談笑している。雰囲気は仮面舞踏会と似ているが、顔を隠している人間はいない。
それだけ、この会は秘密のベールに包まれている安全な場所ということなのだろう。一方、ディランの落胆を察しているクリスは気遣うように進言するのだった。
「誰かと関わることなく、コリンナ嬢が見つかるまではカードゲームでもして待ちましょうか。そして人違いとわかったらすぐに退散を。それから、即アレクサンドラ様にご連絡ですね」
「だな」
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