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だれかの箱庭 ~クレオメの夢~  作者: なぁさん
Chapter.6_オボロキザシタ
22/26

2

 多分どこかの屋敷の部屋。貴族様が使うような立派なベットに横たわるアタシの手を優しく握る知らない男。その男は悲痛とも言える顔で必死にアタシに話しかけている。涙まで流して。


「―――――― ――――――――――」


 けれど、全く聞こえない。すごく必死に話しかけているようだから、なんとか返してあげたいけど……知らない人にそんな顔されてもなんて言ったらいいか……

 自覚はないけど、多分今のアタシは危険な状態なんだろうな。体も口も動かない。なんでだろ……事故にでもあったのかな? それともなんかの病気で、もう助からないような状態なのかな? やだなぁ……せめて知っている人に看取って欲しいなぁ……母さんやビットさん、グレイくんにリアちゃん、エレーナお姉ちゃん。街の人達……知らない男の人と二人きりはやだよぉ……

 ………………なんで心はこんな落ち着いているんだろう……知らない男が泣いて必死に話しかけているこの謎の空間。気味が悪いでしょ。普通に。なのにこんなこと考えられてるとか余裕か? 夢にしても、知らない男と一緒はは嫌なんだけど……

 今もずっと握られている手には微かに感触を、熱を感じる。気がする。嫌すぎるこの空間。



 …………ん? 待って……?

 ふと視界に映っている自身の手に違和感を感じる。なんというか……ああそう! 綺麗すぎる! 手が! 悔しいけどいつもより! 

 アタシの手より綺麗で透明感のある華奢な手。多分、剣はおろか、農具も触ったくとないんだろうな……王立学園のご令嬢方もみんな綺麗な手をしていらしたけれど、その比じゃないかのような……てか細すぎるな。ちゃんとご飯食べてないのか? 不安になるわ。どれほど寝ていたのだろうか。


 なんて考えていたら、アタシ? の手が男性の手からするりと抜けて、指も視認でき


(指輪してるぅ!!!?)


 え!?? 嘘嘘嘘!!! 指輪してる! 薬指! キャー! 待って……? …………薬指に指輪してるぅ!

 これ絶対アタシの手じゃないでしょ! 確信した! 私の手じゃない! だってやだもん! 目閉じちゃお! キャー! てか男の人の左手にも指輪があったように見えたし……まさかまさか……? キャー! 本当にマジで!? キャー! い・い・なぁ!!!


 これ以上はいけない。確かに視認した薬指の指輪にはしゃぐ心をなんとか必死に頑張って落ち着かせて、ギリギリのアタシの頭で考える。

 本当にこの状況はなんなのか、アタシが誰かの夢でも追体験しているかのような感覚? とでも言えばいいのだろうか……きっとそんな感じなんだろうな。 いいなぁ指輪……

 さっきまで何をしていたのか思い出そう……確か、旅のお姉さんことセビアさんと一緒に母さんを探しに街に行って、教会まで行ってシスターと話してその後……そうだ。アタシに霊魂が付いてるって事ですぐに屈強なシスターが教会内に来て連行されたんだ!


 いや、屈強なシスターってなんだよ!!!


 あの教会にあんな人いたっけ!? 学園の長期休暇で実家であるフォクスリー領に帰ってきたから、その間にか? アタシが学園行ってる間の数ヶ月で間に変なこと起こりすぎでしょ! 今もだけどさぁ!

 ひとまず頭を整理できたと思いたいアタシは目を開けた。

 さっきまで横になっていたのに、突然視線が縦になっていたのに驚いて少し立ちくらみのような感覚を起こした。崩れる感覚を覚えて無意識に体を支えようと机にしがみついたが、椅子に座っていたようで、上半身少し揺れた程度で済んだ。あんまり気分は良くない。


「あら、目が覚めたのね。おはよう♡」



 声がして、下がっていた視線を上げて対面を見れば、アタシをここへ連れてきた屈強なシスターがいた。


「え!? あ……お、おはよう……?」


 ほぼ反射的に返事をしたら声が出た。


「あ、声出るじゃん……」

「そりゃ出るでしょうよ。イオっち別に喉悪くないでしょ?」


 いつの間にか横にきて水を机に置いていたシーベルが呆れたように言った。


「だってさっきまで声だけじゃなくて耳も聞こえなかったんだもん」


 そう自分で言って驚いた。当然のように相手の声に応答できてること気がついて実感していた。

 シーベルが屈強なシスターに視線を向けた。


「……イオっちちゃんが見た霊魂の記憶ではそうだったのでしょうね」

「霊魂の記憶……?」

「そう。記憶。あなたに憑いている霊魂の記憶よ。本来は対話してもらうための時間だったのだけれど、時々そうゆうことがあるのよねぇ……良くも悪くも、相性が良かったのでしょう。その霊魂が大切だと思っているその時の記憶と思考が頭の中に入っているでしょう? その情報を元に後はあなたが解決してあげるのよ。勿論! キクモ達も力になるわ♡」


 そう言って屈強なシスターことキクモ? がアタシに向けてサムズアップをした。あとシーベルも同じくサムズアップ。


「そうは言ってもなぁ……」

「何? 早速難問でもあったの?」

「いや……アタシに憑いてる霊魂が女性だったことと、アタシが見た記憶? だと知らない男の人がいたぐらいしかわかんなかったし……」

「あら……? その女性の思考とか心の声は?」


 そう聞かれ首を横に振る。するとキクモは困惑を表情に出した。


「それは……おかしいわね」

「やばかったりするかな……?」

「キクモも初めてのことだからよくわからないわ……どうしましょう……」


 そう言って聞くもはまた考え込むようにしているが、とりあえず外の空気が吸いたいかも。


「…………外の空気吸いたいわ。ここから出てもいいかしら?」

「あ! ウチも掃除道具ほったらかしにしてたわ! お姉さんが端に寄せてくれてたりしないかなぁ~。あとそうだ。イオっち、さっきのお姉さんは領主様んとこ行ったはずだよ! 伝えたかんね!」


 シーベルがそう言いながら扉を開けて小走りで出て行った。その後を続くようにゆっくりと立ち上がり歩く。体にだるさも無く歩みも問題はない。

 なのになぜか違和感を感じた。



 教会から出てすぐに違和感を感じた。なんて言えばいいのか……すごく久しぶりに外に出たような感覚。さっきまで見てた霊魂の記憶とやらのせいかな? 深く深呼吸するのに謎の感動があった。


「なんだろ……この気分は……」

『ええ、本当に。懐かしい……』


「あ、わかるぅ~。懐かしいね」

 不思議だぁ~…………なんて思った。



———ん?



 辺りを見渡す。


「…………あれ?」

『? どうかしたの?』

「いや……」


 周りには誰もいない……


『それよりも早く行きませんか?』

「行くって……どこに?」

『あの人のところ以外にどこがあるのですか?』

「あの人って誰ですか?」


 待って待って待って! アタシは今誰と話しているんだ!?


 嫌な汗が首から背中へ流れていくのを体が感じる。アタシは今確かに会話をした。でも周りには人影はない。人自体は視界に映りはするがそれだけで、日常会話する距離にはおらず大きな声を出していたであろう人もいない。そもそも、さっきまで聞いていた声は叫んだようなモノではなく、落ち着いて安心できるような……そんな声。

 流石に気のせいで自分を誤魔化すのは無理な段階まで来ていると思う。いや来ている! 嫌すぎる!


「勘弁してよぉ…………」

『ごめんなさいではありますけど、私からしても好き勝手にアナタと共にいる訳ではないにも関わらずその言いようでは流石に傷つきますわ……』

「それは……ごめんなさい」

『いえ、そもそもは私せいで……こんな目に遭わせてしまって……申し訳ございません』

「いやいやアタシこそ…………」

『いえ、私が…………』



「二人して何やってるの……?」



 なぜかお互いに謝り倒していると後ろから声をかけられた。振り向けば、先ほどまで話していたキクモがまるで残念な人を見るかのような目でアタシ達を見ていた。


「なんでそんな目で見るんです?」

「イオっちちゃんアナタ今、側から見れば一人で何もないところに謝ってる不思議な人よ?」


 優しく言ってくれてはいるが、要は俗に言う『やばいやつ』なのでは……?

 辺りを見れば多少見られているかのような視線を感じる。教会の敷地内、それも建物のすぐそばで大通りからはあまり見えにくい場所だったからよかったものの、これがもしがっつり街中だったと思うと……考えたくないや…………


『迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません』

「そんなに改まらなくてもいいわよぉ~。実害はイオっちちゃんが受けるだけなんだし」

「嫌なんだが?」

「冗談よ♡ それよりも、霊魂さんの声がキクモにも聞こえたのは驚いたわ」


 そう気軽く言葉を言うキクモの目は真剣だった。


「珍しい事?」

「少なくとも、キクモは初めての経験だわ♡ 話も聞いた事ないし、初めての事例かもしれないわね」


 なんて言うシスター・キクモは真剣さの中にも楽しみを見出すかのように言う。他人事だからって楽しまれても困るが、この分なら十分力を貸してくれるだろう


「……どうすればいいと思う? やることはさっき言ってたことと変わらない感じかな?」

「そうね…………まずは『いつも通り』が通じるかを試すのがいいと思うわ」

「わかった」


 キクモとの話を区切り霊魂に語りかける。まぁそうだよね。例外には例外だなんて言う人が多いけど、それは常套手段を試してからやる事だものね。


「えーっと……幽霊……さん? 待って。まず名前あるの? 生前のものって事になるよね?」

『名前…………わからないわ。あの人はもう呼んでくれないのです』

「じゃあ『人妻さん』でいい? 素敵な指輪だったから」

「もう少しマシなものはないの?」


 キクモがツッコミを入れてきたが、アタシは首を横に振った。だって一番印象的だったんだもん。指輪。


「嫌なら早く思い出す事だね! それよりも人妻さんの悩みを解決するのが早いかもしれないけど」

『フフ。競争って言うものですね。うまくやって見せましょう』

「お? 人妻さんってノリがいいんだね」

『はぁ、そうなのですか? まぁいいでしょう』


 いいんだ……なんて言うか、人妻さんって所謂天然? な人ってやつだったのかな?


「イオっちちゃんと人妻さんはもうすっかり仲良しさんね♡」

「茶化さないでよ。でもまぁ、人妻さんは少し慣れたかも」


 まぁ、意思疎通もできてるし、やり切るしかないから吹っ切れたってのもあるけど。他の霊魂とかは自信ない。でもそれをわざわざ言う必要はないだろうし、今は目の前の事を。


「ほらほら人妻さん。お悩み、言ってみなさい。アタシが華麗に解決してあげるわ!」


 

『いろんな人に迷惑をかけてしまっているあの人を止めて欲しいのです』



 うーん、思った以上に内容がざっくりしすぎていて少し不安になった。

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